「働く」とは何か、みなさんは改めて考えたことがおありでしょうか?私たちは、生きるために働いているはずですが、労働によって日々の生活やいのちが脅かされる実情があります。本書は、日本の現代社会において、生きていくことが軽視されているという問題点に切り込みます。
 社会学、文学、社会福祉学、歴史学、経済学といった多角的なアプローチから社会政策に迫り、コロナ禍が顕在化させた「労働環境の不協和音」を、社会政策の両輪である「労働」と「生活」という視点から描き出しました。
 以下の8章立てになっており、とくに、社会政策の初学者のみなさんにも理解しやすいよう、注釈の数を出来る限り抑えながらも、専門用語には適宜説明を加え、各章の初めには読者へのメッセージを添えました。また、執筆者の勤務校の学生や卒業生たちに草稿段階で原稿を読んでいただき、研究書ではありますが、大学生くらいの方々でも繰り返し読めば自力で理解が出来る表現にすることを心がけて刊行しました。


はしがき  (堀川祐里)
序 章 「社会政策とはなにか」という問いの難しさ  (堀川祐里)
    ――〈生きるために働く〉労働者の生活を科学する
第一章 バリキャリ女子の欠点?  (五十嵐舞)
    ――『家政夫のナギサさん』にみる労働力の再生産とフェミニズムの脱政治化
第二章 ジェンダー平等は健康の権利を放棄しなければ得られないか  (堀川祐里)
    ――労働力の再生産から考える生理休暇の意義
第三章 労働災害から身体を守る  (鈴木 力)
    ――女性港湾労働者による労災防止の営み
第四章 「産業癈兵」の誕生  (新川綾子)
    ――戦間期日本の工場内労働災害及び救貧政策におけるジェンダー構造
第五章 移住によって観光業へ参入する女性の労働と世代間の再生産  (清水友理子・跡部千慧)
    ――妊娠・子育て期にカフェ・ゲストハウスを家族経営した女性のライフヒストリー
第六章 なぜ日本の「ケア労働」は低賃金なのか  (跡部千慧)
    ――ジェンダー視点からの再生産労働の考察
第七章 社会福祉の現場において〝ふたつの生活〞を守る  (岡 桃子・跡部千慧)
    ─―社会的養護における施設職員の生活と施設で暮らす子どもたちの生活
第八章 グローバル東京をクィアする  (大島 岳・久保優翔)
    ――音楽実践をつうじた多文化共生と共創
終 章 「労働環境の不協和音」を生きるには  (跡部千慧・鈴木 力)
    ――「生活」が極限まで切り詰められた「労働」から〈生きるために働く〉ことの復権へ
あとがき  (堀川祐里)


 コロナ禍という未曾有の事態は「労働環境の不協和音」を響かせました。我々執筆者一同は、〈生きるために働く〉ことをジェンダー視点から理解し再構築したいと思っています。特に、これから社会人となって自分で生活を切り拓いていく時期にある若者に、反響する「労働環境の不協和音」を生き抜くための力を育んでほしいと願っています。
 耳を澄ませて不協和音を聴けば、不協和音が我々に問いかけてきます。歴史縦断的、領域横断的なアプローチが労働と生活を切り結ぶ、社会政策とは何かを考えるきっかけとなる一冊、是非手に取っていただけることを願います(ほりかわ・ゆうり)。


◆書誌データ
書名 :労働環境の不協和音を生きる ――労働と生活のジェンダー分析
編著 :堀川 祐里
著者 :五十嵐舞、鈴木力、新川綾子、清水友理子、跡部千慧、岡 桃子、大島岳、久保優翔
頁数 :250頁
刊行日:2024/12/10
出版社:晃洋書房
定価 :2,750円(税込)

労働環境の不協和音を生きる―労働と生活のジェンダー分析―

著者:堀川 祐里

晃洋書房( 2024/12/10 )