2014.03.18 Tue
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.「新型出生前検査」が大きく報じられています。2013年11月末には、日本でもすでに3500人以上が「臨床研究」の形で受けたと発表されました。この検査は「無侵襲的出生前遺伝学的検査=Non-Invasive Prenatal Genetic Testing」 といい、英語表記の頭文字をとってNIPTと呼ばれます。『いのちを選ぶ社会 出生前診断のいま』では、このNIPTの日本上陸をきっかけに、さまざまな疑問をいだいた著者が、各地を駆け巡って葛藤する当事者の声に耳を傾けました。
妊婦血液中の赤ちゃんの遺伝子を、高速のシーケンサーという技術で量的に調べる、というNIPT。「母体の血液で胎児の異常が99%わかる」と報じられたのは本当なのか?
99%の意味を正確に知ることから始まった本書の取材は、ダウン症の人たちに向けられた理不尽な声など日本の実情から、すでに出生前診断で染色体異常の子どもが「減っている」といわれるフランスへと広がってゆきます。そこで出会ったのは、出生前検査を妊婦全員に勧め、その結果、確定検査で陽性だった人の96%が中絶を選んでいる事実。そしてこれを「ソフトな優生学」としつつも肯定する医師たちと、決して許されないと主張する医師たち双方の主張でした。
生まれて来る子どもが健康であってほしい、と願う妊婦ひとりひとりの気持ちを否定することはできないけれど、国家や社会として「スクリーニング政策」を取ることを、果たしてどう考えるのか?
やがて著者は、「なぜ先進各国では“出生前スクリーニング”がこれほど広がったのか」「日本では諸外国に比べて出生前検査の普及が進んでいないといわれるがなぜなのか」という次の疑問にぶつかり、歴史や倫理の研究や証言をひもといて、さらに考え続けます。
著者である坂井律子は、NHKのディレクター・プロデューサーとして福祉や医療、教育に関する番組を手がけ、1990年代に母体血清マーカーが日本に上陸した際にも、このテーマに関する多くの番組を制作。99年には、日本とイギリスを取材して『ルポルタージュ 出生前診断』(NHK出版)を上梓しました。そして今回、新型検査の登場で改めてこの問題に取り組み「(水面下に大きな氷塊の潜んだ)氷山にぶつかるような」困難を感じたと、本書あとがきにその心境を綴っています。
子どもを産むということが幸せな体験であり続けるためには?
誰もが祝福されて生まれて来る社会を作るには?
この難しい問いに真摯に向き合った本書を、是非お読みいただければと思います。(編集者 小湊雅彦)
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