2012.11.07 Wed
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ぼた山を背に腰みのをつけた肌もあらわな女性たちを写した一枚の写真。これが映画『フラガール』(2006年、監督:李相日)の制作のきっかけとなったという。石炭くずを積み上げたぼた山と、南国風の衣装を身につけた女性たちの組み合わせはなんともミスマッチだ。『フラガール』は、ちょうどその写真が撮られた昭和40年(1965年)頃の福島県いわき市の常盤炭鉱を舞台とした、炭鉱の町から東北の「ハワイ」、常盤ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)が誕生するまでの物語である。主要エネルギーが石炭から石油に変わり、炭鉱は次々に閉山へと追い込まれていく中、南国の楽園のイメージとは程遠い、東北の炭鉱労働者の娘たちが家族を助けるために一所懸命にフラを学ぶ姿がとても印象的だった。
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ところで2011年3月11日の東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の事故の後、福島の「フラガール」たちはいったいどうしているのだろうか。『がんばっぺフラガール!―フクシマに生きる。彼女たちのいま―』は、震災、原発事故以降の彼女たちを追ったドキュメンタリー映画である。石炭に石油が取って代わる中で「フラガール」になった彼女たちが、今度は新しいエネルギーと期待された原子力のせいで、働く場どころか、住む場所も無くしてしまう。映画では舞台を失った「フラガール」たちの全国キャラバンの様子や、再建までの間、スパリゾートハワイアンズのホテルに住む被災者たち、そして2011年10月1日のオープンまでの道のりが描き出されている。
キャラバンでは笑顔を絶やさない彼女たちではあるが、みずからも被災者であり、なかには事故のあった原発からすぐ近くの町の出身者もいる。「フラガール」のひとりが防護服を着て立入禁止区域にある自宅を訪ねる場面は、同様の映像をニュース等で見たことはあったけれど、あまりに非現実的な光景に感じられ、防護服やマスク、長靴などが、近くの作業服店で大量に売られているというのを彼女の口から聞くと、改めて一体何が起こっているのだろうと、見ているわたし自身、言いようもない気持ちに襲われた。
先日、勤務先のフェリス女学院大学に『フラガール』『がんばっぺフラガール!』のプロデューサーである石原仁美さんをお招きして、この2作品についてお話をうかがう機会を得た。ちなみにこのエッセイの冒頭のエピソードも石原さんからお聞きしたものだ。東日本大震災、原発事故直後に、石原さんはいわき市に駆けつけ、被害状況を目の当たりにする。そんな中、映画人として一体何ができるかと作られたのが『がんばっぺフラガール!』という作品なのだという。カメラは彼女たち/彼らに敬意を持って寄り添い、けっしてづかづかと土足で踏み込むようにレンズを向けることはない。実際、石原さんたちは、映画でスポットが当てられているフラガールのひとりが、連絡をしてくるのを、ひたすら待ち続けたのだそうだ。
『がんばっぺフラガール!』はスクリーンの向こう側に直接的なメッセージを訴えかけるような映画ではない。そこに映し出される静かな日常(かつての非現実が今の日常だ)に、わたしたち(観客)は、彼女たち、彼らの抱えているものの大きさを感じとる。そしてそれは遠いどこかの話ではない、わたしたちと地続きの現実として迫ってくる。(田丸理砂)
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