帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

著者:デイヴィッド・フィンケル

亜紀書房( 2015-02-10 )

日本に生きるわたしたちのどれくらいが、戦争の現実を知っているでしょうか? いまだ終結の気配さえ見られないアフガニスタンと戦争を遂行中の合衆国。9.11以降のアメリカの軍事戦略は、 敵国と闘う戦争から、一般の市民さえ標的にせざるを得ない無差別な戦闘行為へと変貌しました。 大量破壊兵器を製造しているからという理由で、9.11となんらの関係もないフセイン政権を破滅させた合衆国。 中東にはそれ以降、ISIS(イスラーム国)が登場し、さらに中東諸国の混乱は深まりました。

ですが、戦争の被害者は、戦闘行為によって攻撃された人びとだけではありません。

本書は、アフガニスタンとイラクに派兵され、英雄として帰ってくるはずだった帰還兵たちが、深刻なPTSD(心的外傷性 ストレス障害)と、TBI(外傷性脳損傷)に悩まされ、市民生活に復帰できない様子を、5人の帰還兵の生活に密着することで 克明に描き出します。
彼らは、もはや以前の生活ができない状態で帰国し、そして家族との生活も蝕み始めます。 そして、イラクやアフリカに送られた兵士、のべ200万人うち、PTSD やTBI(あるいは両方) に悩まされる帰還兵は、約50万人にも及ぶとの 統計がでています。 圧倒的な技術力で空からの攻撃によって、『クリーン』な戦争を無人機によって遂行しようとする米軍。しかし、テロと闘う戦闘現場では、 前線はもやはなく、360度敵に囲まれて闘う緊張と死の恐怖とも戦わなければなりません。 戦争の現実を知るためにも、そして、若く貧しい人びとが、経済的理由やキャリアをつけるためにと戦争に志願する社会に起こっている問題を 日本社会にも早晩訪れる現実して捉えるための良書です。

戦争は、攻撃する側、殺す側の人間性をも破壊する、そのことを密着取材によって描いた本書は貴重です。
なお、関連本として、以下もお勧めしておきます。

勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常 (岩波新書)

著者:大治 朋子

岩波書店( 2012-09-21 )