2013.03.03 Sun
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
◆テーマ・その1:遺言書で大切な「者」を守る
第6回 事実婚(同性パートナーを含む)子ありの場合の遺言書
●相続の三大原則のおさらい
前回は、事実婚(同性パートナーを含む)で、子がいない場合に、パートナーに遺産を遺すには、どのような遺言書を書けばいいかをご紹介いたしました。
今回は、子がいる場合の遺言書についてです。
まずは、前回もご説明しましたが、遺言書がなかった場合に、誰が遺産を相続するのか・法律ではどうやって遺産を分けることになっているのか、という相続の基本(法律婚の場合)についての復習です。
この相続の三大原則は、相続を考える上での一番の基本となるものですので、まずはどのような相続でもこの三大原則を元にしながら考えるとわかりやすくなります。
今回は「子がいる場合」ですので、大原則1を元にしながら考えることになります。
配偶者と子がいる場合、遺産は「配偶者1/2 子1/2(子の数で等分)」するというのが、法律で定められている原則です。配偶者がいない場合は、子で全ての遺産を等分することになります。
●事実婚のカップルの間に子がいる場合
それでは、最初に事実婚のカップルの間に子がいる場合を考えてみます。
法律婚のカップルの間に子が生まれる(嫡出子)と、一般的には夫の戸籍に子が入ることになります。
では、事実婚の場合はどうなるかというと、子は「非嫡出子(法律婚をしていない男女間に生まれた子)」となり、出生届と同時に母の戸籍に入り、母の姓を名乗ることになります。(「非嫡出子」は、今は「婚外子」とも呼ばれるようになりましたね。)
非嫡出子の場合、父が子を認知していれば、その子には父の遺産に対する相続権が発生しますが(ただし、非嫡出子の遺産相続分は嫡出子の1/2※)、認知をしないと子には相続権が発生しません。事実婚の場合、認知届を出さない限り、父と子がいくら一緒に住んでいようとも、戸籍上は何の関わりもない他人になってしまうわけですね。
事実婚のカップルも、現在の法律では子ができると「非嫡出子」になってしまうということから、やむなく法律婚を選択するということも多いようです。
ちなみに、認知は、胎児の段階でもできますし、遺言で行うことも可能です。また、裁判で強制的に認知を行うこともできるようになっています。
民法第886条で、胎児の段階でも「相続権」は認められていますので、事実婚の場合は、万が一を考えて胎児認知をしておくといいでしょう。
さらに、もし、何らかの事情で認知ができない状況であれば、遺言書で認知をしておくことが、親としての責任ではないかと思います。
また、父が生まれた子と養子縁組を行うことで、子は父の戸籍に入り、父の姓を名乗ることができるようになります。養子は、嫡出子と同等の権利を持ちますので、相続割合も嫡出子と同様になります。
※これまで「非嫡出子」の遺産相続分を「嫡出子」の1/2としている民法は「合憲(法の下の平等を保障する日本国憲法に違反していない)」とされてきたのですが、2013年2月27日、最高裁が審理を大法廷に回付しました。審理を大法廷に回付するのは、新たな憲法判断や判例変更の必要がある場合などで、「非嫡出子」の差別を「合憲」と判断した1995年の大法廷の判例が今後見直される可能性があります。
ただ、今後この「非嫡出子」遺産相続分差別はなくなる可能性はあるものの、いまはまだこの差別は続いています。現状でこの差別を適用させないための有効な手段のひとつが、今回ご紹介する「遺言書」の作成となります。
●法律ではこうなっている! パートナーの一方が離婚している場合の相続
1.パートナーの一方が離婚している場合の相続【現在は再婚】
次に、法律婚の例を見てみます。配偶者の一方が離婚していて、現在は再婚している場合の相続について。
【 図1- 再婚している場合(現在の配偶者との間に子あり)】
Aさんには、離婚した元配偶者と子が1人(嫡出子)います。
現在、Aさんは、Bさんと結婚し、Bさんとの間に子が1人(嫡出子)います。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、相続の大原則1が適用されます。
(現)配偶者 遺産の1/2=600万円
子1(嫡出子) 遺産の1/4=300万円
子2(嫡出子) 遺産の1/4=300万円
離婚している場合、元配偶者には相続権はありませんが、Aさんと子1(嫡出子)の親子関係までが切れるわけではありません。子1(嫡出子)も遺産を相続することになります。
【 図2- 再婚している場合(現在の配偶者との間に子なし)】
Aさんには、離婚した元配偶者と子が1人(嫡出子)います。
現在、Aさんは、Bさんと結婚し、Bさんとの間には子がいません。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、相続の大原則1が適用されます。
(現)配偶者 遺産の1/2=600万円
子1(嫡出子) 遺産の1/2=600万円
いかがでしょうか。上記では、配偶者の一方が離婚して子がいる場合を見てみましたが、双方が離婚している場合は、相続がこれよりも複雑になることがわかるかと思います。
また、ここでは、「再婚」という法律婚をしている例を挙げましたが、これから見ていくように、現在のパートナーと事実婚である場合、パートナーは法定相続人ではないことになりますので、遺産の分配も異なってきます。さらに、子を認知しているか・していないか、養子縁組しているか・していないかで、相続はとても複雑になります。
2.パートナーの一方が離婚している場合の相続【現在は事実婚】
【 図3-事実婚の場合(現在のパートナーとの間に子あり・認知済み)】
Aさんには、離婚した元配偶者と子が1人(嫡出子)います。
現在、Aさんは、Bさんと事実婚をしており、Bさんとの間に認知した子(非嫡出子)が1人います。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人は、相続の大原則1が適用されますが、法律上の配偶者はいないため、子が全てを相続します。
そして、事実婚のパートナーとの間の子は「非嫡出子」となりますので、子2(非嫡出子)が相続できるのは子1(嫡出子)の1/2となります。
子1(嫡出子) 遺産の2/3=800万円
子2(非嫡出子) 遺産の1/3=400万円
【 図4-事実婚の場合(現在のパートナーと間に子あり・認知なし)】
Aさんには、離婚した元配偶者と子が1人(嫡出子)います。
現在、Aさんは、Bさんと事実婚をしており、Bさんとの間に認知していない子がいます。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、相続の大原則1が適用されますが、法律上の配偶者はおらず、子2にも相続権がないため、子1(嫡出子)が全てを相続します。
子1(嫡出子) 遺産の総額=1,200万円
【 図5-事実婚の場合(現在のパートナーとの間に子あり・養子縁組済み)】
Aさんには、離婚した元配偶者と子が1人(嫡出子)います。
現在、Aさんは、Bさんと事実婚をしており、Bさんとの間に養子縁組をした子(養子)が1人います。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、相続の大原則1が適用されますが、法律上の配偶者はいないため、子が全てを相続します。養子縁組をした子2は嫡出子と同じ割合の遺産を相続します。
子1(嫡出子) 遺産の1/2=600万円
子2(養 子) 遺産の1/2=600万円
【 図6-事実婚の場合(現在のパートナーと間に子なし)】
※このケースでの「事実婚」とは異性のパートナー及び同性のパートナーのどちらも想定しています。
Aさんには、離婚した元配偶者と子が1人(嫡出子)います。
現在、Aさんは、Bさんと事実婚をしており、Bさんとの間には子はいません。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、相続の大原則1が適用されますが、法律上の配偶者はいないため、子1(嫡出子)が全てを相続します。
子1(嫡出子) 遺産の総額=1,200万円
ここでは代表的な6つのパターンを見てみましたが、これ以外にもいろいろなパターンがあり、それごとに法定相続人と相続割合は異なってきます。これ以外のパターンで、法定相続人とその相続割合を知りたいときは、書籍等でお調べになったり、相続の専門家(行政書士・弁護士など)にご相談なさったりすることをおすすめいたします。
●遺言書で、非嫡出子とパートナーを守る!
では、ケーススタディを見ていきましょう。今回は、図3と図6のパターンを考えてみます。
【ケーススタディ(1)-嫡出子と非嫡出子がいる場合】
あなたには、離婚した元配偶者とその間に生まれた子(嫡出子)、事実婚のパートナーとその間に生まれた子(認知済み・非嫡出子)がいます。
あなたは、自分に万が一のことがあったときには、ふたりの子に同額の遺産(600万円ずつ)を残したいと考えています。
どういった内容の遺言書を作成しておけばいいでしょうか。
(1)法定相続人と法定相続分はどうなるか
この場合は、図3のパターンですので、法定相続人は、子1(嫡出子)と子2(非嫡出子)となります。現在のパートナーは、事実婚であるため、法定相続人ではありません。
子1(嫡出子) 遺産の2/3=800万円
子2(非嫡出子) 遺産の1/3=400万円
(2)法定遺留分権利者は誰か
「法定遺留分権利者」とは、「第4回 パートナーに全財産は残せない? 遺留分ってなんだろう?」でご紹介したように、「何があっても遺産から受け取ることのできる取り分」を持っている人のことです。そして、この取り分を「法定遺留分」といいます。
このケースの法定遺留分権利者は、子1(嫡出子)と子2(非嫡出子)となります。子の遺留分は、法定相続分の1/2ですから、以下となります。
子1(嫡出子) 遺産の2/3×1/2=400万円
子2(非嫡出子) 遺産の1/3×1/2=200万円
今回は子1(嫡出子)の法定遺留分が「400万円」で、相続させる「600万円」よりも少ない額ですので、後で子2(非嫡出子)に法定相続分を請求される心配はありません。
(3)実際の遺言書にはどう書けばいい?
遺言書に記載する必要があるのは、「子2(非嫡出子)に財産の半分を相続させること」。「遺言執行者に信頼できる第三者を指定しておくこと」。そして、付言事項で「子2(非嫡出子)に財産の半分を相続させることを理解してもらうように依頼すること」となります。
※「遺言執行者」については、また別の回でご説明いたします。
【ケーススタディ(2)-嫡出子と事実婚のパートナーがいる場合】
※このケースでの「事実婚」とは異性のパートナー及び同性のパートナーのどちらも想定しています。
あなたには、離婚した元配偶者とその間に生まれた子(嫡出子)、事実婚のパートナーがいます。
あなたは、自分に万が一のことがあったときには、事実婚のパートナーにも遺産(法律婚の場合と同額の600万円)を残したいと考えています。
どういった内容の遺言書を作成しておけばいいでしょうか。
(1)法定相続人と法定相続分はどうなるか
この場合は、図6のパターンですので、法定相続人は、子1(嫡出子)のみとなります。現在のパートナーは、事実婚であるため、法定相続人ではありません。
子1(嫡出子) 遺産の総額=1,200万円
(2)法定遺留分権利者は誰か
このケースの法定遺留分権利者は、子1です。子の遺留分は、法定相続分の1/2ですから、以下となります。
子1(嫡出子) 遺産の総額×1/2=600万円
今回は子1の法定遺留分が「600万円」で、相続させる「600万円」と同額ですので、後でパートナーに法定相続分を請求される心配はありません。
(3)実際の遺言書にはどう書けばいい?
遺言書に必ず記載する必要があるのは、「パートナーに財産の半分を遺贈すること」、「遺言執行者に信頼できる第三者を指定しておくこと」。そして、付言事項で「パートナーに財産の半分を相続させることを理解してもらうように依頼すること」となります。
本来、あなたのパートナーがいなければ、あなたの全財産を相続するのはお子さんとなります。その半分をあなたのパートナーに遺すとなると、お子さんだけではなく、お子さんの親である前配偶者も納得できず、相続が揉める場合もあるでしょう。大変難しいことだとは思いますが、日頃からお子さんや前配偶者とうまく交流を図り、理解しておいてもらう努力も重要になります。
●遺言書に関する注意事項
上記に2つの遺言書の例を挙げましたが、これまでの回でご説明したように、遺言書には大きく分けて3種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)があり、それぞれに要件が違っています。その要件を満たさないと、せっかく遺言書を作成しても無効となってしまいますので、充分に注意してください。
最初のパートナーとは法律婚をして子もいるけれども、いまのパートナーとは事実婚(内縁)という方も多いと思います。セクシャルマイノリティの方も、そういったご事情のある場合は多いでしょう。そういった場合に、どうやってパートナーや子を守っていくか。そのひとつの武器と防具になるのが、あなたの思いを託した遺言書です。
「法律婚夫婦+子」という基本概念で作られているいまの法律で定められた「法定相続人」と「法定相続分」に対抗できるのが、遺言書なのです。遺言書の重要性、考えてみるきっかけになればと思います。
それでは、今回はここまで。次回は、おひとりさまの遺言書を考えてみます。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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