エッセイ

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「慰安婦」問題 その④: シンポジウム午前の部概要 姜喜代

2012.03.19 Mon

さて、シリーズでお知らせしてきた、3.10「「慰安婦」問題の解決をめざして」シンポジウムですが、今回より、前半・後半・全体討論と3回に分けて、レポートをお伝えしていきます。

まずは、午前の部より、姜さんからのレポートです。

鄭柚鎮(ちょん・ゆじん)さん: 「国民基金」をめぐる再現の政治学

誰が誰の話を聞き取り組織化していくか。

被害者の言葉をどう聞くか。国民基金をめぐる議論は、被害者の言葉をとりまく言説地形を再度問題化するという点において極めて重要な論点を提起している。「慰安婦」被害者の言葉に対する‘正しい応答’への模索、あるいは‘正しい聞き取り’を獲得しようとする欲望の問題は、聞き手とされる者が作ろうとする世界(関係)に連動する。

「もう一度、一七歳の時代に戻してほしい」「日本全体をくれるとしても、わたしたちが死んだ後であれば、なんの意味があるのか?」といった言葉たちを選りわけず、ある関係の起点として想像するとき、言葉は正しさの根拠というより、聞き手自身が巻き込まれてゆくある状況として確保されるかも知れない。語り手と聞き手の身体感情が対話する交流の場としての言葉が確保されるとき、「慰安婦」制度の当事者を生成するのである。

花房恵美子さん: 関釜裁判を支援して

 関釜裁判を支援する会の花房恵美子氏はこの20年間の支援活動を振り返った。

「国民基金」問題が浮上した当時、報道を目にして怒りにふるえるハルモニの姿に衝撃を受け、彼女たちの尊厳を守るために、「今なら止められる」と阻止のため奔走した日々について述懐した。

 去年、韓国の憲法裁判所で政府が外交努力をしないのは違憲との判決が出てから韓国社会は大きく変わっている、「国民基金」を過去の問題ではなく、現代的な問題なのでもう一度真剣に考える時であると述べた。その際、支援者と日本の運動体はもっとずぶとく被害者のために「もらえるものはすべてもらい、要求するものは要求する 」姿勢が必要だと言及した。

 和田春樹さん:「慰安婦問題20年の明暗

 和田氏はまず、過去20年の挺対協関係者や吉見義明氏ら歴史家などの国際活動と国連への働きかけにより、慰安婦現象が再現される可能性をなくすように人々の意識に働きかける取り組みにおいては大きな前進があったと述べた。

 次に「アジア女性基金」が国民の募金による「償い金」であり、国家補償でなかったことから、被害者の感情を傷つけた致命的な失敗であったと思うと述懐した。しかしこの基金がオランダ、フィリピンの被害者に若干の慰労を与えたことは否定できない。韓国で受け取った人を非難してはならない。韓国社会で認知されてほしいと述べた。

認定被害者の過半数が申請せず、拒否したことは絶対的な意味を持っている。「アジア女性基金」はもう存在していない。だが、韓国、台湾、北朝鮮との交渉は終わっていない。慰安婦問題に対し、まだやるべきことが残っている。日本政府は新たな謝罪と補償のプログラムについて考えるべきであり、実現可能な解決策の模索が必要だと語った。

 感想

 今回参加して率直に感じたのは、多くの慰安婦問題解決のための集会がそうであるように、今回の参加者もこの運動の従事者が大多数だったので、内容がマニアックであり、初心者を「次はもう来るまい」と思わせる「内輪の集会」ムードを払しょくする必要があるということでした。また、日本のマスコミが『慰安婦問題は「国民基金」ですでに解決済み』という姿勢であることや、インターネットの世界に満ちている内向きな書き込みの存在を見ると、日本と日本政府は自力では絶対に変わらないからもっと「外圧」をかけるほか解決策はないのでは、との悲観的な考えに陥りました。でも日本に暮らす人間としてはやはり「外圧」に頼るのではなく、この問題を普遍的な女性抑圧の最たる事例であるととらえ、内外の事例と並べて論じながら周囲の理解を少しずつ勝ち取っていく努力が必要だと感じました。

カテゴリー:団体特集 / 慰安婦問題 / シリーズ

タグ:慰安婦 / 戦時性暴力 / 軍隊性奴隷制 / 姜喜代

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