
ドナウ川沿いの郊外の街ヴァーッ
友人女性⒉人に聞いた前回に引き続き、第2回は男性3人の声をお聞きしました。
前回記事はこちら、
友人その1、タマーシュ・モルナール Tamás Molnar
36歳男性、夫であり、ふたりの子供(6歳と4歳)の父親。首都ブダペストから小1時間の街に家族4人で暮らし、ブダペストへ日々通勤しています。金融機関とIT 企業勤務後、現在は世界的な多国籍企業に職を得ています。
石本の質問に以下のような回答を寄せて下さいました。
問い: ハンガリー警察全般への印象をお聞かせください。
回答: 幸いにも関わる必要がなくここまで来ましたが、一般的には良い印象は持っていません。この国では警察も含め、政府系機関は何事にも動きが遅く、多くの場合関わりを持つのはむつかしく思っています。警察には一般的に、正義を通そう、正義を追及しようとしている意図は感じますが、時には政治が介入していて、時には根底に横たわる資金不足がネックになっていると思います。
日本人女性の事件の場合は、上に述べた資金不足が大きな理由で、捜査対象の優先順位が低かったのではないかと思います。聞いた話によると、家庭内暴力は常に調査や追及が非常にむつかしく、仮にハンガリー人妻が警察へ駆け込み、訴えたとしても、日本人女性と同じ扱いを受けることになると思います。
問い:ハンガリー警察は異例の謝罪をしましたが、今後、警察の在り方は改善すると思いますか? 謝罪はオルバン首相へのジェスチャーと思いますか?
回答:質問の意味を正しく理解しているかわかりませんが、少なくともメディアは常に警察が事態を真剣に受け止めるようプレッシャーをかけているので、隠蔽は出来ないと思います。今回の事件は、オルバン首相や政治とあまり関係ないと思います。
問い:フェミニズムの視点をお持ちであれば、妻とどう接していますか? 家事の分担等、生活全般、おふたりでシェアをしていることがあればお聞かせください。
回答: 妻の考えは直接、妻にお聞きになるのが最善だと思いますが、人によって、背景によって、この扱いは大きく異なります。私たちに特化すれば、その日や状況や、様々な背景によって、なるべくバランス良く相互に平等でいられるよう協力しながらやっています。私は料理はしませんが、妻が全面的に作ってくれています。掃除は、時間がある方がしますが、子どもの世話に時間がかかっている時は、片方が他の家事をします。子どもの読み聞かせや寝かしつけは私がしています。皿洗いは分担作業で、時間配分は正確に言えませんが、週ごとのそれぞれのスケジュールによって、柔軟に対応しています。
問い: ハンガリーをはじめ、海外に暮らすアジア人への受けとめについてうかがえますか? ハンガリー人は親日的な国民性で、友好的に接して下さることを光栄に思っていましたが、コロナ禍を境に一変しました。心の痛むことも多いのが現状です。
回答: 私自身は長いこと多国籍企業で働いていますし、多様性を好んでいます。自分と全く違う環境で育った人達と話すのは楽しいですし、知らない世界を知るのも大好きです。特に親日というわけではなかったので、日本人への特別な感情はありませんが、日本人、エチオピア人、アメリカ人、ハンガリー人も含めて、身近で交流を持てているのは刺激的で楽しいので、それが何より好ましく思っています。しかしながら、私のオープンな性質は、どのハンガリー人にも当てはまるわけではないと思います。少なくともアジア/日本文化への憎しみや反発はないと感じています。

トラムとドナウ河、遠くの眺めはブダ側
友人その2 : ピーター・ムンカチ Peter Munkacsi
第1回に登場したへンリエットの夫。3人の息子の父親。弁護士。ブダペスト名門大学で法学士号取得。1993年にドイツで法学修士取得。1998年にはフィレンツェの欧州大学研究所で2つ目の法学修士号取得。2023年にはブダペストの名門で博士号終了。フェミニズムのトレンドや運動に考えが近く、趣味は映画鑑賞の他、クラシック音楽からキース・ジャレットやブラッド・メルドーまで。趣味でドラム演奏もしている。
同様に質問に回答いただきました。
問い:ハンガリー警察への印象をお願いします。
回答:邦人女性の殺害後の警察対応には多くの批判がもたらされましたが、時が経つにつれ警察周辺は静まり返っていると思います。国会前の抗議デモでの女性たちの 怒りは大きく、また日本人女性をサポートしていた女性団体の活動は卓越していましたが、その後の警察対応はあまり注目されなくなっていると思います。警察への怒りは至極当たり前だったと思いますが、おそらく、当局は公衆の怒りを収めることが直近の課題だったと思いますので、その意味では謝罪により沈黙させることに成功したのかもしれません。
この事件と似たような他の事例をご存知ではないですか。私はたまたまアイルランドでの事例を見つけました。1895年、ブリジット・クリアリーは夫と家族によって焼き殺されました。家族はクリアリーは妖精によって誰かと入れ替わったと妄信し、妖精にクリアリーを返してもらいたいと主張しました。こちらの記事を参照して下さい。
https://www.rte.ie/brainstorm/2024/1017/1085544-darkest-ireland-and-the-burning-of-bridget-
cleary/<
21世紀に入りますと、11年前になりますが、ハンガリーはイスタンブール条約に署名しました。しかしながら、条約批准に至っていないという事実は、ハンガリーの法制度には重要な被害者保護規定が欠けていることを意味しています。このような状況下、多くのハンガリー女性が暴力により命を奪われているのが現実です。このことはEU〜欧州連合の男女平等研究所の最新報告書からも明らかです。ハンガリーは他のヨーロッパ諸国と比べて、男女平等指数は引き続き下から2番の順位に甘んじています。
問い:妻ヘンリエットとの家庭内の役割分担をお聞かせください。
回答: 初めからうまく出来たわけではありません。聖人のように聞こえることは避けたいのですが、ここまでの結婚生活でお互いに歩み寄り、何度も何度も話し合いを続け、2人の同意地点を作り何とかやってきました。(石本注 :子どもが小さい時期は、朝の苦手なヘンリエットはゆっくり休み、ピーターが3人の息子に朝ごはんを作って食べさせ、学校に送り出していたそうです。ヘンリエットは料理全般を担当していました。)
問い:一般的な印象や感想でかまいませんが、アジア人はどう映りますか?
回答: 私はアジアの文化、人々、芸術家、音楽をどれほど愛しているか。若い時代、1989年から90年のベルリンの壁崩壊に伴いハンガリーにも政変が起こり、市民社会が再び活発となりました。ハンガリー・日本友好協会が設立され、私は何年も会員になりました。
私の子供たちもアジア人と文化に興味を持っていることを光栄に思っています。末の息子は現在香港に留学をしており、順調に成長していることを嬉しく思っています。インドネシアとマレーシアにも興味があるそうで、近々クアラルンプールを訪れると言っていますし、留学後の5月には日本を訪れる予定にしているそうです。
最後に、私を回答者に選んでくださり光栄の限りです、ありがとうございました。
友人その3、ピーター・テメシュヴァーリ Peter Temesvary
ハンガリー人の両親のもと、アメリカはカリフォルニアで育つ。巨大なカリフォルニアやロスアンジェルスに嫌気がさしてヨーロッパの生活に憧れ、25年前にハンガリーへ移り住む。既婚、3人の子ども(20歳と17歳の双子)の父親。ブダペスト国際空港で安全保障担当ディレクターとして勤務している。
石本の数々の質問から3点を選び、以下のような回答を下さいました。
問い: ハンガリー警察全般への印象をお聞かせください。
回答: 私の経験から言いますと、ハンガリー警察は争いを避け何事にも関わりたくなく、本当に仕事をしません。とは言え、政治的動機によるNGOへの嫌がらせなどには、大変よく仕事をします。身近に起こった経験を披露しますと、住まいの地域の警察は、2回の家屋侵入事件、加えて車の盗難に対し、警察公式の郵便で 、それも30日が経過した後に、「証拠が見つかりませんでした。あなたの件は終了しました」という報告が来たのみです。
問い:邦人女性殺害に関して、警察の初動に誤りがあったことも含め、あなたの受け止めをお願いできますか?
回答: あいにくのことですが、どんな国にもサイコパスや暴力的な人が存在すると思います。あくまでも私見ですが、この度の事件は、アイルランド人男性と日本人女性だったのは偶然だった可能性が高いでしょう。事故だった可能性もまだ捨てきれないのではないかとも考えます。このケースが、日本人男性とアイルランド人女性の間で起こった可能性も同じくらいあると思います。また何より、ハンガリー人男性とハンガリー人女性の間で起きたとすれば、ニュースになることすらなかったでしょう。
問い:近年目に余るアジア人やその他の国の人々への差別に関して、ご意見をお聞かせください。
回答: この質問にお答えするには、私は適切な相手ではないと思います。私の住まいはブダペスト市内ペスト地区南に位置しており、フェレンツヴァーロシュと呼ばれている地区ですが、外国人居住者が大変多く、公園や通りやレストランで多くの外国人を見かけます。インド人、アラブ人、アジア人たちです。時には通りを歩いていても、全くハンガリー語が聞こえてこない時もあるくらいです!(私の住む地域に観光客は歩いていないです。) 週末のバスケットコートでプレーしているのも外国人ばかりです。人種差別があることは容易に想像はつきますが、直接目にすることはありません。しかしながら、ハンガリー人はハンガリー語を話さない全ての外国人に内心は差別意識があると思います。
追記:友人その3の部分は遅れて回答が得られたため、3月31日に追加しました。

聖イシュトヴァーン大聖堂
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
最終講義
博士論文
研究助成・公募
アート情報
女性運動・グループ
フェミニストカウンセリング
弁護士
女性センター
セレクトニュース
マスコミが騒がないニュース
女の本屋
ブックトーク
シネマラウンジ
ミニコミ図書館
エッセイ
WAN基金
お助け情報
WANマーケット
女と政治をつなぐ
Worldwide WAN
わいわいWAN
女性学講座
上野研究室
原発ゼロの道
動画






