2014.09.04 Thu
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.8.14 は、1991年韓国の光復節(日本の植民地からの解放を祝う記念日)の前日に、金学順(キム・ハクスン)さんが、世界で初めて、「慰安婦」にさせられていたことを告発された日です。現在、国際社会では、8.14を、女性に対する性暴力、とりわけ戦時性暴力を根絶するための国際記念日にしようとする運動が盛んになっています。今日から、三回に分けて、20年ほど前から日本軍「慰安婦」問題について、西洋政治思想史、フェミニズム理論の立場から研究をしてきた岡野が、「慰安婦」問題について改めて考えてみました。
日本軍性奴隷制度、それが、1991年の金学順さんの告発以来、日本では日本軍「慰安婦」制度として議論されてきた問題の、国際社会、そして国際法上の現在の認識となりました。ところが、1993年の河野談話見直しに着手しようとした安倍政権の下で、日本社会においては、20年以上にわたり蓄積されてきたさまざまな歴史的研究が無視され、大手メディアにおいて、とりわけテレビ報道ではタブー視されるか、新聞メディアでも「根拠がない」などとして、法的責任・政治責任を考える以前に、日本軍が設置した「慰安所」制度、つまり戦時性奴隷制度自体をも否認する事態に陥っています。とりわけ、『朝日新聞』による、吉田清治氏の証言に基づく記事を取り消した検証記事が出るや否や、多くの報道機関があたかも、「慰安所」制度もなかった、そこに国際法上の違法行為はなかったかのような報道を流し続けています。
すでに、『朝日新聞』に対する、あまりにも常識を逸脱した誹謗報道--とくに、一部週刊誌が「慰安婦」問題捏造とまで言い始めています--に対する批判的論点は、指摘され始めています。ここでそうした論点を繰り返しませんが、もう一度原点にかえって、「慰安所制度」とはなにだったのか、その制度が現在においてもなぜ問題なのかを確認しておきます。そもそも、現在国際社会において問題となっている性奴隷制度に関しては、歴史認識や日本と被害国との政治的なかけひきといったものではなく、国家犯罪・組織的犯罪--とりわけ、戦時における性暴力--の被害にあった女性たちの人権をどのように回復し、補償ならびに国際社会のなかで問題意識を高めることによって、今後二度と同じ犯罪を犯さない、生じさせない国際環境を作っていくことが課題となっています。
「慰安婦」問題を否定する政治家をはじめとする人びとは、「強制連行」がないイコール犯罪ではない、かのように論じていますが、問題の核心は、日本軍が設置、もしくは設置に関与した慰安所制度が、反復的強かんを密室で行うための制度であったという点です。
まず、すでに多くの歴史家が指摘しているように、「慰安所」設置は、日本軍による考案であったことは、岡村寧次司令官の回顧録からも--中曽根康弘元首相も、自ら「慰安所」を設置してあげた、と自慢げに回顧していたことは、あまりにも有名です『終わりなき海軍』--、明らかです。ここでは、『朝日新聞』1992年1月11日に、日本軍が軍慰安所設置を支持した公文書を防衛庁防衛研究所図書館で発見した、吉見義明さんの『従軍慰安婦』から、岡村司令官の言葉を引用しておきます。
現在の各兵団は、殆どみな慰安婦団を随行し、兵站(へいたん)の一分隊となっている有様である。第六師団の如きは、慰安婦団を同行しながら、強姦罪は跡を絶たない有様である(『従軍慰安婦』44頁)。
ここで、「強姦罪は跡を絶たない」とわざわざ言及しているのは、慰安所設置のきっかけとなった中国大陸への侵略戦争時に生じたおびただしい強かんが、当時の戦争犯罪であり、かつ国際的にも日本の地位を貶め、また中国人が強かんに関しては厳しく反応することを知っていた軍部は、なんとかして、民間人に対する強かんを予防しなければならなかったからです。また、「兵站」とは、戦闘部隊の後方で、兵器や食料などの補給のための軍の機関・機能です。
吉見さんは、その後、陸軍付の精神科医、早尾軍医中尉の論文から、つぎのような文書を引用しています。
出征者に対して性欲を長く抑制せしめることは、自然に支那夫人に対して暴行することとなろうと兵站は気をきかせ、中支にも早速に慰安所を開設した。[...]それでも地方的には強姦の数は相当にあり、亦前線にも是を多く見る。[...]敵国女性の身体迄汚すとは、誠に文明人のなすべき行為とは考えられない・[...] 軍当局は軍人の性欲を抑えることは不可能だとして、支那婦人を強姦せぬ様にと慰安所を設けた。然し、強姦は甚だ旺(さか)んに行われて、支那良民は日本軍人を見れば必ず是を怖れた。将校は率先して慰安所へ行き兵にも是をすすめ、慰安所は公用と定められた(同上、46頁)。
端的にいえば、市井での強姦を予防、減少させるために、軍専用の、外部にもれない「強姦センター」を後方支援として設置した、ということです。しかし、それもむなしく、強かんの事例は後を絶ちませんでした。
なお、吉見さんの『従軍慰安婦』は、いまの「慰安婦」を問題をめぐる議論に少しでも関心をお持ちの方は、まずご一読しておくことをお勧めします。公文書に基づき、上海事変(1932)のなかでまず海軍が設置した「慰安所」が、いかに東南アジア、太平洋に広がっていったか、そして、どのように女性たちは徴収されたのかが、詳しく論じられています。また、本書では、この制度が、当時日本が批准していた国際法にいかに違反した制度であったかについても言及されています。 (続く)
「8.14によせて (中)」は、9月11日にアップされる予定です。