2015.04.22 Wed
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.初読美:姉から弟への異性愛的な思慕を軸にした家族のものがたり、というのかしら。
再読子:十年間閉ざしていた東京杉並の生家に、姉弟が再び住むところから物語がはじまる。姉〈都〉が廃屋をひらくと、弟〈陵〉との子供時代、〈ママ〉〈パパ〉の語っていた大戦前後の一家の記憶が、重層的に浮かび上がる。
再:姉弟の〈ママ〉が強烈よね。自己中で〈男をふりまわすのが好き〉なコケット。
初:〈おじいちゃま〉の妾の娘なのよね。お妾さんが東京大空襲で亡くなってもらわれてきた娘。
再:正妻の長男は、家業を嫌って高卒後家出。妹である〈ママ〉が〈都〉〈陵〉を産んで住まっていた杉並の一軒家にころがりこみ、姉弟の育ての〈パパ〉となった。〈パパ〉とは別の誰かが、姉弟の〈遺伝学上の父親〉らしい。
初:姉弟がそれを知るところまで読むと、第一章で仄めかされる〈隣にいる陵の寝息をたしかめる〉、弟と添い寝というスキャンダラスな描写がふにおちてきたの。この姉弟は、じぶんたちの育ての両親の関係を確認したくて、添うて暮らしてみるのかしらって。
再:でもさ、〈2013年の今、わたしは五十五歳、陵は五十四〉、十年ほどまえから〈わたしと陵は、以来ずっとわたしの部屋で寝ている〉、ちょっとキモチ悪くない?
初:倫理的にはね。でも複雑な家庭だし‥。
再:それにしても、オヤ世代が異母兄妹、コ世代が異父姉弟、二世代そろって夫婦生活って‥
初:露骨にいわないでよ! 異性のきょうだいへの愛情が、異性愛の原型だからだと思うの。
再:「愛情」ねぇ。なんでもくるめるべんりな言葉。
初:じゃあ、「所有欲」っていおうかしら。小さいころ〈都〉は、弟を見ながら〈わたしのおとうと、わたしのもの〉と強く思った。
再:文化誌的にみるなら、近縁者での結婚を好む家族って、王族とか、地位や資産を囲い込みたい一族よね。
初:〈部屋住みのすかんぴん〉だけど目端のきいた曽祖父と祖父、二代で築いた商人の家柄だし、資産といっても‥。
再:〈商売を身内で固めた〉本郷の〈紙屋〉。〈社長〉のお気に入りで有能な〈武治さん〉は、運営の中核なのに親族ではないから生涯〈部長〉どまり。この家族、プチ資産家よ。
初:〈武治さん〉は〈ママ〉との縁談を、〈結婚は、きらい〉のひとことで拒まれたからね。
再:〈ママ〉はアプレゲールのシングル・マザー。〈パパ〉は高卒の家出人だけど、彼に、姉弟を大学まで出す資力、あると思う?
初:〈パパは、いくつかの会社をてんてんとしたあと、五十代になってから武治さんの下で働き始めた〉‥ちょっと心もとないわね。
再:〈ママ〉と姉弟を、だれかがバックアップしていたはず。重要なのは〈真実の父〉が誰かではなく、誰が“俺が親父”と信じてたかよ。
初:じゃ、〈武治さん〉? でも〈武治さん〉は〈ママ〉から縁談を反故にされてすぐ、べつの人と結婚したのよ!?
再:あと疑わしいのは、〈社長〉。杉並の〈家を社長がママに買ってやった〉っていう。
初:〈社長〉‥、でもそれ、〈おじいちゃま〉じゃない!
再:妾腹の娘が庭付き一戸建てをポンと買ってもらえて、かつ、そこまでしてもらって縁談を拒めるって、なにか怪しいと思わない?
初:えっ? 〈真実の父〉って、まさか‥。
再:知るもんですか。ただ、〈社長〉には家をあげたいくらいやましいことがあったのな、って。
初:でも、やっぱりそれって、近親相姦でしょ?
再:〈ママ〉は芸者の娘だし、誰のタネかはわからないもん。
初:考えすぎよぉ~。だって、ほら!
再:〈ママが生きていたころの生活費はパパがかせいだお金に依っていたのだけれど〉。大本営発表じゃない? それよりその続き。〈ママは余剰ぶんを自分の名義で貯金していた。だから、ママが死んだことによってパパが得たお金は、ほとんど一銭もない〉。
初:〈パパ〉は〈ママ〉の、戸籍上は兄で、夫婦ではないから‥。
再:相続って、法的な配偶者と直系の子が優先だもん。杉並の家が震災で破損して処分するときも、〈パパ〉にはビタイチ渡らない。姉娘の〈都〉の語りによると、〈陵ときっちり半分わけした土地のお金は、ひとまず銀行に預けてある〉。資産はぜんぶ、子どものほうがもってっちゃう。
初:相続を考えると、育ての〈パパ〉、かわいそうね。
再:弟〈陵〉も、なかなか憐れよ。恋人できるたび〈ママとわたしは陵の女のわるくちを楽しんだ〉。
初:こんな姑・小姑がいたら、結婚、ためらうわよね~。
再:スペルマとともに撒き散りがちな一家の資産を、身をていしてひとつところに押さえ込んだ母娘の周到さに瞠目するわ。
初:姉弟ともに中年シングル、子なし。仲良く同居、老後も安泰。でも、これって幸せなの?
再:「長者三代伝わらず」。姻族内での財の消化に腹をくくり、インセスト・タブーを解禁にした家族の物語から、おとろえゆく日本経済の「水声」を鑑賞すんだわ。
杵渕里果
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