エッセイ

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「ど真ん中から変える」!? ― 東国原知事の総裁選出馬発言と選挙民の選択 岡野八代

2009.06.29 Mon

 かつて、ドイツ・ナチス政権下では、ユダヤ人問題の最終的解決(ユダヤ人の全滅作戦)に至る途上で、彼女・かれらの道徳的人格をまず崩壊させたと言われている。映画『ソフィーの選択』が描いたように、たとえば、強制収容所へと送られるさい、娘か息子いずれか一人だけを一緒に連れていくことが可能なのだと、母親に選択を迫る。選ばなければ、二人とも母の手から引き離される。選んだとしても、娘か息子いずれかを見捨てることになり、その後その選択について、母親は一生癒やされることない苦悩を抱えることになる。 〈絶対に正しくない〉と思うことを選ばされること、自分が選んだことにされてしまうこと、それは、魂が汚される、心が捻じ曲げられるとしか言いようのない、人格への攻撃である。個人的な選択にだけ限ってみても、わたしたちは、正しくないと思いながら、日々小さな選択を繰り返し、心が痛むがなんとか自分に言い訳をし、リフレッシュにつとめ生きながらえている。

 しかし、政治的な選択となると、自分が選んだわけでなくとも、国民として選んだことにされてしまう。そして、強制的に税金をむしり取られ、法制度に従わされる。それが、代議制民主主義の冷徹な現実である。

 2001年、「自民党をぶっ壊す」として誕生した小泉純一郎政権から8年。たしかあの時も、「神の国」発言や、危機管理問題などで支持率が10%を切った森喜朗内閣を引き継ごうと、自民党内では変人扱いされていた小泉氏が、街角で拳を振り上げ、声を張り上げた。自民党は潰れるどころか、小泉政権下にあった2000日近くで、ここぞとばかりに国を左右する法案を通し、市民の生活を直撃する社会保障費の一方的な削減に邁進した。

 そしてまた、いま自民党は総選挙に向けて戦いあぐねている。麻生内閣の支持率は20%を切った。格差が深刻な問題となっている現在では、100名を超える世襲議員も重荷だ。しかし、かつてのような変人はもはやいない。そこに、東国原知事の登場である。「政権与党、政府のど真ん中から変えていく」という。もし、民主党が圧勝すれば、「民主党のファシズム」になると脅しをかけて、メディアをにぎわせている。

 しかし、「郵政解散」と銘打って、シングルイシューで国民に選択を迫った結果、現有335議席という圧倒的な数を誇るのは、「政権与党」である。筋の通らないことを、国民の信を得ているのは自分であるかのごとく語る政治家。東国原知事の言葉を信じた県民との約束を反故にするような知事を選んだのは、当の県民なのか。

 わたしたちにまた、選択が迫られている。

カテゴリー:ちょっとしたニュース

タグ:政治 / 岡野八代

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