2010.03.14 Sun
「日本のジェンダー平等の達成と課題を総点検する――CEDAW(国連女性差別撤廃委員会)勧告2009を中心に――」報告
女性差別撤廃条約が30年前に採択されていたというのに、その条約の審査機関の略称CEDAWをセドウ、あるいはシードウと読むことさえ知らなかった。そういった小さなことだけでなく、たいへん学ぶところの多いシンポジウムだった。学術会議だから研究者の研究発表を想像していたが、だいぶ予想と違い期待以上だった。世論も民法改正に関心が集まる中、時宜を得た企画で、現役議員である福島みずほ大臣と小宮山洋子さんを招き、学問研究の立場からジェンダー平等がいかに達成されていないかが報告された。
シンポジウムでは、各報告者の主張と根拠となる事実や考え方が提示された。報告の一部をふりかえってみたい。
伊藤和子さんは、はじめに条約の前文にある「女性も含めて人はみな生まれながら自由で平等である」を示し、わたしたちに原点の確認を促してくれた。この日、たまたま入り口でオランプ・ド・グージュのシンポジウムのビラをもらっていたこともあり、グージュによる200年以上も前の同じ宣言を思い出す。「女性も含めて人はみな生まれながら自由で平等である」は、いまでも強力で有効なステートメントなのだ。伊藤さんの報告からは主に、勧告された義務について日本人がほとんど知らないこと、日本政府が無視し続けている勧告の存在を知った。
吉岡睦子さんは、国内法の整備がなされていないこと、とりわけ民法改正にテーマをしぼり、日本の家族法が法の下の平等を実現していないことを示す。今までずっと夫婦別姓問題と男女差別のつながりが悪いと思っていたが吉岡さんの報告で腑に落ちた。メディアや議会では、それらがつながっているようには問題提起がなされていないのだ。しかしよく考えてみれば、どちらかの姓が選べるといっても95%以上の夫婦が夫姓を選択する実態と、多くの夫が世帯主になることはつながっている。そのうえ世帯主を決めることは夫婦間の力関係を決定することにつながる。夫婦間の平等が保障されていないことは明らかだ。なんと説得力のある論理だろう。
朝日新聞の竹信三恵子さんの、わかりやすい記事がなければ、わたしはCEDAWにここまで関心をもたなかった。今回の竹信さんの報告も、数字を見よ、結果を見よ、勧告を見よ!の流れで具体性があってわかりやすい。市民から官僚まで現場の声が伝えられた。同一労働、同一賃金のめやすが裁判官でもわからないぐらい具体的になっていないとは驚きだった。
牟田和恵さんは口調が柔らかいのに、内容が厳しかった。テーマは女性に対する暴力。シンポジウムの進行からいえば、聴衆としてもここまでにCEDAWと日本政府の話のかみあわなさについてあらかた飲み込めてきており、ほどよいタイミングで個人レベルの意識改革の話がきけることになった。一般の意識として、強調されたのが女性の権利意識である。性暴力問題では、自分を守る権利意識と性行為における男女平等との関連性を指摘。この問題提起は多くの女性に共感されたことと思う。
阿部浩己さんの報告によって、ふたたび最初の報告者である伊藤さんと同様のテーマにたちかえる。阿部さんは日本政府の対応の変遷を追い、なぜここまでかたくなに不誠実なのかを問い続けてきた。最後に出された提言には福島大臣から前向きな答えを得たいっぽう、与党民主党の小宮山議員からは連立与党で一部足並みの悪さという言い訳もあった。それでも閉会挨拶で辻村みよ子さんが強調されたように、「まずは民法改正とポジティブアクションから。」今このときに追い風を受けたテーマに、可能な限りの手段を用いて取り組めばよいのだ。
以上の報告者に加え、討論者では伊藤公雄さん、大沢真理さん、小宮山さん、コーディネーターの上野千鶴子さんと、これだけ専門性の高い、熱いジェンダー平等意識をもった識者を集めて教えをたまわったのだから、次にわたしたちは、これをわかりやすく、より多くの人に伝えていかなくてはならない。残念ながらCEDAWや撤廃という言葉には親しみにくさがあるからだ。わたしは、「いまだに日本には女性差別がある、日本から女性差別をなくしたい。」そのような主張からはじめたいと思う。
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