
困難な環境の中で必死に生き延びようとあがく若い女性を主人公にした映画『遠いところ』(2023年)や『あんのこと』(2024年)に児童相談所は登場しても、婦人相談員は出てこない。「やっぱり知られてないんだな」と思う。守秘義務があり、加害者による身の危険もあったりするので、大きな声でその存在をアピールすることができないということもあるだろう。知られていないということは、困難を抱える女性たちが支援を求めることができないということでもある。
2024年4月、新しい女性支援法が施行され、「婦人相談員」の名称は「女性相談支援員」へと変わることとなった。売春防止法によって設置された婦人相談員は、長きに渡り、生活困難、性暴力、DV、人身売買など、さまざまな困難を抱える女たちに寄り添ってきた。私は臨床心理士として自分でも長く女性支援に関わってきたが、婦人相談員たちとの長いおつきあいのなかで、その地道で粘り強いお仕事に深い敬意と感謝の気持ちを抱いてきた。
しかし、最近では雇止め等で平均勤続年数も短くなり、これまで歴史を経て積み重ねられてきた女性支援の知恵の継承も難しくなってきた。その名称が消える前にその仕事を記録に残したい、もっと広く知ってもらいたいと思い、婦人相談員として働いてきたベテラン24人にインタビューを行った。婦人相談員の歴史を振り返り、彼女たちの人生とともに、彼女たちが出会ってきた女性たちの物語を並べてみることで、社会の変化に伴う女性相談の変化が読み取られると同時に、表面的には変化していても、歴史を通じて連綿と続く女性たちの苦難と抗い、哀しみと喜び、支え合いは時代を超えて通底することが浮かび上がってくる。これは見ようとしなければ見えない物語であり、女の歴史(herstory)であると思う。
是非多くの方々にお手に取って頂けたらと願う。そこにある女性たちの知恵と力から何かを受け取り未来につなげていってもらえたら嬉しい。
◆書誌データ
書名 :『婦人相談員物語ーその証言から女たちの歴史(herstory)を紡ぐ』
著者 :村本邦子・松本周子
頁数 :368頁
刊行日:2024/10/05
出版社:国書刊行会
定価 :2970円(税込)
慰安婦
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