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関口祐加監督『THE ダイエット』 松本侑壬子
2009.11.21 Sat
<なぜ太るのか―本当のワケは?>
タイトルを見ただけで、早や合点してはいけない。これは、よくある痩せるためのノーハウ映像ではない。もちろん痩せたい人の記録映画だが、ノーハウにとどまらず、なぜ太るのか、なぜ食べずにいられないのかの深層心理から幼少期の愛憎模様にまで遡って、こころの問題を解き明かす人間記録なのである。
だからといって、大真面目で解説ばかりの科学映画ではまったくない。本作は“コメディ・ドキュメンタリー”とうたっているごとく、豪笑から微笑みまで、全編にユーモアと笑いがあふれている。監督が明るいのである。
関口監督は在豪28年、50歳のシングルマザー。日本では“太目”で肩身が狭かったが、“体格のいい”人が多いオーストラリアでは、好きなだけ食べても一向に目立たず、何の心配もなく暮らしてきた。が、体重が95・5㌔に達し、医師から愛する一人息子のために長生きしたければ、と約40㌔の減量を言い渡される。もちろん、これまでだって、痩せるために読んだ本は数知れず、トライした減量法の数も半端ではない。しかし、どれ一つとして続かなかった。
こんどこそ、6カ月後の次の誕生日までに目標達成!を誓った監督は、思い切って減量に励む自らの姿を映画の素材にする決心をする。普通、ドキュメンタリーでは撮る側は「全能の人」であり、すべての決定権を持っている。逆に撮られる側は、受け身一方で、判断や解釈は撮る側任せだ。だから、自分自身の気づかない面や思ってもみないことをカメラで暴かれてしまう。
ところが、本作の場合は―監督の頭の中で「みっともない姿はなるべく避けたい」被写体と「なるべく深く実態を抉り出したい」撮る側との気持ちがせめぎ合う。どこまで自分をさらけ出すか、どこまでそれを自らに求めるか。その葛藤と苦悩は想像に余りある。その勇気を讃えたい。
痩せたければ「少し食べて、多く運動をする(=エネルギーを使う)」のがコトの道理。それができないから、太るのだ。なぜ? 監督は精神科医、心理療法士、肥満研究家、美容整形医、スポーツジム指導員、スタイリスト、料理研究家、パートナー紹介所所長…ら専門家に精力的に聞いて回る。汗みずくで実際にジムで体を動かし、浜辺を走り、電動ベルトに贅肉を委ねても見る。なかなか数字では思うような成果は出ない。
その一方、精神科医ジョージ博士の的確で巧みな問診により、関口監督の過剰な食欲の深層心理が次第に明らかになってくる。肥満の最大の源であるピッツアは不幸な結婚生活の所産だ。幼少期大好きな父と外出しては母に隠れてお腹いっぱい食べた洋食。あれは娘にとって本当の父の愛と言えるのか、とジョージ博士は問う。むしろ、栄養バランスのいい手料理(和食)をつくって待っていてくれた母親の愛情こそ本物の愛だったのではないか、と。
少しだけスリムになった独身女性として、関口さんは思いもよらぬ試みに挑む。まるでモナリザのように変身した監督、いやユカさんは…。
ダイエットしたい人も不要な人も、元気になること請け合いのハッピーエンディングだ。
(「シネマ女性学」2009年8月号初出)
*「シネマ女性学」は月刊「We Learn」に掲載中です。
(よみもの編集局より付記)
大阪シネ・ヌーヴォXでは11月14日から27日まで上映中
そのほかの上映情報についてはこちらから
「theダイエット」公式サイトはこちらから
松本侑壬子さんの解説もあります。
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