2014.09.18 Thu
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 50代は女性の人生の真っ盛り
50代の女性は立派な現役だ。彼女たちは日々、仕事や家族、また、世の中のあれこれにぶつかって、七転八倒している。人生真っ盛りなのだ。
ところが、50代の女性は、社会のいろいろな面から忘れられているのではないだろうか? 彼女たちを現役として捉える人は、少ないのではないか? 自分の失業を機に、そのことに気がついた。
私は53歳で失業した。居場所は、スイスのジュネーブ。スイス人の夫も、裕福な両親もなし。頼れるのは自分だけ。
程なく、世の中には、50歳を過ぎて仕事を探す、それも女性に役立つ情報はごく少ないことに気付いた。仕事探しをサポートするコンサルタントは多い。しかし、私のような人間には、彼、彼女らの教える一般的なテクニックは当てはまらない。地元の言葉であるフランス語は私の母語ではなく、キャリアは30年間積んでいるが、いつのまにか専門性が高くなったことが、かえって仕事探しの門戸を狭めている。そういう私にとり、一般的な就活テクニックは、いざ実践しようとすると、自分に当てはまらないものが多いか、必要な多くのことは抜けていた。
日本で出版されている本を見ても、50代で、人生真っ盛りを生きる人を語るものは、非常に少ない。50代の読者を想定した本は、退職を控えた男性サラリーマンの退職後の人生設計をテーマにしたものならある。しかし、そういう本は、50代まで働き続けて来た女性を読者とは考えていないようだ。こうして、人生とヨツに組んで取り組む50代の女性は、出版市場でも想定外に置かれている。
私は、本書を世に出すことで、私が崖っぷちの状況から立ち直ってきた過程を経て、生き直しをするに至った経験を、読者と共有したいと思った。そういう方法で、現在50代で、人生の問題に突き当たり、解決を求めてもがき、模索する人々に寄り添い、人はどんな危機からも脱出できる、人生はいつからでも生き直せると、エールを送りたかった。
私が仕事探しをしているとき、時々年齢のことを指摘された。「あなたは年齢が高いから」、その後に、「仕事は見つかるのか?」「給料が高くついて雇う人がいないのではないか?」という言葉が続く。
そうだろうか?
人の寿命が延びて、80歳を超えた今、50代は高齢ではない。仕事でも家庭でも、周囲の人々に頼られている。そして、そういう人々にも、困難は前触れも無くやってくる。半世紀生きたからといって、運命の神様は手を抜かない。スイスでも日本でも、リストラが横行している現在、失業もする。そうなったら、ハラを括って真正面から取り組むほかない。この年だから、50歳を過ぎたから、女性だから、と言って怯んでいる余裕はない。年齢を理由に、人生と闘うことを止めるわけには行かないのだ。
そういう人間にとって必要なのは、「あなたは年齢が高いから」という同情ではない。こういう言葉は親切に見えるが、実はそこには、闘う本人の未来を閉ざす否定が込められている。必死で仕事を探す人間に必要なのは、未来のない同情ではない。年齢に関係なく、人の能力を評価する人々、そういう考え方が当たり前になっている社会だ。
現在、人口の高齢化が先進国を先頭に世界中で進んでいる。社会も変わらなければならない。就職で言えば、50代、60代の人々にも、職業訓練、就職支援などの機会が充分に与えられなければならないと思う。
現に、50代女性の、再就職支援ニーズは大きいのではないだろうか。現在私は、失業中の経験を生かし、仕事を探す50代女性を支援するワークショップを開催している。全くのボランティアで、資金ゼロで始めた。
〝アトリエ50+〟と名付けたこのワークショップの定員は五人。同じ境遇にある女性たちが毎月一回集まり、互いに仕事探しの情報を交換したり、履歴書に年齢をどう書くかなど、切実な疑問にアドバイスをし合う。毎回、採用面接、心と健康の関係など、色々な専門知識のある友人たちに頼み、ゲストとして参加して貰ってもいる。
人は集まるだろうか? 不安と期待半々の気持ちで始めた〝アトリエ50+〟だが、これが当たった。アッという間に、定員五人のところに、毎回二倍近くの申し込みが来るようになった。大した宣伝はしていない。私が手製のビラを会った人に手渡すか、
アトリエ50+〟の主旨に共鳴してくれる女性の支援活動を行うNGOが、ニュースレターや、ウェブサイトに載せてくれている。
〝アトリエ50+〟に集う女性たちは、能力も経歴もさまざまだが、皆、素晴らしい人たちだ。彼女たちになぜ仕事がなかなか見つからないのか、不思議である。履歴書の年齢を見て就職を断るのは、社会の損失だ。
仕事探し以外にも、50代の女性がヨツに組んでいる困難な課題は沢山あることだろう。
私は、本書を出すことで、一生懸命に生きる彼女たちに「自分からあきらめないで」と、エールを送りたい。そして将来は、多様な年齢、性別、文化を持つ人の集まる、つまりダイバーシティ豊かな社会を育てる力になりたいと思う。
(筆者 『女性情報』2014年8月号より)
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