2010.04.06 Tue
3月27日・28日の二日間にわたって、「ベーシック・インカムで繋がれるか・変えられるのか」と題して、同志社大学で集会が開催された。参加者は延べ約600人。
27日は、BIイタリアネットワークのアンドレア・フマガリさんの講演とパネルディスカッション。28日はBI世界ネットワークのガイ・スタンディングさんの講演の後、リレートークとワークショップがもたれた。
リレートークでは、1.シングルマザーとベーシック・インカム・白崎朝子さん(安全な労働と所得保障を求める女性介護労働者の会)、2.女にとっての労働を考える・屋嘉比ふみ子(ペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス)、3.障害者の所得保障とベーシック・インカム、4.「大学の社会化」から「社会の大学化」へ、5.“辺境”でのベーシック・インカム というテーマで、様々な分野から5人の方が問題提起した。 分科会は4つに分かれたが、私は「シングルマザーにとってのベーシック・インカム」に参加した。ここでは、「まずは社会的コストを高めること」「雇用の問題を解消すること」「社会保障の徹底・教育費、住居、医療などを充実させること」など、私がリレートークで提起した課題と重なる意見が出された。また、民法や戸籍制度の問題など、シングルマザーにとって深刻な状況が多数出され、とても活発な意見交換ができた。
二日間この集会に参加してまず感じたことは、BIネットワーク主催者の趣旨には、女性の労働権や女性の貧困というジェンダーの視点が抜け落ちているということだ。現在全労働者の41%以上が女性であるが、女性労働者の54%が非正規で不当な賃金格差や身分差別を受けている。均等待遇は保障されず、女性のワーキングプアは半世紀も続いてきた。その現実を無視した形で、BIさえ実現すれば、他の条件も揃うはずという安易さは如何なものだろうか。60年代後半の、「社会主義革命さえ成功すれば女性差別もなくなる」という男たちの現実逃避に酷似しているといえる。
政治や経済の状況はとても複雑だ。民法すら改正できない超未熟な社会である今の日本の現状で、BIを重要課題として求めるのは危険すぎる。均等待遇を実現できなかった、あるいは男の既得権を保持するために実現しようとしない労働組合の責任こそ問うべきではないか。最低賃金の大幅増額や公正な雇用の確保が前提として考えられなければならない。
少なくとも、女性の貧困をなかったことにして、また女性の仕事の価値を見なかった、見えないものと捨ててきた現実を反故にしてBIを!という要求はありえない。
「生まれて生きている、それだけで価値がある」と誰もが実感できるためには、住宅、教育(保育)、医療(介護)などの社会保障の実現と均等待遇がセットでなければならない。BIは身分差別や不当な格差を解消することはないし、むしろ格差拡大につながるかもしれないと危惧するところである。新自由主義に取り込まれ価格破壊が一層進む恐れもあり、極めて慎重に議論を重ねるべきだと痛感した。
(屋嘉比ふみ子 ペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス)
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