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対談・ジェイン・オースティンの時代の「婚活」と今 ③ 

2012.03.01 Thu

ジェイン・オースティンの時代の〈婚活〉と今 再録・注釈付きテクスト

構成・註 川口恵子

‘KONKATSU’ or Marriage Hunting in the Age of Jane Austen and Japan Nowadays

Girls’ Talk: Chizuko Ueno and Keiko Kawaguchi Annotated Text Version by Keiko Kawaguchi

紳士淑女のダンスパーティーは「釣り堀」で「入れ食い」状態!

(前回よりの続き)

上野:紳士淑女の集うダンスパーティって「釣り堀」でしょ。釣り堀で「入れ食い」状態っていうか。もともと釣り堀に入る男も女も、選別されているわけですね。

川口:ええ・・・

上野:愛があったから結婚したって本人たちは言っているけど、私、実はこういう例を知っているんです。お嬢様校で有名な某女子大で同窓だった仲良しクラブの女の子たちが、全員それぞれ恋人をゲットして恋愛結婚なさったの。選んだお相手というのが、一部上場企業の役員の息子、医者の息子、それから弁護士の息子、と粒ぞろい。なんでこういう風に粒がそろっちゃうのっていうと、それぞれ、出会いがあったの、好きになったの、っていうんですよ。で、どこで出会ったのっていうと、乗馬クラブとか、ヨットの上とかね。

川口:出会いの場がすごいですよね。

上野:だからもう最初から、一定のハードルを越した人しか入れないような場で、出会ってるから、あとは入れ食い状態。どれを釣ってもいいんです。その時に、プラスアルファでついてくるものを愛という

川口:シビアーなご意見ですね。

上野:ごめんなさい、ロマンチストでないものですから

川口:一般社会は、庶民の婚活はどうでしょうか。庶民の合コンは・・・

上野:あのダンスパーティは今でいう合コンですね。

川口:そうですよぉ。

上野:ださいですが。

川口:ださいですが、手をとれるっていう(笑い)。皆の承認なく!

上野:公然とね。

川口:コリンズ牧師も、厚かましくも、身の程しらずにも申し込んでましたけど。

上野:いちおう、総当たりするんですよね?

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川口:それが面白いんですが、『高慢と偏見』以後の作品で『エマ』っていう作品は、二人だけで踊るワルツが導入されたあとの小説で[i]、『高慢と偏見』の時は、まだロングウェイ・プレグレシヴっていう踊りが流行していた時代なんです。二列で組になって、三組か四組くらいで踊る。そうすると、待っている間に話ができるんですね。私たちが見ていると単なる二列みたいですけど、組になっているので、三組目が待ってる時間が長くて一番話ができるという仕組みになっていた(笑い)[ii]

上野:ダンスは、当時はいわばフォークダンス・・・

川口:そうですね。

上野:フォークダンスとフォークソングっていうと、日本語に訳すと盆踊りと民謡ですね

川口:ちょっと別の映画になって恐縮なんですが、『壬生義士伝』っていう渋い日本映画がありまして、中井貴一さんと佐藤浩市さんが出てくるんですが、このお二人は、私にとってのジェントルマンなんですが・・・

上野:リッチですか?

川口:ダーシーほどにはリッチではないと思いますが・・・、すみません、ちょっと頼もしいというのが好きという意味でついジェントルマンなどと口走ってしまったわけでして・・・。

上野:じゃ、ジェントルマンとはいわない。

川口:やっぱり、ムリがありますか(笑い)。どういえばいいんでしょう。憧れの人?(笑い)。で、その『壬生義士伝』の中で中井貴一演じる会津藩出身の幕末の貧しい下級武士が妻と出会うのが村の盆踊りっていう(笑い)。そこで踊っている娘を見染めるんです。

上野:盆踊りは日本の合コンですよね。

川口:ただ、盆踊りの場合は一緒には踊らないですよね。やっぱり西洋の舞踏会の場合は、一緒に踊って、身体接触もあるところが決定的に違う気がしますね

上野:ああいう場の外で、未婚の男女が二人で出会うことはできたんですか? 日本では明治時代とかは良家の子女が親族以外の男性と外出するのはだめでしたね。

川口:シャペロンぬきで、付き添いなく話せる場として舞踏会が機能していた。あと、品定めできますよね。女性同士

上野:もちろん、男同士も女の品定めをしていますね

川口:あの狭い中で!

上野:あのジェーンっていうお姉さんがビングリーさんをゲットしましたね。あの狭い社交の場でいちばんの美人だって言われてましたが、ほかにどんな取り柄があります?

川口:気立てのよさ、なんてのがいわれてましたよね。

上野:そう。合コンの中にいた一番の美人を、イケメンのリッチな男がゲットしたわけね。

川口:すばやかったですよね、新興ジェントルマン、ビングリー氏。最初に二曲踊ってくれませんか、なんて。

上野:そう、すばやく品定めをして、一番の美人にツバをつけたわけですよね。

川口:かもしれないですよね。

上野;彼女の取り柄はまずルックス?それと気立て?

川口:そう、優しそうな。

上野:控えめで?

川口:控えめでしたね。

上野:妻にふさわしい女、と。

川口:はいはい。ただダーシーはちょっと違ったみたいですね。これも原作に書かれている後日談なんですけど、「私をどうして選んだの?」ってリジーがお茶目に問いつめるんですよね。「美人でもなく、マナーもよくない、uncivilだった、振る舞いもよくない私をどうして?」って。

上野:uncivilは「野蛮」ていう意味ですよね。

川口:そう、で、これはちょっと難しい単語ですけど、impertinence、「生意気だったせい?」ってリジーがからかうんですよね。そしたら、そこでダーシーが、ちょっと違った言い方で、‘For the liveliness of your mind’、「あなたの精神の生き生きとしたところ」がよかったって答えるんです。オースティンがそう書いているわけですね。「元気」で、ちょっと口答えするのが好きってダーシーにいわせている。

上野:つまり1万ポンドにどんな女もひれ伏していたのが、たまにひれ伏さない女がいて、変わり種だったっていう。それもまあ、婚活の-

川口:極意ですよね。

上野:階級からいうと、ダーシーより低いでしょ。自分の一族が同意しない結婚ですから、一種のシンデレラ・ストーリーですね。

川口:まあ、そうですよね。

上野:一番リッチなジェントルマンをゲットした女が、レディらしくなく、野生児のように走り回って・・・

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川口:犬と戯れてましたよね。BBC版だけですが。

上野:スカートはいて全力疾走したりして・・・

川口:馬車も使わず、一人で、姉の見舞いに歩いていくとかね。

上野:なかなかチャーミングではありますが、同じ時代の日本だったらと思うんですよ。

川口:江戸時代末期ですよね。

上野:そうすると、階級社会ですよね。生き生きした、元気で利発そうな、ちょっと見てくれのいい女の子。これは、正妻には絶対ならないです。妾になるんですよ。おきゃんな町娘に目をつけた武士の倅が、屋敷に奉公に出させて手をつける、というパターンです。あるいは下級武士のちょっと気のきいた娘を、上級武士の息子が見初めて、やっぱり妾にするとか。正妻は同じ家柄同士の縁組からゲットします。

川口:そうですかあ。

上野:はい。

川口:残念ですね。何が悪いんでしょうか?

上野:イギリスも同じじゃないんですか?

川口:妾っていうのはどうだったでしょうか・・・

上野:身分制社会では、美人で、性格がよくて、男に愛されるが身分の低い女は、妾にはなっても正妻にはならない。正妻になるのは、家柄が同じで、財産がついてくる女、見てくれは関係ないです。シンデレラ・ストーリーって、結婚が「上がり」になってますよね。愛が身分の壁を越える、のは身分制社会が壊れてから後のことです。だからシンデレラ・ストーリーって近代の物語だって言われるんですよね。

川口:うーん。

                                  (4月アップ予定最終回に続く) to be continued…




[i] ルネッサンス期にエリザベス一世が、ダンスを奨励したことから、ダンスは知性の徴とされ、インテリも踊ることを要請された。完成されたダンスの上手さが、高度なアチーヴメント、優雅さ、調和のとれた思考と結びつけて考えられた。しかし、フランス革命以後、こうした考えは失われ、神と人間との関係から個人重視へと人々の関心が移ったという。オースティンも、この問題に関心をもち、『エマ』では、ワルツが流行になりつつあると言及し、それがどんな変化を表しているかについて記している。ワルツでは、カップルがそれぞれに向かい合うが、そこでは、もはや(かつてのカントリー・ダンスのように)グループ内で他の人が見守る中、見られながら踊る喜びを味わったり、他の人々とも踊るといったことはない。Sue Birtwistle & Susie Conklin, The Making of Pride and Prejudice (London: Penguin, 1995), pp.67-72参照。

なお、ジェイン・オースティンの半生をドラマ化したBBC版『ジェイン・オースティンの後悔』(今回IVCより発売されたDVD-BOXの特典)では、ジェイン・オースティンがワルツを踊るシーンを見せている。

[ii] 当時イングランドで流行していた‘Longway progressive for as many as you will’(何人でもお好きな数だけ、ロングウェイ・プログレシヴ)と言われるダンスのこと。幅が狭くて細長いアセンブリー・ルームが建設されたことで、4組でスクウエアで踊るダンスから、何人でも好きな数だけ踊れるタイプに移行した。4組か3組のセットで踊るタイプがあり。オースティンの小説の時代背景である18世紀末には、長い二つの列で、3組ずつ踊るトリプル・マイナーが流行していた。最初のカップルが、列の最後まで下り、次に二番目のカップルが、列の頭まで上がり、三番目もそれに従うというもの。それで、全員と踊ることになり、自分のパートナーとだけ踊らないですんだ。トリプル・マイナーが人気だった背景には、待っている時間の長い三番目のカップルが、話す時間をもてるという理由があった。The Making of Pride and Prejudice、p.69参照。








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