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2000年代における韓国の女性政策・法律の変化とバックラッシュ: 第3回立命館大学ジェンダー研究会レポート
2010.09.28 Tue
水野有香
2010年9月10日、同志社大学にて行われた第3回立命館大学ジェンダー研究会に参加してきました。WANのイベント情報で同研究会の開催を知り、韓国の女性政策の現状を知りたかった私は渡りに船と京都まで足を延ばしました。
報告者の朴宣映先生は、流暢な日本語を駆使して、小難しい法律・制度のエッセンスを素人でもわかる平易な形で報告をしてくださいました。政府の女性政策の立法をバックアップする機関である韓国女性政策研究院の研究委員のポストに就き、女性政策の立法に関わっておられる方だからこそ語れる具体的で充実した報告でした。
報告では、韓国の女性政策は、法制度については「民主政府」時期(金大中(キム・デジュン)政府と盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府)時期に大きく発展したが現実とは乖離があること、法制度の発展がバックラッシュ(軍服務加算制の復活案、男性教師クオーター制導入への動き)の原因にもなることが主に語られました。
前半に、以下の6点の具体的な法律・制度について解説されました。①雇用上の男女平等(直接・間接差別の禁止、職場内セクハラの禁止・予防、アファーマティブ・アクション、母性保護及び職場と家庭生活の両立支援)、②女性に対する暴力防止(性売買、性暴力、家庭内暴力)、③結婚・家族生活の男女平等(民法における子の姓決定権・離婚熟慮制度、家族関係登録法)、④政策の性主流化(性認知予算・決算制度、性別影響評価、性認知統計)、⑤女性の政治的代表性および国の政策・方針過程への女性の参画(国会比例代表の女性クオーター制、管理職の「女性公務員任用目標制」、国公立大学の「女性教授任用目標制」、「女性科学技術人採用目標制」)、⑥移住女性・多文化家庭(「多文化支援法」、国際結婚仲介業所に対する規制)。
この中で特に興味を持ったのは、政策の性主流化(gender mainstream)の政策でした。韓国では「性認知予算・決算制度」が国家財政法(2006年成立、2009年施行)に規定され、財政事業を編成・執行する過程で男性と女性の違いや特性がきちんと反映されたかどうかを事前・事後に評価され、不平等が発生した場合は予算の過程改善作業が行われるという画期的な制度が導入されました。また、女性発展基本法の規定により、政策の「性別影響評価」が導入されており、各省が評価書を作成し女性省に提出することにより政策が男女に与える影響を分析しているとのことでした。この二つの制度は、男女平等社会を築く上で極めて有効かつ重要な手段となると思います。日本の道しるべとしても、今後その動向・効果をチェックしていく必要があるでしょう。くわえて、韓国ではこれらを実行するために必須である性認知統計も導入されていますが、日本ではまだ十分とは言えません。研究資源としてもこれらのデータ整備は必須で、早急に導入してほしいと切に願います。
後半には、進歩的女性団体が大きな役割を果たし女性関連法制度は整備されつつあるものの、現状では女性の地位はそれほど高くなく、制度で現実を変えるのは限界があると指摘されました。確かに、数値上では韓国国内の変化は思いの外小さく、現在の日本と韓国の女性の置かれている状況・抱える問題に大きな差はないかもしれません。しかし、教育水準の向上、性別賃金格差の減少、公職進出の増加など明るい兆しも見えており、長期的に見れば、制度を整備した韓国は着実に女性の地位向上・男女平等化を進めていけるのではないかと感じました。他方、韓国においても、日本と同様に女性労働者の非正規化が進んでおり、整備されたこれらの制度からの排除が問題となっているようです。この点については、類似した労働環境の日韓で知恵を出し合うことが有効であると再認識しました。
今回の研究会に参加し、韓国の女性関連法制度の最新の情報を得られただけでなく、日韓の共通点と差異を認識することにより、日本の女性政策の優先課題が見えてきた気がします。