エッセイ

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「払えない? もらえない? 税金 年金」に参加して ちびがえる

2010.04.26 Mon

*第一部
 小雨の降る中、ウィメンズ・プラザにかけこんだ。大沢さんのスライド資料と、関連する新聞記事などをいただいて席に着く。資料の束からも厚みのある内容に、期待が高まった。

・男稼ぎ主型社会と税・社会保障の逆機能
 大沢真理さんの講演の趣旨は明快だ。日本には主要国で最大の分厚い貧困層がある。その原因は政府・経済界が男性が一人で稼ぐ「男稼ぎ主」型の家計・雇用・生活保障のモデルに固執し、さらに、雇用・賃金の回復なき景気回復を政策的に目指してきたことにある。さらに、社会福祉と税金による再配分機能が、あのアメリカと比べてすらきわめて貧弱なのだ。どころか逆機能(目的と正反対の効果を生むこと)している。なんと、税金と社会保障関連費用を徴収し、再配分した後、日本においては相対的貧困率が上がりさえするという

・女性の貧困から生まれる家族・子どもの貧困
 OECD事務局長は日本の成長戦略には、女性の活用が不可欠だと指摘したと言うが、実際、女性の稼得力が低く押さえられていることは、貧困の形成に大きな貢献をしている。母子家庭は世界トップクラスの貧困率を誇り、しかも母親が働いている家庭の方が貧困率が高いのである。(逆機能のせいだ)一人暮らし高齢女性の半数近くが貧困。可処分所得レベルの相対的貧困率は米国に次いで2位につけている。男の一人稼ぎがきつい家庭でも、働いても貧困、どころか、共稼ぎでも貧困は今や当たり前。ダブル・インカムはリスクヘッジにならないのである。
 これを読まれている方も、ああ、そうそう、住民税が信じられないくらい高くなったなあとか、社会保障費を払うと家賃が苦しいんだよなあとか、おもいあたられるふしがあるのではないか。最低賃金に近い層でもフルタイムで働けば貧困に陥ることがないという北欧諸国とは対照的だ。

・生きにくい国・ニッポン
 こうした社会が暮らしやすかろうはずがない。日本は韓国とならぶ、これまた世界トップクラスの女性自殺率を誇り(男性は世界で10位くらい)、出生率は低迷を続けている。

・作られた財源不足
 政府は長らくこうした状況を認めては来なかった。OECDのデータはあてにならないと首相がうそぶき、社会保障給付の伸びを厳しく抑制した。(社会保障負担率は一貫して上昇しているのに!)90年代後半からは法人税減税と所得税累進の緩和をくりかえし、年間20兆円ほどの減税を法人と高額所得者に対しておこなってきたのである。社会保障の財源が無くなったのはなぜなのか、考えるまでもない。社会保障を充実させると増税が起きる、財源がないとすぐに叫ばれるが、それはつくられた財源不足なのである。
 日本経済は、サブプライム関連の金融資産の影響が少ないはずにもかかわらず、主要国の中でも激しい落ち込みを経験していた。原因は輸出の落ちた時に経済を支えるはずの内需がきわめて貧弱だからである。景気が回復しても、増えるのは企業の内部留保分だけで、雇用や一般の所得回復に一向に結びつかないのだから当然だ。企業は景気の良い時も悪い時も、雇用を増やしや最低賃金をあげれば経営がたちいかなくなると強弁するが、ここにもつくられた財源不足があるといえよう。

・「生活の協同」に根差した福祉政府を
 さあ、こんな薄暗い気持ちになるような現状を打開するには……「生活の協同」に根差した福祉政策を、というのが大沢さんの答えである。中央政府がミニマムな補償を行い、地方政府が多様で個別的な個々人のニーズを満たすよう、ユニバーサルな財・サービスを保証する。(ナショナル・ミニマムの基準を設けて)そしてなんと、社会保障を専門に担当する「政府」をそれと別に設けて被保険者や事業主の代表を参与させるという。税制の累進を見直し、逆進的な社会保障負担を見直す。年金を一元化し、個人単位の年金に作り直す。労働年齢人口への給付サポートも考えられなければならない。
 最後は時間が足りなくて、駆け足で語られた改善策は、今後政策に生かされていくことを期待したい。こうして休憩をはさんで、こんどは大沢さんへのレスポンスや一言発言が行われる第二部に入った。

*第二部
 まずは小宮山洋子議員がレスポンスを行い、第三次計画は、第二次計画での後退と失われた時間を取り戻し、誰もが身近に利益があるようなものにしたいという熱意が語られる。福島瑞穂大臣からのメッセージも寄せられた。
これに対して一言発言が行われる。「シングル子なし非正規雇用」の女性、同一価値労働と同一賃金をみとめた判決を勝ち取るべく戦ってきたシングル・マザー。派遣切りと取り組む青年ユニオンの男性。セクシャルマイノリティ支援ネットワークの女性。男稼ぎ主型・専業(兼業パート)主婦前提の社会構造の中で生きる苦難や、不当な扱いがそれぞれに生々しい言葉で語られた。

 ILOや女性差別撤廃委員会の勧告を無視し続けている政府、130万の壁で女性を巧妙に分断する主婦優遇政策、身分として固定化され不当さへの反論を封じる派遣労働、失業中でも借金として積もっていく税金の請求、結婚した男女以外にはパートナーシップも優遇もDVからの保護も認められない社会制度など、まさにさきほどの大沢講演で指摘されたゆがんだ社会政策の生み出す、個別具体的な状況を訴えるものだろう。
ことに、セクシャルマイノリティ支援ネットワークの方からの発言は心に残った。今の日本において、あらゆる枠にはまらない人への社会保障はなにもない。配偶者のあるなしで補償に大きな差があるということに疑問がある。特定の生き方の人にしか、この国の法律は用意されていない。自分も、同じ社会の仕組みに参加したい。税金をとられるだけで何の還元もされないなら、今まで払った分を返してほしい。「性や生き方に中立な政策を」というのは、典型的な生き方にはまらない人に何を与えられるかということで決まるだろう、と。

 途中で退出しなければならなかった大沢さんが、「主婦は敵だ」と思わざるを得ない状況があるというシングル女性に、配偶者控除だけでなくて、年金制度と健康保険制度の影響が大きいことを説明する。103万より、130万円の壁の方が実は大きいのだ。こうした状況も、年金を一元化すると解決する。それで残るのが医療保険だが、医療は国営無料にすべきであるという。世界で医療費が一番高いのはアメリカだ。民間だけに放っておくということが、アメリカの医療費の高騰をもたらしている。医療をユニバーサルにしている国は逆に医療費が押さえられているというデータがあるのだ。

 小宮山議員からは、政権を変えて、もっといろんなことがとっとと進んでほしいと思っていることは痛いほどわかる。しかし、55年ぶりに政権が変わったということ、この大転換にはすこし時間がかかるということを理解してほしいという発言があった。しかし、今回提言されたことは、第三次男女共同参画にもかなりもりこんでいるということだ。第二次計画が非常に曲げられていたことを、本来の男女共同参画に戻したい。真意が伝わっていない子供手当も、元は配偶者控除をなくすところからはじまっているのであって、控除から給付へ、ユニバーサルな制度をという方向は堅持するということだった。

 てきぱきした司会の皆川満寿美さんから、すばやく、それぞれの課題が参画計画の第何分野に盛り込まれているのか補足がされる。
小宮山さんによれば、最低賃金1000円などまだ取り組みができていいないものも多いけれども、参院選で新しいマニフェストを出すべく、現在鋭意ヒアリング中だという。ご覧になっているみなさんも、どしどしパブリック・コメントや、意見、要望を寄せて、意見を反映していこう。財源不足や、国際競争力の低下や、バラマキ批判。あらゆる手を使って脅し文句を並べるのは、社会制度を転換したくない人たちの焦りであって、大沢さんのデータを見れば不可能なことでもなんでもないことがはっきりしている。

 「女性でも男性でも、子どもを産んでも、シングルで生き続けても、結婚に失敗しても、性や生き方に偏らないで、働いて年金や医療や福祉を受けられる、だから税金も払える、でも働けないときには保障がある、そうした政策転換ができる大チャンス。税や社会保障、手当、働く在り方すべてをジェンダー主流化することで、もっと生きやすい社会を」という集会の文句はすばらしい。だけど、そんな社会は、天から降ってくるものでも、座して待っていればくるものでもない。ユニバーサルな制度は、個別具体的な状況から声を上げ続けて、それは私にとってはまだ不十分だと修正し続けることで、ようやくユニバーサルに近づいていくのであろう。ジェンダー主流化は、その重要な、しかし、まだはじめの一歩に過ぎず、それすらわたしたちはまだ達成できていないのだから。

カテゴリー:ちょっとしたニュース

タグ:経済 / 老後 / 社会保障