2009.09.09 Wed
「おんなの幸せに手本はいらない-天皇制がなくなったら、こんないいことあるよ!」と題する集会が、2009年8月29日東京都・文京区男女平等センターにて開催された。
本会は、これまで大阪で開催されてきた、日常と連続性を持つものとしての天皇制を考える「天皇制とフェミニズム」シリーズの第5回目となり、前回に引き続き、女性と天皇制研究会と日本女性学研究会との共同主催にて、今回は初の東京での開催となった。本会は、5名のパネリストがそれぞれの問題関心でテーマを持ち寄ってのトークとディスカッションという形式で進められたが、広報期間が短かったにも関わらず盛況で、終始平和でありつつも熱い議論が行なわれた。
はじめに、女性と天皇制研究会の桜井大子さんより、本会の趣旨説明が行なわれた。現在の天皇制をめぐる状況は、「雅子バッシング」のように、「女というものは〇〇で当たり前」というようなジェンダーの問題と深く結びついている。 しかしその雅子への大衆の同情もまた、社会への批判を伴わない週刊誌レベルに留まっており、その土俵で議論する限りは問題の核心に迫れない。それらを社会構造との関連で議論する会としたい、という説明がなされた。
パネリストの堀江有里さんのお話では、日本基督教団での運動や歴史から問われたこと、自身の反天皇制運動とのかかわりについて出発し、さらに同性間パートナーシップにおいて法的保障が求められるなど、非ヘテロセクシュアルの運動の文脈においても、天皇制と関連する「であろう」家族主義が踏襲されることの問題について述べられた。また、天皇制と相通じる一方、それを問う側をも含む社会全体において疑問視されないヘテロセクシュアル中心主義の問題、また、様々な社会運動の連帯の困難さに触れられた。
堀江さんのお話では、さらに、本会のテーマである、「おんなの幸せ」における「おんな」とは誰のことを指すのか、サブテーマに「天皇制がなくなったら」とあるが、天皇制が「なくなる」ことは実現しうるのかという問いや、そのようなポジティブな実現の理想を掲げた運動への疑問が提示された。
次に、大橋由香子さんのお話では、当初婚姻制度自体を問題視していた日本のフェミニズムの関心が、婚姻制度を前提とした夫婦別姓の要求にシフトしていく、不妊治療を受ける当事者への配慮から生殖技術への批判が弱まる、など、フェミニズムの「ものわかりのよさ」について触れられた。社会構造を問題視する主張が、多様な要求を持つ(特に女性たちの)声にたいし、自らの立場から向き合うことなく、主張を弱めそれらを受け入れていく問題性が述べられた。また、政治性が生じにくいそのような構造は天皇制との関連においても、天皇ファミリーのイメージが現実の家族のあり方とずれ場合によっては支持を得られなくなる危険性を、雅子という「手本から微妙にずれる」イメージにより回避されているという現状にも見いだせるというお話もなされた。
また本会では、報告者自身も日本女性学研究会会員としてパネリストに参加させていただき、天皇制がどちらかといえば「好かれる」一方、フェミニズムは「嫌われる」社会について、天皇制は、国民としてまた週刊誌レベルで「身近な存在」であるが、その存在によって自らの生き方が問い直させられることのない「客観的」な存在。しかしフェミニズムは、どこかの女が騒ぐ「身近じゃない」一方、深く関わればジェンダー構造を生きる自らの問題性と向き合わざるを得ない「主観的な」存在なのではないか。それゆえ、自らを問い直すしんどいものとしてフェミニズムが嫌われるのでないか、また、自分自身の中にある性差別構造を問い直すことなく、上からの「啓蒙」や「救済」としてのみフェミニズムと向き合うかぎりは、それは天皇制を支持するメンタリティと遠くないものなのではないか、などを述べた。
続いての海妻径子さんのお話では、家族制度や日本型雇用慣行について、現在の不安定な社会ではセーフティーネットとして伝統的な家族の回帰が叫ばれているが、実際には男性を稼ぎ手と位置付ける雇用のあり方はほとんど変わっていない。しかも、もともと日本的な雇用や家族とは、男性のみが働き女性が働かないというモデルのための保障さえ十分なわけでもなく、むしろ、男性の稼げない部分を女性が働いて補う、女性を家族労働者として搾取するという問題含みなものであるという指摘がなされた。また、日本のフェミニズム研究が天皇制問題を大きく取り上げてこなかったことについて、女性学が女子大学、短期大学という、大学の中でも周縁化され体制への妥協により存続をはからざるを得ない場で発展したことと無関係ではない気がすると指摘した。
本山央子さんのお話では、戸籍制度がレイシズムと密接に結びついている問題について、男系世襲にもとづく天皇制が、「純粋な日本人の血」というファンタジーを再生産しナショナリズムを培養する機能を果たしていることが、外国人の戸籍表記の問題や、外国人女性が日本人家族との関係においてのみ限定的に権利を与えられているために、入国管理制度や国籍法によって影響を受ける問題から述べられた。そして、「天皇制がなくなったら」という問いに答えることは難しいが、少なくとも天皇制がある限り、レイシズムもセクシズムもなくならない、と結ばれた。
ディスカッションでは、天皇制が理想的な家族の規範やイメージを提供しているという点について、天皇のあり方も普遍的なものではなく、歴史的に変化している点に着目し相対化することも重要であるという意見が出された。また、天皇制がなくなったらどのようになるかを語る際、少なくとも、天皇制が廃止しない限りは諸外国との関係性も変わらず戦争もなくならない、という視点をはずしてはいけない、という声もあがった。また、天皇制や家族の幻想が男性間の格差や権力関係の矛盾を不可視化し、男同士の連帯の見せかけを作り、そのような議論の中では男とつながらない女が排除されること、その顕著な例がレズビアン差別である、ということが議論された。
また、反天皇制やフェミニズムを含む運動や活動のあり方について、必ずしも「ものわかりがよい」ことが問題なのではなく、譲れない点をキープしたまま柔軟に対応していくことも必要なのでは、という意見や、一方わかりやすくポジティブな運動のあり方が良しとされ、批判をしていく運動が陰気臭いとされる昨今において、簡単にわかりやすい視点を作り上げてしまうのではなく、批判の中に留まり続けることも必要ではという声も上がった。
天皇制の問題を様々な角度から議論するのみならず、あらゆる差別や権力構造に抵抗していくことの重要性、また、そのような抵抗を行なう際の運動のあり方への反省や提案が行なわれ、時間いっぱいまでディスカッションの続く熱い会となった。
【報告 荒木菜穂(日本女性学研究会)】
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