安倍政権と尹政権の共通点は? 「介護サービスの市場化」 [介護のジレンマ①]
2024.11.17 06:00 配信
女性新聞 申茶仁(シン・ダイン) 記者

[女性新聞特別企画―介護のジレンマ:介護労働の価値を認めろ①]
日韓介護ヘルパー座談会《上》
日本、2019年、介護ヘルパー3人が「介護の価値」をめぐり国家を相手に賠償請求訴訟を提起
韓国、ソウル市社会サービス院を廃止し、フィリピン人家事管理士を導入

2024年6月10日、ソウル市社会サービス院の解散が発表された後、ソウル市社会サービス院の死守と介護労働者の雇用保障を求めるリレー・ハンスト記者会見。この日、オ・デヒ支部長が抗議の剃髪パフォーマンスをした。ⓒ公共運輸労組ソウル市社会サービス院支部


「本当に恥ずかしい。こんな日本の姿は正直言いたくないけれど、韓国にはこうした社会になってほしくない」。

2024年11月8日に女性新聞と公共運輸労働組合ソウル市社会サービス院支部が共催した「日韓介護ヘルパー座談会」で、介護ヘルパー歴30年以上の藤原るかさんはこう語った。日本では「介護の社会化」を支えてきた介護保険制度が崩壊しつつあるからだ。

介護保険は、韓国の老人長期療養保険制度と同様に、65歳以上、または40~64歳の特定疾患を持つ人に看護や入浴などの介護サービスを提供する日本の社会保険制度である。保険料は年金や健康保険から控除され、国と地方自治体が財源を支援している。

2024年11月8日、女性新聞と公共運輸労組ソウル市社会サービス院支部が共同で「日韓介護ヘルパー対談:介護労働の価値を求めて」を開催した。対談には、日本の介護ヘルパーの国家賠償請求訴訟の原告である伊藤みどりさん、藤原るかさん、佐藤昌子さんと、韓国ソウル市社会サービス院で訪問療養保護士として働いていたソン・ヘスクさん、ソ・ムンヒさん、キム・ヨングさんが参加した。(通訳:イ・ヘジン慶尚南道研究院研究委員) ⓒ公共運輸労働組合


日本では自己負担の引き上げやサービスの細分化が進行中

日本は2000年、「介護の社会化」を求める声に応え、韓国に先駆けて介護保険制度を施行した。しかし、安倍政権下では介護分野の生産性向上が求められ、市場化が本格的に進められた。3年ごとに行われる介護保険の改正では、介護の質の向上を掲げつつ、訪問介護の報酬が引き下げられ、営利法人の参入を積極的に支援する方針が採用されてきた。

安倍政権第2次内閣の2012年に介護保険制度が改正された。この改正では、生活援助(調理、掃除、洗濯など)サービスの提供時間がそれまでの「30分以上60分未満」「60分以上」から、それぞれ「20分以上45分未満」「45分以上」に短縮され、報酬も引き下げられた。これについて藤原さんは、「政府は調理や掃除、洗濯などすべてを45分で済ませられると考えている。いかに介護が軽視されているかが明らかだ」と指摘している。

ニッセイ基礎研究所が7月に発表した報告書(「介護の『生産性向上』を巡る論点と今後の展望」)によれば、2018年、安倍政権は「経済財政運営と改革の基本方針」を打ち出し、すべての産業で生産性向上に取り組む方針を掲げた。これに伴い、介護保険制度も効率重視で再編されることとなった。さらに2019年には、厚生労働省が「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン(生産性向上ガイドライン)」を策定し、介護事業所などに配布している。

「特定技能」の職種を紹介している日本外務省のホームページでは、介護を最初の業種として取り上げている。 ⓒ日本外務省ホームページ


政府が税制や融資支援、賃貸借方式の許可などを通じて営利法人の参入を促進した結果、介護事業所は小規模事業者中心から大型事業者中心へと再編されてきた。パナソニック、セコム、SOMPOホールディングスといった他業種の大企業が、既存の小規模介護事業者を次々と買収し、大量に市場へ参入した。たとえば、SOMPOケアの親会社であるSOMPOホールディングスは、2015年のM&Aで関連企業を吸収し、業界で売上高2位(1,500億円)、施設規模1位(28,500室)を占めるまでに成長した。

同時期に、介護分野への外国人労働者の雇用誘致も強化された。2019年には、介護、建設、農業など幅広い産業で外国人労働者を受け入れるため、「特定技能ビザ」が新設され、介護分野でこのビザを取得した外国人労働者は2024年6月時点で過去最多の36,719人に達した(日本出入国在留管理庁調べ)。

しかし、介護労働者の労働環境は悪化の一途をたどっている。低賃金に加え、サービス時間のさらなる細分化が進み、介護職員の離職率も上昇した。このような状況の中、2019年に訪問介護員の藤原るかさん(68歳)、佐藤昌子さん(68歳)、伊藤みどりさん(71歳)の3人が、「移動時間・待機時間・利用者のキャンセル時間」に対する給与の未払い、低賃金、介護の人手不足の原因が介護保険制度にあるとして、日本政府を相手に損害賠償を求める訴訟「ホームヘルパー国家賠償訴訟」を提起した。

2024年9月10日、ソウル市庁前で、呉世勲(オ・セフン)ソウル市長の発表した「ケアサービスの公共性強化計画」を糾弾する記者会見。ソウル市社会サービス院の解散後に発表されたソウル市の「ケアサービスの公共性強化計画」は「市場中心のケアシステムを強化する政策」と批判されている。ⓒ公共運輸労組ソウル市社会サービス院支部


2020年、原告側が独自に実施した調査(山根純佳・実践女子大学教授の協力、介護ヘルパー683人が回答)によれば、年収を尋ねたところ、年収100万円以下と答えた人が47%、310万円以上と答えた人はわずか8%に過ぎなかった。

伊藤みどりさんは座談会で、「訪問介護では、利用者の家に入って働いた時間だけが労働時間として認められる。移動時間がどれだけ長くても、また突然キャンセルされても補償はない」と指摘。また、「地方の小規模な訪問介護施設では、片道40キロ以上の訪問先を回らなければならないこともあり、固定給がないのは非常に深刻な問題だ」と訴えた。

東京高裁は2024年2月2日、「違法とはいえない」として控訴を棄却したものの、判決文で「賃金水準の改善と人材確保は長年の政策課題であり、いまだ解決されていない」と介護保険の問題点を認めた。原告側は「介護は社会の柱である」と主張し、上告する予定だ。

尹錫悦大統領が2023年5月31日、大統領府迎賓館で開かれた社会保障戦略会議で、「社会保障サービス自体を市場化・産業化し、競争体制を導入すべきだ」と発言した。 ⓒ韓国大統領室ホームページ


韓国、2008年に老人長期療養保険を導入 長期療養機関の99%が民間運営

韓国の現状も日本と大きく変わらない。韓国は2008年、高齢化社会に対応し、家族の介護負担を軽減する目的で老人長期療養保険を導入した。この制度は、65歳以上、または65歳未満でも認知症などの老人性疾患により6ヶ月以上日常生活が困難な人に、介護サービスを提供する社会保険である。

当初、政府は保険財政を基盤とし、サービス提供は主に民間に任せる仕組みを採用した。市場原理を導入すればサービスの質が向上すると考えたからだ。しかし、現実はそうならなかった。供給機関の過剰と競争激化により、民間施設は利益を追求するあまり、介護従事者の賃金を搾取する事態が発生したのだ。さらに2010年代には老人療養施設で虐待問題が相次ぎ、現在では療養院(介護施設)や昼間保護センター(デイサービスー)などの長期療養機関の99%以上が民間によって運営されている状況に至った。

2024年8月6日、「外国人家事管理士事業」に参加するフィリピン人労働者100名が仁川国際空港を通じて入国している。ⓒ公営KBSTV_news  https://www.youtube.com/watch?v=L8Aztz0RIVQ


国家は介護の責任を担い、民間が担当することによって生じる問題を是正すべきだという声が上がった。こうして2019年、ソウル市社会サービス院を皮切りに、各自治体が直接運営する社会サービス院が設立された。公共が介護を担うことで、利用者からは高い満足度が得られた。ソ市院の「2022年介護サービス満足度」の調査結果によると、利用者の社会サービス院の総合在家センター(訪問介護)に対する満足度は94.9点を記録した。

しかし、尹錫烈政権の発足後、「公共介護」は急速に崩壊し始めた。2023年5月、尹大統領は「社会保障サービス自体を市場化・産業化し、競争体制を導入すべきだ」と述べた。これは介護労働を低賃金で解決しようとする意思表示だった。ソウル市が最も早く対応した。2024年4月、「ソウル市社会サービス院は人件費が高く、収益性が低い」という理由で、与党の「国民の力」党のソウル市議会議員らが中心となり、ソウル市社会サービス院の廃止条例が可決された。そして2024年7月末、ソウル市社会サービスのすべてのサービスが終了した。ソウル市は、2024年9月フィリピン人家事管理士制度を導入した。

療養保護士の年度別職種定着率をみると、約10人中8人が働いてから2年目に介護現場を離れている。 ⓒ「療養保護士労働環境変化探求研究」報告書


韓国政府は来年の2025年、5,000人規模で留学生や外国人労働者の配偶者を家事使用人として雇用する政策を打ち出した。これらは私的雇用に該当するため、最低賃金の適用対象外となる。一方で、韓国人介護労働者たちは次々と介護現場を離れているのが現状だ。国民健康保険公団健康保険研究院が2022年に発刊した「療養保護士の労働環境変化探求研究」によれば、介護職に従事していた療養保護士の10人中8人が介護現場を離脱しているという。

座談会に参加したカン・イルグ元ソウル市社会サービス院労働者は、「介護の仕事は、誰にでもできる労働だと評価されている。これからも介護労働が低く評価され続ける状況だと、介護は、誰もやりたくない仕事になるだろう」と指摘した。

2編に続く

元記事URL:https://www.womennews.co.kr/news/articleView.html?idxno=254414

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*女性新聞社より翻訳および転載の許諾を得ています。
写真提供:公共運輸労組、申茶仁、金ディディ 
翻訳:金ディディ