2011.05.04 Wed
4月22日のセミナーは第11回目。5月には竹中先生著作集刊行記念講演が行われますが、セミナーとしては最終回となります。今回のテーマは、「男女雇用政策のいま-世界の流れと日本」。『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』の第9講と『竹中恵美子の女性労働研究50年』の第Ⅴ期から、①男女雇用政策のいま-世界の流れと日本 ②日本の政策と到達点と問題点-格差社会の中のジェンダー、そして第5回(http://wan.or.jp/reading/?p=1057)(http://wan.or.jp/reading/?p=1243)の補足として、③取り残されてきた問題について-税制・社会保険制度改革のあるべき改革の方向、という内容で行われました。
①男女雇用政策のいま-世界の流れと日本
20世紀福祉国家の前提・性役割分業(ケアはもっぱら女性の家庭責任(無償労働)に委ねられた男性稼ぎ手モデル)は、21世紀社会において崩壊しつつあります。その要因として、労働力の女性化(女性労働人口割合の増加)があげられます。戦後の経済成長期における労働力の不足から、女性の雇用が進んだのですが、それが“労働もケアも”という柔軟な労働者としての主婦のパート労働の著しい伸びであったことは、これまで何度も取り上げられてきました。
世界の流れとして、国連の男女雇用平等政策を見ると、1980年にその分水嶺があるといえます。1965年 ILO123号勧告「家族責任をもつ女性の雇用に関する勧告」は性役割分業を前提としたものでしたが、1979年「女性差別撤廃条約」採択と1980年 ILO156条約で、家庭責任は両性へという方向に、そして1995年の北京世界女性会議「行動綱領」へと繋がります。
こうした流れを受け、1980年代以降、雇用平等政策は新段階に立ちます。その特徴は3つ。1)標準労働者モデルの転換(世帯単位から個人単位へ。男性稼ぎ手モデルが、家族責任が男女両性にあるという考え方の変化にそぐわない)と、2)「機会の平等」から「結果の平等」へ(雇用のチャンス(機会)が同じでも、ケアをどうするかという問題がある限り、実質的平等(結果)とはいえない)、3)ケア不在の「男性稼ぎ手モデル」か「ケアの男女共有モデルへ」、です。
②日本の政策と到達点と問題点-格差社会の中のジェンダー
こうした世界の状況と日本を比較してみると、次のような特徴があげられます。
1) グローバリゼーションの2つの側面
グローバリゼーションにはジェンダー平等の大きな推進力となったというポジティブな側面もあったが、日本では、雇用の不安定化や2008年の金融危機を受けての派遣切りなど、ネガティブな側面での影響が大きい。
2) 格差社会の中でのジェンダー-その実態
a:女性雇用労働者(役員を除く)の非正規化(全体数は増えているが、正規が減り非正規が伸びている)
b:税制・社会保障制度の逆機能(パート労働者の45.8%が第3号被保険者)
c:高齢期女性の貧困化(女性の賃金、就業年数の低さ→男女の年金格差)
d:産む権利と働く権利の相克(非正規労働者は子どもを産む権利が奪われている状態)
e:男性を上回る女性の相対的貧困率(世帯貧困率はアメリカに次いで世界2番目の高さ)
これらの原因として、日本が、国連などが推してきたジェンダー主流化向けた「グローバル・スタンダード」を回避してきたことがあげられます。たとえば、均等法改正では“鍵”となる間接差別規制の不徹底があったり、パート労働の日本的均衡論の堅持、また、依然として家庭責任を女性におくような、アンペイドワークの社会・経済的評価と政策化の停滞という問題があります。
結論として、日本の90年代以降の男女雇用平等政策は、いまだ「男性稼ぎ手モデル」を基礎に展開していること、EUで取り組まれてきたような新しい労働者像の確立と、フレキシブルな労働を不安定雇用労働者に囲い込むことのない、男女平等政策を欠いていることが問題だといえます。
③取り残されてきた問題について-税制・社会保険制度改革のあるべき改革の方向
税制・社会保険制度改革の改革については、大沢真理さんの年金運用方式改革案(保険方式ではなく新しい社会保障税(拠出制)に転換した、全国民加入の一元的年金制度)、そのための現行税制度の改革(日本での国民所得に対する税の負担割合は主要先進国中、最低。高額所得者の所得税引き下げが行われてきた)が必要であることなどがあげられました。
今回の講義で強く感じたことは、労働について考えるということは、税制や社会保障も視野に入れた幅広いものでなくては片手落ちになってしまう、ということでした。311の大震災以降、復興のための様々な資金調達案がニュースとなっています。しかし、場当たり的な増税でなく、総合的なビジョンが、今だからこそ必要なのだと感じています。消費税は何のために使われるものなのか、所得税はどのような役割を持つものなのか、現行の税制改革(所得税の累進課税の見直し)を含め、納得して税金を払える制度になることと、私たちの働き方、生き方が深く繋がっていることを、竹中先生のお話や、その後のディスカッションで強く思ったのでした。
今回は、「あっという間の1年だったなー」と振り返りつつの受講でした。長期間にわたるセミナーは、受講後にじっくり考える時間があるので、時間に制限のある人に向いたシステムかも、という新たな発見もありました。「労働問題って難しそう」と、これまで逃げていたのですが、自分と密着したテーマであることを、理論の面からも少し理解できたように思います(第1回で、竹中先生が「あきらめないで理論を好きになりましょう!」とおっしゃっていましたが、好きになったかどうかは……)。このような機会を設けていただいた竹中先生、企画委員会のみなさま、受講生のみなさま、そして、この特集を読んでいただいたみなさま、1年間ありがとうございました。 (堀あきこ)
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