戦禍のパレスチナに心を痛める、帰ってきた革命家
不在50年、ガン手術4回
重信房子さんには、テロリスト、魔女など、怖い女のイメージがつきまとう。21年の獄中生活を終えて出所した2022年5月末の新聞には「国際テロの?魔女?重信房子」といった見出しが踊った。そんな先入観抜きで、海外と獄中と合わせて51年の不在ののち市民社会に戻ってきた76歳の女性が、どうやって社会復帰したのか興味がわく。『創』2022年12月号から24年9月号まで連載した記事の書籍化である。
著者はガン・サバイバーでもある。獄中でガンを患い、開腹手術4回、大腸、小腸、子宮など9カ所のガンを摘出しており、本書の最後にその手術記録「獄中日記から」が採録されている。出所後、新たなガンが見つかるが、6月4日に開かれた明大土曜会主催の「重信房子さんを歓迎する宴」には元気な姿を見せている。
明大土曜会は、彼女を支援してきた明大関係者を中心にした情報交換のグループ。彼女は2001年の逮捕によって、また海外での闘いの過程で無辜の人に迷惑をかけたことを詫びたのち、社会に戻ってきた市民の一人として、自分なりに日本を良くしたい、世界を良くしたいと挨拶。先頃亡くなった大谷恭子弁護士が、「死刑だとか無期だとか、大変な事件を担当してきたので、彼女を迎えることができたのは、弁護士冥利に尽きる。生きて出られたということを万感の思いでかみしめています」と語ったのが印象的だった。
日常を取り戻しながら執筆活動
社会状況の変化は獄中でも情報として知っていたが、実際に体験するのとは違うという。獄中ではなにごとも指示通りに動かなければならなかったが、市民生活は全て自己責任が伴なう。
それでも5回目のガン手術後は、半世紀ぶりに友人に会ったり、亡くなった革命の同志たちの墓参や法要への出席、娘のメイさんとお祭りを見物したりしながら、しだいに日常感覚を取り戻している。
優れた勘の持ち主で、対応力は抜群。階段の下りは苦手と言いながら雑踏の中をスイスイ歩いていく。メイさんの助けを借りて、パソコンもスマホも短期間に習得し、講演ではパワーポイントを駆使、検索や調べものには音声AIチャットを使っているというから、メカにも強いらしい。
歌詠みでもあり、出所と同時に獄中で詠んだ歌を集めた『暁の星』を上梓。歌の師である福島泰樹さんが主宰する「月光の会」の歌会に参加。与えられた題で出席者が1首ずつ詠み、詠み手の名を伏せたまま点数を競い、1首ずつ批評するという歌会を楽しむ余裕もある。
ガザ虐殺に心を痛める
執筆活動も旺盛で、23年6月には、学生運動から赤軍派時代を振り返った『はたちの時代』、24年3月には『パレスチナ解放闘争史1916‐2024』を出版。いずれも獄中で書いた原稿を整理したもので、後者は482ページの大冊。20世紀初めから植民地状態に置かれてきたパレスチナ人民が解放をめざして、どのように闘い、暮らしてきたかを綿密に追ったパレスチナ現代史。
この本の脱稿まぎわの23年10月、パレスチナ・ガザ地区の武装勢力が、イスラエルに奇襲をかけて人質をとったことから、イスラエルの報復攻撃が始まった。だから本書の後半はパレスチナ情勢にほとんどの紙幅をさいている。土地を奪われて70年以上闘っているパレスチナ人がテロリストで、ロシアの侵略と占領に抵抗するウクライナ人が英雄という米国のダブルスタンダードが世界をつくりあげていると繰り返し批判。それに追随する日本政府とメディアにも厳しい注文をつけている。
ガザ侵攻が激しさを増す中、各地の反戦集会にゲストスピーカーとして登壇、「人生の大半をパレスチナの友人たちと共にしてきた私は、イスラエルによるガザの人びとへのジェノサイドが進む中、夜も昼も不安と怒りが消えません」と言い、「武器を持たない人の命を奪うな」と訴える。
日本赤軍のリーダーとしてパレスチナの地に身をおき、パレスチナ人民と行動を共にしてきた著者ならではの怒りであり、説得力がある。「日本社会の1人ひとり、何かできることを行ってほしい」という著者の呼びかけにこたえたい。
◆書誌データ
書名 :ただいまリハビリ中 ガザ虐殺を怒る日々
編者 :重信房子
頁数 :256頁
刊行日:2024/12/20
出版社:創出版
定価 :1,870円
2024.12.28 Sat
カテゴリー:わたしのイチオシ
タグ:本