2010.07.08 Thu
CINEMA「ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実」「ウィンター・ソルジャー/ベトナム帰還塀の告白」
今年、2010年は、ベトナム戦争勃発(南ベトナム民族解放戦線結成)50年、集結35年。第二次世界大戦後、最大の戦争といわれるベトナム戦争では、それまでの戦争とは違っておびただしい映像記録や劇映画が生み出された。その起点となったのが、これからご紹介する2本のドキュメンタリー映画である。製作から40年以上もたつこの夏に、ようやく日本で初公開されることになったのである。 1975年米アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞受賞作「ハーツ・アンド・マインズ~ベトナム戦争の真実~」(ピーター・デイヴィス監督)と、1972年ベルリン国際映画祭受賞の「ウィンター・ソルジャー~ベトナム帰還兵の告白~」(製作委員会等製作)の2本は、ドキュメンタリー映画史上最高傑作の呼び声の高い作品であるが、アカデミー賞授賞が決まってからでさえ、授賞式の席上で賛否をめぐる論争が繰り広げられるなど大きな波紋を呼び起こした。日本では劇場公開が見送られ、深夜のテレビ番組やVHFでしか公開されなかった。もう1本の「ウィンター・ソルジャー」(製作委員会製作)。
「ハーツ…」は、様々な取材映像、証言、ニュースフィルムを駆使して、戦争の全体像を客観的に描く。政治家や官僚たちのエゴイスティックな大義名分、何世紀にもわたり他国から侵略を受け続けてきたベトナムの人々の絶望と怒り、最前線から帰還した兵士らの証言、家を焼かれ、親を殺され、衣類を焼かれて素っ裸で逃げ惑う子どもらの姿、死んだ我が子を抱いたまま悲しみと怒りで凍りついた若い母親の表情…。中には、当時のニュースで見覚えのある慟哭の映像もある。
大統領から無名の庶民まで、戦争反対派、推進派、戦争経験者、あらゆる層の人々の証言と映像の積み重ねから浮かび上がってくるものは、戦争の正体。勇敢さや規律や力強さが“男らしく”“かっこいい”のは、平和時だけだ。人を殺す戦場ではそんなものは役に立たず、ただ悲惨で理不尽で、恐ろしく愚かだ。犠牲を払う甲斐のない、戦争の無意味さが証明されるばかりだ。
そして、まさにこの戦争の無意味さを、現場で味わわされて戻った兵士らの生々しい証言を記録したものが映画「ウィンター…」だ。ベトナム戦争が泥沼化していた1971年初頭の3日間、ベトナム帰還兵らによる米軍の戦争犯罪や残虐行為を公の場で証言する「ウィンター・ソルジャー公聴会」がミシガン州デトロイトで開かれた。 出席した約100人の元兵士らは、無意味で悲惨な戦争を止めさせ、自らの人間性を取り戻したいとの願いから自主的に正直に体験と思いを語った。その記録は、連邦議事録に掲載された。
人間性を消し、若者を殺人兵器へと洗脳する訓練の実態、ベトナム人(東洋人)蔑視の戦略と命令、捕虜の虐待、組織的な強姦や虐殺、村落の徹底破壊、戦場での異常な集団心理、パニック状態、そしてこれらを見聞し、実行した兵士らの心に消えずに残る深い傷…。 公聴会は、あまりに衝撃的な証言内容に、地元の一部メディア以外はほとんどのマスコミに黙殺されたという。
私自身、兵士自身が語る口にできないような残虐行為の数々に、とりわけ衝撃が大きい。戦後の民主教育第1世代の私たちは、敗戦の翌年入学した小学校でこんな歌を習った。「進駐軍の兵隊さん(米兵)は、勇ましい兵隊さん!…すごいスピード、ジープで来たよ。お早う、お早う、グッドモーニング!」と。日本に“民主主義”と“男女平等”を持ってきたスマートでお金持ちの“アメリカの兵隊さん”のイメージを、無邪気に信じていたのだ。いま、例えば若桑みどり著「戦争がつくる女性像」の中の1ページに、当時の私たちのような少女とジープの米兵の“ほほえましい”口絵を見なおすと、歴史の皮肉というか、何とも言えず懐かしさと苦さの入り混じった複雑な思いである。
だが、戦争の狂気の中で、米兵が逆の立場に立たされることも。6月公開の新作映画「マイ・ブラザー」(ジム・シェリダン監督、2009年)は、アフガンで捕虜となり人間として耐えがたい試練のために別人のように変わり果てて帰還した米軍人とその家族の話である。70年代の秀作「帰郷」「ディア・ハンター」「地獄の黙示録」などの流れを汲む、反戦の色濃い現代アメリカ映画だ。ベトナムからアフガンへ―この間、戦争が強いる非人間性に何らかの救いは見出せたか? 私には、技術の進歩に比例して、その逆方向へ向かっているように思えてならない。沖縄基地問題で揺れる今こそ、一見をお勧めしたい。
(初出「婦人之友」2010年7月号)
写真は、
①「ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実」
②「ウィンター・ソルジャー/ベトナム帰還兵の告白」
(6月19日より東京写真美術館ホールにて同時上映)
公式HP www.eigademiru.com
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