エッセイ

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日本軍「慰安婦」特集(8):ナヌムの家と関わって 池内靖子 (下)

2014.07.26 Sat

「ナヌムの家と関わって (上)」はこちら http://wan.or.jp/book/?p=707

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.ビョン監督の3部作の映画の自主上映運動以外に、私が「ナヌムの家」に関わったのは、もう一つ、元「慰安婦」の女性たちの日本政府へ突きつけた要求の実現を支援する直接的な行動である。その一環として、「ナヌムの家」からの呼びかけに応え、「ナヌムの家」の敷地内に日本軍「慰安婦」歴史館を建設するための後援会を作り、建設資金のカンパを募る活動を始めたのである。

近現代韓国史研究者の宋連玉さんと私を後援会の共同代表として、日本軍「慰安婦」記念館設立後援会が発足したのは、1997年11月のことだった。正式名称、日本軍「慰安婦」歴史館、通称「ナヌムの家」歴史館が、韓国や日本の広範な市民の支援により、翌年1998年の夏には早くも建設され、オープンすることになった。

後援会に集まった私たちは、日本における後援会発足の趣旨文で、記念館設立を次のように構想した。

一つは、戦後50年におよぶ沈黙を破って自ら名乗り出た女性たちの証言を基本に据えること、二つ目に、性奴隷制ともいうべき日本軍「慰安婦」制度の実態を明らかにすること、三つ目に、日本政府による国家補償の責任回避と「国民基金」による被害者や支援グループ間に持ち込まれた分断に抗し、国境を越える連帯を創り出していくこと。アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.韓国の女性運動や広範な市民グループに支えられ、勇気を出してハルモニたちが語り始めた性暴力の証言を無にしないために、私たちはその記念館に関連資料を集め、もう一つの歴史として永く記憶にとどめ、そこから深く学ぶ必要があると考えた。とりわけ、侵略戦争や植民地支配を知らない日本の若い世代が、その実態を正面から受けとめ、アジアに民族差別も性差別もない新しい関係を創り出し、交流を深めていく場としたい、という構想である。

「ナヌムの家」は、元「慰安婦」の女性たちが、他者からの一方的な定義づけから解放され、日々の生活の中で、自分自身の多様なアイデンテイテイを発見し、意味づけていく生活の場、ハルモニたちひとりひとりが生き生きとした独自の世界と声を回復していく空間である。私たちはその彼女たちの生活の場であることを何よりも大切にしたいと考えた。同時にその「ナヌムの家」に暮らす彼女たち自身が日本政府を相手取り国家賠償を求める闘いを私たち自身もしっかり受けとめ支援したいと考えた。

この正義を求める彼女たちの闘いは、彼女たちの尊厳の回復にとどまらない。それはまた、排外主義的でミソジニー(女嫌い)の言説と規範の根強い日本社会で私たち自身の尊厳を回復していく問題でもある。彼女たちの受けた戦時性暴力は、どこであれ、いわゆる平時も日常的に繰り返される性暴力の問題に繋がっている。そうした状況を容認している社会を変革していくという意味で、私たち自身の問題であり、私たち自身の解放と結びついている。

そのような思いで構想・建設された歴史館には、世界中から多くの人びとが訪れている。なかでも日本の人々やグループの訪問者は多く、とりわけ、ナヌムの家歴史館を訪れた若い人たちが、私たちの後援会の活動とは直接関係なく、日本の各地で同時証言集会を立ち上げ、元「慰安婦」の女性たちの証言の場を作り出している。そのことに私たちはとても励まされ、大きな希望を感じている。

2010年9月、私は久しぶりに「ナヌムの家」を訪ねた。姜徳景さん、金順徳さん、朴頭利さんたちは、すでに亡くなられているが、朴玉蓮さんと再会することができた。しかし、彼女は、高齢ですっかり弱っておられ、車椅子で移動し、その日は娘さんに付き添われていた。「ナヌムの家」には、福祉施設の職員のほかに、医療専門の看護師、ケアワーカー、ボランティアのスタッフが常駐しており、韓国の中学生や高校生がボランティアで訪れ、ハルモ二たちと語り合い、清掃などをしている姿を見かけることがある。高齢者の介護施設としても、一つのモデルケースとなっているようだ。

日本の社会で「慰安婦」体験を隠し孤立して老いと死を迎える女性たちのことを思うとき、若者たちと交流できる「ナヌムの家」のような場を創り出すことがとても重要なことであるとあらためて感じさせられる。

<付記>以上の文章は昨年11月末に書いたものであるが、それから約1カ月後に、ナヌムの家で研究員として働く村山一兵さんから、「不当解雇」の知らせが届いた。村山さんからWAMのMLへのメール(12月25日発信)によれば、ナヌムの家の事務所側が明言した解雇と業務停止の理由は、「12/5に東京で行われた女性国際戦犯法廷10周年のシンポジュウムに事務所に無断で参加し、姜日出ハルモニの通訳をしたこと」「始末書の不提出」の二つであるという。それが解雇の理由であるとすれば、私たちには理解しがたいが、まだナヌムの家の管理者側の立場は正式に表明されていない。

先述したように、ナヌムの家歴史館を訪れる日本の人々は多く、訪問者の多くは、日本に帰ってからは、「慰安婦」問題早期解決のためのさまざまな活動に取り組んでおり、その意味でも、ナヌムの家歴史館は重要な責任を果たしてきた。そしてそれは、何よりも日本語と韓国語ができるスタッフが常駐しているというナヌムの家歴史館の体制によって可能になったことである。日本からの訪問者は、ナヌムの家に日本語ができる村山さんのようなスタッフがいるおかげで、日本語による歴史館の案内を受け、ハルモ二たちとも通訳を介して交流することができた。前任者の日本人スタッフから引き継いで、村山さんも、ナヌムの家に住み込み、日常的にハルモ二たちに寄り添い、日本での証言集会に同行し、通訳をし、講演をし、きわめて重要な役割を果たしてこられたことは、よく知られている。長年の村山さんの誠実な対応や献身的な活動に、私たちは、深い敬意を覚えるものであり、心からの感謝を表したい。

そんな中、突然の解雇・業務停止の言い渡しという状況は、私たちにとって大きな衝撃である。ぜひ、ナヌムの家管理事務局側の立場の表明と説明を聞きたい。そして双方の話し合いが、調停を含め、誠実に持たれることを望みたい。何よりも、ナヌムの家の原点は、元「慰安婦」の女性たちが共同生活を分かちあう場であるということであり、そのナヌムの家で、彼女たちの生活と闘いを支えるスタッフが共同体制を組めず、不安定な立場に置かれるなら、彼女たちの生活自体に不安定さや支障をきたすことになるだろう。そういうことのないよう、心から願っている。








カテゴリー:慰安婦特集 / シリーズ

タグ:慰安婦 / 映画 / 戦時性暴力 / 軍隊性奴隷制