2012.10.13 Sat
9月の市民交流事業は、『新・女性学への招待』を執筆された井上輝子さんをお迎えし、ブックトークを行いました。井上さんは、女性学の草分け的存在で、現在は和光大学名誉教授でいらっしゃいます。
1992年に出版された『女性学への招待』を基にして、出版以降の社会情勢の変化を書き加え、リニューアルされたのがこの『新・女性学への招待』です。
「変わった?変わらない?女性の人生-70年代から現代まで」と題されたブックトークでは、欧米で起きたフェミニズムの波が日本に到達する経緯、女性学が日本に根づき発展していく様子が丁寧に語られました。お話を聞きながら女性学の歴史を一緒に辿っていくような思いがしました。
井上さんは社会学を研究したのち大学教員となりました。就職後、間もなく渡米して、大学の女性学講座の様子を見聞きし、帰国後は日本の大学に女性学講座の設置の働きかけをしました。80年代には女性学講座が徐々に開講され始め、今では、全国の大学において女性学、ジェンダー論、男女平等参画などの講座が設置されています。
かつて学問の世界を担ってきたのは男性で、その研究対象は、政治、経済など男性が興味を持つものに限られていました。女性が興味を持つものは価値がないものとされていたのです。「女性が興味をもつテーマを研究しよう」と始まったのが女性学。女性の生き方、育児や家事、介護、生殖の問題、女性への暴力、男女平等参画などのテーマが広く研究され、社会認識が高まったのも、井上さんをはじめ先人たちが女性学を学べる道筋をつけてくださったおかげです。
興味深かったのは、社会の意識が急速に変化したことによって、以前の女性学での枠組みがそのまま適用できない実態です。社会の変化とは、例えば結婚する4組に1組が「できちゃった婚」であり、恥の意識がなくなったこと。「バツイチ」のように、離婚へのハードルが下がったこと。女性の社会進出とともに未婚のままの女性が増えるなど、個人の生き方が多様化したため、以前の女性のライフサイクル図があまり当てはまらなくなったそうです。また、各分野に女性が進出し、ステレオタイプの影響が弱まったせいか、女性一般を代表するものがなくなったとのことでした。
しかし、一方で社会の在り方は旧態依然としています。夫婦別姓はそれほど進まず、女性が国会議員など要職に占める割合は依然低く、企業は主たる収入は男性が得ることを前提としたままです。今後、女性学が社会変革に対してどのような役割を担っていくのか。女性学自体がどう変化していくのかが楽しみです。
会場に展示されたパネルには、昔の女性たちの活動がたくさん紹介されていました。なかでも30-40代の主婦の研究グループ活動の紹介や、商品の品質・衛生管理の向上に、当時の主婦らの根強い消費者活動が果たした役割が印象に残りました。
女性が結婚したら仕事を辞めるのが一般的だった時代と、出産しても仕事を継続することがもはや珍しくなくなった現在。あらゆる分野に女性が進出できていること。品質のよい商品が普通に手に入る毎日。今日私たちが当然の権利として享受していることが、数多くの女性の地道な努力で勝ち取られたものであることに改めて気づかされました。
当日はあいにく台風がまさに接近中でしたが、主催者の心配もよそに大勢の方に参加していただきました。質問や感想も数多く寄せられて、皆さんの熱意や興味の高さがじんじん伝わってくる会でした。(塚田 恵)
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