
なんとなく当たり前だと考えられていること。しかもそれが一般的に良いものとされていることに抗うにはとてもエネルギーがいる。
年の瀬が近づき、雑談で、帰省するか問われた時、私はもっともらしい嘘をつく。家族で過ごすのが前提という会話の中で、相手が納得できる理由を話す。詮索されたり、説教をされたくないし、面倒臭いやつと思われたくない。「当たり前」の前に私は口を閉ざす。
『行政書士のための新しい家族法務 実務家養成講座』では、自分の中にある「当たり前」を疑うことがクライアントの本当のニーズを知る上で重要であると述べている。その上で、そもそも家族とは何かということを家制度まで遡り、解説している。本書は、標準的家族の制度設計からこぼれ落ちてしまう「不可視化されてきた存在の側」に立っている点に特徴があると言える。無意識に持っている規範意識を疑い、家族という枠組みで埋没されている個人に目を向けた関わり方でなければ、クライアントは口を閉ざしてしまう。相談技法で述べられているケア的な関わりは、私自身が他者の口を塞がないためにも重要な視点だった。行政書士だけでなく、家族を支援する方にも広く参考になると思う。
家族支援のゴールが「家族仲良く」であることとは限らない。規範に縛られ、口を閉ざしてしまった人のニーズを知り、その人らしく生きる方法を共に考える。「当たり前」に抗う勇気を後押ししてくれるのが「新しい家族法務」なのかもしれない。
◆書誌データ
書名 :行政書士のための新しい家族法務 実務家養成講座(第2版)
著者 :渡邉愛里
頁数 :315頁
刊行日:2024/12/30
出版社:税務経理協会
定価 :3300円(税込)
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