2012.12.01 Sat
<WAN的脱・原発 岩手から発信せよ 1>
こんにちは。あの夏の暑さはどこへやら。すっかり寒くなってきました。あの猛暑の熱を冬の暖房に、冬の寒さを夏の冷房にそのまま利用できたら究極のエコじゃないかなあと思いますよね。
さて、昨年(2011)の3月11日東日本大震災で、私の住む岩手県は、津波による甚大な被害を受けました。多くの死者・行方不明者が出て、家屋も倒壊し、漁港も破壊され、何トンもの瓦礫の山となりました。その様子は、TVや新聞、雑誌で皆さんもご覧になったと思います。私の知人の多くが被災者となりました。震災以来、私は、仲間と「被災地子ども文化支援 虹色プロジェクト」を立ち上げて、主に、被害の大きかった大槌町に通い、子どもたちとアートや演劇や遊びを行ってきました。
あれから、1年半が過ぎて、被災地も少しずつ復興整備され、落ち着きを取り戻してきています。ただ、やはり職場や肉親、友人を失い、仮設住宅に住む人たちは、先行きの不安があります。また、公務員として復興に携わってきた人たちには、今になって疲れが出てきているのが現状です。友人は、最近「もう復興がんばれって言わないで!しんどくなるから」と言っています。そして、岩手県の沿岸被災地以外にも、新たな問題も持ち上がってきています。「放射線被害」です。
「津波被害は天災」で、「原発事故は人災」であり、別々に考えなければならない問題です。皆さんは、原発被害は福島周辺だけの問題と思っていませんか?実は、低濃度の放射線は、すでに日本国土をぐるりと覆ってしまい、様々な健康被害も出てきています。
「原発が近くにないからいいや」とか、「電気ないと困るじゃん、そんなの我慢しなきゃ」とか、「セシウムとかベクレルとかってよくわかんないもん」なんてもう「他人事」ではなくなってしまいました。
☆「ホットスポット」とはなんでしょうか?
心がホッとする場所ではありません。添付した資料の地図は、2011年の4月に測定された日本上空の大気の流れと、放射線量です。この黄色や、緑色の場所を言います。そうです、放射能が大気によって運ばれて落ちた場所です。
岩手の放射線被害はあまり知られていませんが、一関市や、奥州市(小沢一郎氏の政治地盤!)実はかなりあります。一関市と言っても、5つの市町村が合併した大きな市で、その南の方がホットスポットです。
岩手県は四国と同じ大きさ、愛知県の3倍の広い県土ですが、世界遺産平泉のある岩手県の南部に主に原発事故の放射線が降りそそぎました。
私の友人の一人は、一関市東山町というところの山中に暮らしています。先日、電話口で涙ぐんで、いろいろ話をしてくださいました。彼女は、何年もかかって、山を切り開き、古民家を改造し、家族で住み、また、子ども図書文庫を建て、地域の子どもたちが遊びに来られる場として活動していました。
しかし、放射能汚染で、今は、だれも近づけないし、野山の物も、きのこも山菜も木の実も一切口にできなくなったと嘆いています。大切に育て毎年楽しみにしていたブルーベリーも柿も実はたわわになっても収穫できません。畑も田も使えません。もちろん孫たちと落ち葉の絨毯で寝ころぶこともかないません。薪ストーブの薪が放射線を浴びたので、その灰から高濃度の放射線物質が検出されて、その捨て場にも困っています。彼女によると、山で、山鳥がいきなり、ばた!と死んでいるのを見かけるといいます。もともと持病もありましたが、免疫力が弱ってきているらしく、たびたびの入院を余儀なくされています。その周辺で暮らす子どもたちに、もっとこれから健康被害が広がるのではと心配をしています。
酪農家の一人は、知らずに、汚染された牧草を食べさせてしまった牛が、内部被ばくし、牛乳も、肉も出荷できず、その牛の処分さえどこも受け入れずに困っています。
岩手県から今年、羊の放牧自粛要請が出され、熊・鹿・雉等野生獣の食肉の出荷停止規制がされました。きのこは、土壌から高濃度のセシウムを吸い上げます。ホットスポットの山に、椎茸やなめこのほだ木を何千本も山に置いている農家の人は、何年もかかってようやく芽を出しきのこが、検査の結果、汚染していることが分かり、すべて廃棄処分になり、廃業に追いやられました。加えて、この秋、天然きのこ類は、ホットスポットに限らず、県内至る所で出荷停止が相次ぎました。保育園や小学校では、砂場や、園庭、グランドの土の総入れ替えをしています。それでも、被ばく測定をすれば、まだまだ土壌に残っている放射能が消えません。そして、除去した土は土のうに詰めて遠くの場所に穴を掘って捨てますが、放射線物質はなくなるわけではありません。不安はつのる一方です。
ただ、このようなお話をすれば土地勘のない方々は、「岩手県産のものは全部危険!」と安易に思いこんでしまうでしょう。風評被害の原因にもなります。でも、愛知県の3倍、四国と同じ大きさの岩手県は、県南と県北、内陸部では、全く状況が違うのです。
この図は、首都圏のものです。みなさんがよく遊びに行く東京ディズニーランドも震災で地盤が緩み、液状化現象がおこったことは御存じかと思いますが、実は周辺では、放射能汚染もあります。茨城や千葉の農家では、野菜が被ばく汚染し、出荷できずに困っている方も多いです。埼玉の子どもに健康被害も懸念されてきています。東京の水道水から通常を上回る放射線物質が検出されてもきています。
10月に私は、いわて花巻空港からFDA飛行機に乗って名古屋へ出張したのですが、以前は、福島の猪苗代湖も静岡の富士山も見えたのに、今回は、離陸して間もなく山形の月山、新潟の佐渡ヶ島が眼下に見えました。「路線変更をして、日本列島のぎりぎり、新潟県を通って飛ぶのはなぜ?」と考えた時、「上空8000メートルを飛ぶ飛行機は、福島第一原発上空を回避するんだ!」ということに気がつきました。30キロ圏内どころか、8キロ圏内の上空です。被ばく地域は、360度ということを思い知らされました。いまだ、終息していない福島の事故原子炉から放出続ける放射線は、どこへ飛んで行くのでしょうか?
放射能漏れの問題は、近くに原発がある、なしの問題ではなく、全人類の問題なのだと実感しました。安易に、省エネや節電、リサイクルをうったえるだけではなく、何でも便利になり、電気を使う暮らしに慣れた私たちは、もっと原発のことを知って、暮らし方を考えなければならない時が来ているのです。
「放射能って本当に危険な物なの?」「原子力発電って低コストなの?」「セシウム、ヨウ素、プルトニウムってどんなものなの?」「何ミリシーベルト浴びても大丈夫なの?」「外部被ばくと内部被ばくのちがいって何?」「なんで狭い日本に50数基も原発ができちゃったの?」「どうしてすぐに原発がなくせないの?」「これから電気はどうなるの?」などなど、素朴な疑問から、日常の暮らしをこれから考えていこうと思います。(次回に続く) (2012.11.24記)
引用画像:早川由紀夫 放射能地図
*桜川ちはやさんの連続エッセイは、月初めに掲載予定です。
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