エッセイ

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ひとり飯も好きだけど、ラザニアだけは・・・ 中塚圭子(晩ごはん、なあに?13)

2011.12.30 Fri

 晩ごはんをちゃんと作らなくなってどれくらい経つだろう。晩ごはんだけではない。朝ごはんは食べる習慣がもとからないし、昼ごはんだって仕事場で外食。つまりほとんどごはんというものを作らないで暮らすようになっている。代わりに手に入れた楽しみは「ひとり飯」。自分の作ったものを人が本を読みながら食べるなんて許せないくせに、最近の私は新聞や本を読みながらの「ひとり飯」が大好き。そんなときにはワンプレイトの超簡単飯をちょちょっと作って、テーブルのモノをちょこちょこと片づけて(或いは片づけもせず)、食べながら本を読む。休みの日の至福の時間。

 家のひとり飯も好きだけれど、外のひとり飯も大好き。一体いつから、こんなことになってしまったのか。かつては一人で食事をするのも嫌いなら、一人でレストランに入るのも嫌だったのに、それが今では一人でレストランだって、バーだって、焼き肉屋だってかなり平気だもんね。

 去年のクリスマス頃のこと。大阪での仕事を終えて京都に帰るのに京阪天満橋駅構内を歩いていたら、リバーサイドの駅ビル一階のバールの前に出た。川に面した小さな席が空いている。そうだ、川を見ながらワインを飲もう!

  川縁の席についてタパスをあてにスパークリングワインを飲みながらぼんやりと川を眺めていると、遊覧船が行き来している。外は満月。店の人に尋ねると、すぐ近くに乗り場があるという。店を飛び出て乗り場に急ぐと、季節限定特別遊覧船というではないか。

 次の船の切符を買って、夜の遊覧船の後ろの席を陣取って満月を仰ぎ見ながら、今度は一人飯から一人船旅(の気分)。船は少し京橋の方に下り、そしてターンして反対に中之島の方へと進んで行く。中之島の市庁舎はクリスマスイルミネーションに彩られ、中州の木々や動物の置物がライトで飾られ「本物のクリスマス」らしい華やかさ。まるでセーヌ川下りをしているような錯覚に襲われる。一人旅の、それもパリの一人旅のような錯覚をゆっくり味わい楽しむ(一人だと誰に邪魔されることなく錯覚のし放題なのだ)。

 こんな楽しみ方があったなんて、というよりこんな楽しみ方ができるようになったなんて、我ながら驚く。それを友人に話すと彼女いわく、「それは年なのよ」。「年? つまり老化ってこと?」。「つまり、一人でレストランに行っても、飲み屋に行っても様になる年になったということ」、だそうな。なーるほど。

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 「レストランだってバーだって若い女性が一人で行くのは本人も落ち着かないけれど、店の人だってちょっと心配なんだから」と言われると、確かにそうかも知れないと頷く。私とて、どこだって一人で行って平気というわけではない。その一番が高級寿司屋。行ったことがないから分からないけれど、さぞや落ち着かないだろう。女が一人寿司屋に挑戦する湯山玲子さんの『女ひとり寿司』(洋泉社)という本はとってもオモシロかったが、心地よく過ごしたいだけの私は一人で寿司屋には行かない。

  寿司屋に行かないのにはもうひとつ理由があって、米飯をあまり食べないほうがよいという近年わかった私の体質のせいでもある。糖分とかでんぶんを採るとインシュリンがドバーと出過ぎて低血糖になってしまうのだ。何事にもほどほどがない私のこと、インシュリンも過剰反応するらしい。

 職場の毎年の健康診断ではず〜っと異常なしだったのに。でも、食後あんまり眠くなるのがヘンなので無理に頼んで血糖値の負荷試験をしてもらったところ、やっぱり糖分をとると血糖が下がることが判明。理由は糖尿病の前駆的症状の場合もあるし体質的な場合もあるし、アレルギーなどが背景にある場合もある、という訳で要するにあんまり分かっていない。ただ、血糖値が低いと問題がないように思いがちだが、血糖値が上がったり下がったりするのは血管を傷つけるので何においても良くないことらしい。というわけで血糖値を安定に保つために食習慣を変えなければならなくなった。

 米飯、パン、麺類、甘い物を極力とらないようにしているし、それでお寿司も食べなくなった。アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.

 長年の朝食抜きの習慣も返上した。パンケーキに美味しいジャムに果物なんて朝食を楽しんだ後は決まって仕事に行きたくなくなるのは、朝から満たされて戦闘意欲を喪失するせいと思っていたが、炭水化物や糖分のないタンパク質と野菜だけの朝食にすると戦闘モードにすっと入れるから不思議。食べるとだるくなるあの感じは、糖分のせいだったのだ。

 それが分かってからは、食べるものは糖分の多い和食よりも洋食が増え、日本酒はダメでワインに変わったけれど、食べられる美味しいものはいくらでもあって困ることはない。ヒラメのお刺身とルッコラに茗荷を和えて、オリーブオイルと塩、レモンで味つけたカルパッチョサラダはお気に入りの初夏の一品だった。ヨーグルトも甘いものはいただけないので、グレープフルーツとアボガドに塩こしょう、少々オリーブオイルをたらしたヨーグルトカクテルとともに、暑かった夏にはビールの代わりにスパークリングワインの小瓶とよく楽しんだ。

 主食がダメでも味覚のうえでは困らないのだけれど、ご飯や麺類で簡単にすませることができないのは厄介だ。レパートリーも狭くなるので飽きやすいというのも困ったもの。でも、そんなときは迷わずここに駆け込む。開店当初から16年のおつきあいのイタリアン「アンチョビカフェ」(http://ja-jp.facebook.com/pages/アンチョビカフェ/103531143071414)。ここのオーナーシェフは、私の一人飯の強い味方(実はこの人、WANのサイトのシステムを請け負ってもらっているIT会社のスタッフでもあります!)。「今日の晩ごはん何?」と悩むことも、一人飯を寂しくも侘びしくもなく楽しめるのも、実はこのマイキッチン、マイシェフのお陰。何を食べるか考えたくもないクタクタのときは「お任せ」という究極のお助けつき。

 でも、最近の私の感動はコレ。ラザニア。友達のお誕生日に一緒に来たときに彼女が食べたいというので頼んだもの。「いいよ、今日はあなたの好きなものでいきましょ」と言いながらも、内心「チッ!」、お誕生日でなかったら絶対、阻止したこと間違いなし。それほど私のラザニア経験はマズイ。マズイうえにデンプン。一昨年カナダで友人宅に招かれたときの天板一杯のラザニアのボリュームと油っこさを思い出す。でも、まさかあんな量にはなるまい、レストランのラザニアってどんな形で出てくるのかしら・・・。

 運ばれてきた熱々のラザニアは小ぶりのアルミのような容器に入って、あれま、なんてかわいいこと。

 トマトソースの赤とチーズの見た目にもごってりとしたものが出てくると思っていたら、フレッシュトマトをのっけて焼いてあるので色目も鮮やかでなんとなく可愛げがある。中のベシャメルソースも珍しくカリフラワーが入っていて、香りがよく、さっぱり、まろやか。美味しい。すっかりラザニアファンになった私は、もう一切れお代わりまでしてしまった。

 うーん、でも、これは一人飯には向きません。熱々をみんなで食べてこそ、ラザニアは美味しい! 今度一緒に食べましょうよ〜。








カテゴリー:晩ごはん、なあに?

タグ: / 中塚圭子

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