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NPO法人参画プラネット☆ブックトーク(講演会・交流会)『ドラッカー2020年の日本人への「預言」』

2013.07.19 Fri

7月14日(日)に、ブックトーク『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』を開催しました。講師の田中弥生さんは著者であり、独立行政法人大学評価・学位授与機構教授のほか、日本NPO学会会長、エクセレントNPOをめざそう市民会議理事など、非営利組織論、評価論をご専門としていらっしゃいます。田中さんとドラッカーとは、田中さんが1993年に初めてのドラッカー来日講演を実現して以来、11年にわたる深い交流がありました(ドラッカーは2005年に死去)。今回の講演会では、ドラッカーの生い立ちと経験から生まれた思想の原点と彼が描いた理想の社会像について、そこから非営利組織に期待した役割と現代の日本へのメッセージなどを、交流のエピソードを交えて具体的にお話しくださいました。

ドラッカーの名前は『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』2009年ダイヤモンド社)が2010年にミリオンセラーになって以来、マネジメント論などに関心のない層にも広がりました。ところが、多数発行されているドラッカーの思想を語る書籍(やDVDなどもあるそうです)には誤解や偏りのある内容のものが多く、田中さんはドラッカーの思想が正しく伝えられていないことに危惧を抱かれていたそうです。加えて現在の日本社会のありようが、ドラッカーが警鐘を鳴らした状況と似ていると感じられ、それが、今回の著書を書く動機になったというお話でした。

ドラッカーの思想を端的に表わせば、彼が理想に描いたのは「一人ひとりが位置と役割をもつ自由社会」。田中さんの著書には、その考えに至るまでのドラッカーの体験が克明に記されています。ユダヤ系の、教養あふれる家庭で育ったドラッカーは、ドイツでヒトラーが政権を掌握した時代を体験しました。そのナチスの批判的分析から、人類が再び専制に陥らないための叡智を模索し、社会の統治論としてこの結論にたどり着いたということでした。人間が不完全なものであるからこそ、その理想を掲げ、権威的なものに終生、批判的であったというドラッカーに、わたしは人間としての大きさと魅力を感じました。田中さんに伺ったエピソードもその人柄を感じさせるものばかりで、わたしも生前にお会いしてみたかったなぁと、心から残念に思ったほどです。

その後、「一人ひとりが位置と役割をもつ自由社会」の実現のため、企業にその場を提供するコミュニティの役割を期待したドラッカーが生み出したのが、彼を世界的に有名にした組織マネジメント論です。決して企業が利益を上げ、人を効率よく働かせるためのノウハウ論ではないことが分かります。世の中のドラッカーの取り上げられ方を見るに、やはりこのあたりはずいぶんと誤解されているのではないでしょうか。その後ドラッカーは1980年代に、企業には経済的役割とコミュニティの役割の両方を望めないことに思い至り、新たなコミュニティの役割を非営利組織に託します。「非営利組織は、“社会変革(活動を通じた社会的課題の解決)”と“市民性創造(寄付、ボランティアを通じた社会参加)”の2つの役割を果たさなくては、コミュニティにはなりえない」というところ、いくつかのNPOで活動をしているわたし自身に深く響く言葉でした。また、ドラッカーが何より嫌ったのは、組織をつくる個人の「無関心の罪」。ここでは伝えきれないので詳細はぜひ『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』から直接受け取っていただきたいと思いますが、今の社会の状況を見渡してみると、示唆に富んだメッセージばかりでした。

さて、この日は田中さんの講演会だけでなく、その後、希望者のみで交流会も開催しました。15名でテーブルを囲み、とても贅沢な時間を過ごすことができました。皆さんそれぞれ実践とご経験からの発言をくださり、田中さんがそれを受けて率直なご意見を返され、1時間があっという間でした。「男女共同参画」の課題にも触れていただき、わたし自身、たくさんの考えるべき宿題をいただいた気持ちです。重ねて、このイベントの趣旨に賛同くださりご足労いただいた田中さん、参加者の皆さまにはお礼を申し上げます。

最後に、このブックトークの感想を踏まえて、田中さんがご自身のブログ(http://tanaka841.com/blog/%e3%83%89%e3%83%a9%e3%83%83%e3%82%ab%e3%83%bc%e3%81%ae%e6%84%8f%e6%80%9d/)でドラッカーについて記されています。
ぜひ、合わせてお読みいただけると幸いです。(中村奈津子)

カテゴリー:参画プラネット

タグ: / ドラッカー