2012.11.27 Tue
11月の市民交流事業は、講演会「DVに介入する、ソーシャルワーク~一人ひとりの力を引き出す支援を目指して!」をおこないました。講師は愛知県立大学教授の須藤八千代さんです。須藤さんは、かつて横浜市の生活保護担当のソーシャルワーカーとして勤務した経歴があり、支援現場での経験をまとめた『ソーシャルワークの作業場―寿という街』(誠信書房)をはじめ、社会福祉や支援、ソーシャルワークをテーマに著書を執筆されています。
11月は男女共同参画推進月間であり、なかでも12日から25日は「女性に対する暴力をなくす運動」期間でもあります。今回は、講演会のテーマをDVとその支援にしぼってお話しいただきました。
はじめに、DV防止運動の歴史的な背景、1980年代頃に欧米で女性の人権問題として国連や世界会議などで採り上げられた経緯や、それが日本ではどのように形づくられたかの経過が話されました。
日本では2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(いわゆるDV防止法)」が制定されましたが、そこに至るまでは、民間や草の根レベルの地道な活動の蓄積がありました。また当時は欧米でのシェルター活動を見本として、日本でも民間シェルターが開設され始めていますが、その実態調査が初めておこなわれ、各自治体でも女性に対する暴力被害の調査がなされるなど、DV防止法制定前後は、日本のコミュニティレベルでのDV被害者支援の多様な取組みが始まった時期でした。
2003年には、名古屋市男女平等参画推進センターが開設されました。その立ち上げに須藤さんが関わっておられ、須藤さんは言わばセンターの生みの親です。
名古屋市での取組みに関わられた体験談として、DVとは、被害者性が明確で施策として取り上げやすいこともあり、遅々として進まなかった女性への福祉・女性への支援が一気に進んだこと。センターを開設したものの、駅から離れていて、どこにあるかわかりにくい欠点があったこと。当時、名古屋市では婦人相談員を設置しておらず、女性への福祉が十分でなかったのを改善し、2006年には市内16区すべてに女性福祉相談員を設置するに至った経緯など興味深いお話ばかり。
DVに関する世界的な動きが日本に入ったあと、各地域に広がり、それぞれの課題として取り組まれる一連の流れを改めて知ることができました。
続いて、DVを再考するために、文化人類学研究者の桑島薫さんによる『被害者を私的領域に閉ざす作用、それ自体をDVとする』という考え方が紹介されました。DVといっても、DVの起きる家族構成、家族の関係性、経済的背景、暴力被害の状況、暴力の起きる頻度、心理面への影響など、様々な状況があり、暴力を実態として捉えようとすると、どうしても一面的になってしまい、言語化できない問題を逃してしまう危険性があります。そこで、文化人類学の視点からの、「被害者を私的領域に閉ざすことになるか否かをもってDVと考える」という考え方はとても新鮮で理解しやすく、かつ包括的です。
さらに、「DVは女性の人権の問題である」という視点の重要性が述べられました。この視点があれば、支援する側は被害者の選択を尊重することができます。また、暴力被害の影響などによって、今は選ぶことができない状況であっても、被害者の本来の力が取り戻され、いずれ自らが選択できることを信じて寄り添うことができるでしょう。それを須藤さんは「becomingへの支援」と名付けています。
このように、女性の人権の観点は、女性福祉とつながっています。名古屋市の「女性福祉相談員」が「家庭福祉相談員」へと名称変更したことは、女性の人権の考え方が後退したようで残念と語られました。
当日は約50名のご参加があり、DV支援に関心のある方や、支援者の方々のお一人おひとりの存在を心強く感じました。講演会の後の交流会では、約20名の方々が1つのテーブルを囲んで、それぞれの自己紹介や取り組んでおられること、須藤さんへの質問・感想などが盛んに話し合われ、時間が足りないのが残念なくらいでした。
昨年よりつながれっとNAGOYAの活動に参加した新参者ですが、センターの開設やその後の発展が、須藤さんをはじめ、多くの方々の地道な活動に支えられてきたことに改めて感じ入りました。皆さんの思いを大切に、センターの活動が少しでも多くの方々に届くようお手伝いしていきたいと思います。
(塚田 恵)
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