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トラウマの重さとそこはかない希望 『トラウマ』 宮地尚子

2013.08.17 Sat

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 「トラウマ」とは「過去の出来事によって心が耐えられないほどの衝撃を受け、それが同じような恐怖や不快感をもたらし続け、現在まで影響を及ぼし続ける状態」だという。「トラウマ」という言葉が巷で溢れるなか、本書では、精神医学や心理学における「トラウマ」についてわかりやすく説明されている。

本書ではまず、トラウマとは何か、傷を抱えて生きるとは、というトラウマ体験の当事者の問題から、傷ついた人との接し方について述べられ、さらにトラウマについてジェンダー、セクシュアリティの視点からアプローチが紹介されている。たとえば性暴力は他のトラウマ体験よりもPTSD「心的外傷後ストレス障害」を起こしやすいのはなぜか、という点にも言及されている。

著者は、トラウマが「心と身体と社会という三つの重なる領域に起きる現象」ととらえ、さらにマイノリティとトラウマの係わり、また加害の方にも目を向け、正しさという暴力、紛争や災害にテーマを拡げていく。そして最終章では、わたしたちがトラウマから学ぶことができる、アート、文学、映画やマンガなどの表現から、人間の脆弱性とともに復元力、成長について考察されている。

 本書の著者宮地尚子さんは、精神科医としてトラウマを抱えた人々と接してきた。言葉にはなりにくいトラウマについて、慎重に言語化し、その多様性をさまざまな事例や独自のモデルを用いて誠実に説明しようという宮地さんの誠実な姿勢に心打たれるだけでなく、最後にはそこはかとない希望が感じられところに本書の魅力がある。トラウマと表現を扱った最終章は、「トラウマからすばらしい作品が出来上がることが大事なのではなく、そのプロセスが大事であることを強調したい」「何かを作ってみようという気持ちになること、何かを表現しようという意欲が出てくること、何かを表現してもいいと思えること、何か表現すべきものを自分がもっていることに気づけること、誰かが受け止めて興味を持ってくれるかもしれないという希望を持てること、そこの部分が重要なのだ」と述べた後で、「〈何者〉にもならなくてもいいということ。それがトラウマからもたらされる想像力や創造性の帰着点」であり、「それがまた新たな想像力や創造性の原点となる」と結ばれている。(lita)








カテゴリー:わたしのイチオシ / lita

タグ:身体・健康 / / トラウマ / 宮地尚子 / 精神障害