2011.05.14 Sat
【劇団態変『ファンウンド潜伏記』韓国公演報告】
劇団態変は役者が全員身体障害を持つ劇団である。1983年に旗揚げされ、「身体障害者の身体にこそ表現すべき美がある」という価値観を持って今日まで活動してきた。
ファンウンド氏は金満里の義父にあたる人物で、韓国に生まれ、祖国独立の為に闘い、戦後日本へ逃れ祖国の芸術を日本に広め、その地で没した。金満里は、ファンウンドの故郷韓国・固城への取材旅行の中で、固城の文化、風光明媚な風土がファンウンドという人物を産み、育み、彼の人生を方向付けたと確信し、彼の為に作品を作り、日本で死を遂げたファンウンド氏を、作品とともに故郷に返したいと考えるに至った。2009年秋の大阪での初演以降韓国プロジェクトと名付けられたこの企画は、足かけ1年半、計9回の渡韓を経て、2011年3月、韓国ソウル・固城の2都市で大喝采の中終演を向かえた。
企画始動に先立ち我々は、「韓国でのエキストラ募集」「韓国での黒子、スタッフ募集」「韓日の未来志向の交流」という企画の柱を作成した。その趣意は、「障害者が自宅や施設から這い出して、劇場に上がるまでも含め芸術である」という劇団態変の従来の価値観と、日本とは異なる歴史、現状を抱える韓国人障害者、健常者スタッフを巻き込むことで、新たな渦、あらたな文化の創出を期待しての事であった。
詳しくはhttp://www.asahi-net.or.jp/~TJ2M-SNJY/korea/syuisho.html
をご覧いただきたい。プロジェクトの報告・今後の展開は『情報誌イマージュ』51号(7月発刊予定)に特集する。購読は以下のページから辿ってください;
http://www.asahi-net.or.jp/~TJ2M-SNJY/jtop.htm
企画にあたって、エキストラ候補者の発掘には何とか目処がついたものの韓国での黒子募集が大きなネックとなっていた。また、韓国での受け入れ組織、韓国実行委員会の立ち上げも大きな課題であった。そんな折、初のエキストラワークショップの為に第2回渡韓へ向かう直前に、上野千鶴子先生が、ご友人でハジャセンター創設者、ヨンセ大学教授のチョハン・ヘジョン先生を紹介してくださった。そこからは早かった。ハジャ作業所学校の教師であるヒオックス先生と、学生10名がワークショップの見学に来てくれ、その場で黒子としての参加を申し出てくれた。さらにヒオックス先生は韓国実行委員会のまとめ役も引き受けて下さり、以後制作面ではハジャ作業場学校との二人三脚でプロジェクトを進めていくこととなる。日本でできない実務をほぼ全てヒオックス先生が引き受けて下さった。
ハジャ作業場学校(http://productionschool.org/)は1999年にソウル・ヨンドンポに設立された、16歳~20歳前後の若者が集まる、従来の教育とは全く別の形の学校である。1997年に起こったIMF通貨危機による経済的打撃は韓国の若者に、あらたな危機意識を与えた。一流大学、大企業、政府といった、いままで信じていた機構が揺らぐ時、自分が本当に自分らしく生きる道を模索できる場が必要であった。そんな状況の中ハジャは設立され、「クリエイティブ」を通して成長し自分の生き方を追求している。
彼らは自分が参加するプロジェクトについて徹底的なディスカッションを重ねる。計6回の渡韓のWSと稽古、本番を経た今、彼らの残した膨大なディスカッションの記録と彼らのレビュー、そして何より劇団態変の表現を自分の言葉で語れる理解者としての彼らは劇団態変にとっての大きな財産である。その一部をご紹介したい。
・バレーは可能な限り天上のものであることを望み、極限まで精巧に身体をととのえるが、態変の芸術は反対に、俳優たちそれぞれの身体の中に内在しているものを全身で表出しながら、ひじょうに個性的であり根本的な表現を見せる。
・芸術的な観点においては、障害者は健常者とはまったく違っているからこそ、わたしたちがこの芸術世界の中に入って黒子の仕事をとおして、芸術とは何であるか、人間とは何であるかについて美学的な勉強をすることができた
・劇団態変では常に本番前に、俳優、黒子、スタッフ達が一つに集まって“気合わせ(キアワセ)”をする。もしかしたら態変の芸術は気合わせのようなものでないか?全く接点がないと感じることもある人々がそれぞれ違った形で、他の役割にある存在を連結しようとする試みだと考える。
・態変の芸術はあたかも昼と夜があってこそ一日が流れるように他の位置で俳優と黒子の完全合体で成り立つ。
韓国公演では連日予想を超える観客が訪れたが、本企画の価値は、ただ単に観客動員や、興業的面で測れるものではない。本企画の趣意は、巻き込まれた参加者の主観的変化も含めてのものであった。「全く接点がないと感じることもある人々がそれぞれ違った形で」本企画を通して出会えた事、そしてその機会を与えて下さった上野千鶴子先生、チョハン・ヘジョン先生にこの場をお借りして心からお礼申し上げたいと思います。
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