2014.03.07 Fri
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.『在日朝鮮人女性作品集 1945-1984(全2巻)』(緑蔭書房、2014年)が、竹村和子フェミニズム基金から助成を受けて出版されました。何よりもまず、故竹村和子氏、並びに基金を支えられている方々に、心より感謝を申し上げます。直接的には存じ上げませんでしたが、基金運営に関わる方々の情熱と温かさを通して、竹村和子氏のお人柄と思想の一端にも触れられた気がします。
かつて竹村和子氏の著作に触れたときに抱いた、私の一方的な‘信頼’。それがなかったら、基金を得ての本書の刊行実現はなかったと思います。むろん、基金の方々が今回、私によせて下さったそれも、深く受け止めました。じっさい、 (ポスト)植民地主義とフェミニズムをどう並行して考えていくかは、ひじょうに繊細な問題です。在日朝鮮女性といえなくもない私にとっては、理論や概念の問題ばかりでなく、毎日の生活のなかで幾度となく立ち止まらされるものでもあります。
本書は、日本で暮らした無名の朝鮮女性のライティングを編んだものです。7、8歳の少女から70代の高齢女性まで、200名あまりの人々のエッセイ、作文、投書、手紙、詩、小説が収められています。文字を知ったあふれんばかりの喜び、儒教規範から抜け出せない同胞男性への怒り、日本社会に対する複雑な思い、少女たちの葛藤や勇気、母への、父への、夫への、子への愛憎など、当時の在日女性たちの豊かな感情と、その日常生活に接する入口になることでしょう。同時期の日本女性との共通点や、そのあまりの隔たりを見つけるのも、本書の楽しみの一つとなることと思います。
歴史の裏通りをそっと歩いた声なき人々。厳しい差別の中でも、たくましく、ひたむきに生きた周縁の女性たち。このような、昔の在日女性に対して多くの人が描こうとするイメージに、私は長らく違和感を持ってきました。それが間違っているというつもりはありません。それこそ、植民地出身女性になら誰にでも当てはまるような修辞を当てがい、そこで思考停止している状況にもどかしさを感じていたのです。彼女たちが、ときに溜息をつきながら、ときに鼻息荒く言葉を発していたのにもかかわらず、あまりにも長い間見過ごされてきたからです。
彼女たちの文章は、日本語でも、そしてそれ以上に朝鮮語でも書かれました。植民地支配を経験し、祖国の南北分断にも直面した彼女たちの文章は、ときにイデオロギー色に染め上げられてもいます。その多くは、「芸術的価値」を持つものとは言えないかもしれません。作品の散逸も甚だしいものです。だが、果たしてそれらは、彼女たちが日本で学び、書いたという事実を黙過する、正当な理由になるのだろうか。むしろ、これらの事実の中にこそ、戦後の日本を生きた植民地出身女性たちを理解する鍵があるのではないか。本書の出発点はここにありました。
本書は2巻組で3万円あまりと、大変に高価です。実は、価格を抑え一般書として出版することを当初は目指していましたが、叶いませんでした。刊行するには全額負担しか道がなかった上、朝鮮語作品の収録は無理だと言われたのです。「売れない本」だからです。収録された各作品にはそれぞれに味があって、考え込まされたり、畏敬の念を抱いたり、思わずくすっと笑ってしまったりと、ひじょうに面白く読めるのですが、やはり華やかさに欠けるテーマなのでしょう。これが在日朝鮮女性たちの置かれていた、そして今も置かれている現実です。
結局、「在日朝鮮人関係資料叢書9」という研究資料集の一つとしての出版となりました。値が張る代わりに、日本語作品も朝鮮語作品も、掲載当時のまま収録することができたことは幸いでした。朝鮮語作品に関しては、日本語の対訳も全てつけてあります。お近くの図書館に購入希望を出し、多くの方々が手にとっていただけることを願っています。
刊行にいたるまでには紆余曲折を経ましたが、いくつもの意味で、基金の存在がなければこの本は生まれなかっただろうと、つくづく考えます。今回の出版を通して、竹村和子氏と改めて出会い、学ぶきっかけをいただいたことも嬉しく思います。
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