2013.04.03 Wed
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
◆テーマ・その1:遺言書で大切な「者」を守る
第7回 おひとりさまの遺言書
●「配偶者と子」がいなければ、100歳も赤ちゃんも全く同じ!
これまでは、主に事実婚(同性パートナーを含む)の方々を対象に、法律婚ではない場合、遺言書を作成しておかないとパートナーには遺産を遺すことができないということと、では、どういった遺言書を作成しておけばいいかについて見てきました。
今回は、パートナーがいらっしゃらない非婚の方、法律婚はしたけれど、子はおらず、配偶者もすでに死亡している方を便宜上まとめて「おひとりさま」とお呼びし、おひとりさまの相続と遺言書についてご説明します。
いまはまだまだお若くて、同性・異性を問わず特定のパートナーがいらっしゃらない方も、「いまもし自分が死んだら、自分の財産は誰に行くんだろう?」という雑学的な知識として、知っておいていただければと思います。
ここでまた「相続の大原則」の図をご覧いただきましょう。
法律婚の配偶者及び子がいる場合、法定相続人は、配偶者と子になります。これが図の相続の大原則1です。配偶者がすでに死亡している場合は、子が相続します。子が亡くなっている場合は孫が、孫が亡くなっている場合はひ孫が…というふうに、自分に子がいた場合は、その子孫が次々と法定相続人になっていきます。
それでは、法律婚はしたけれど、子はおらず、配偶者もすでに死亡している「おひとりさま」の相続はどうなるのでしょうか。
これは大原則図の2と3の「配偶者がいない」場合に相当します。自分の親が生きていれば、親が相続し(大原則2)、親がすでに死亡しており、自分にきょうだいがいる場合は、きょうだいが相続します。
そして、実はこの、子がおらず、配偶者もすでに死亡している「おひとりさま」の相続は、法律婚をしていない「おひとりさま」の相続と同じことになります。
極端な例でいえば、子がおらず配偶者は死亡している100歳のお年寄りと、まだ生まれたばかりの0歳の子の相続は同じ、ということになります。それほどまでに、法律は「配偶者と子」を守るように作られているのですね。「配偶者と子」がいない状態であれば、ご高齢者も赤ちゃんも同じく「親かきょうだい」が、まずは法定相続人となります。
●法定相続人が誰もいない人は案外少ない?
極端な話は終わりにして、一般的に自分の相続が発生する時期には、自分の親はすでに亡くなっているケースがほとんどでしょう。今回は、自分の親は他界しているという前提でお話を進めます。
中高年のおひとりさまであれば、自分のきょうだいももう死亡しており、天涯孤独の身ということも少なからずあるかもしれません。この場合は、法定相続人には誰もいないことになるのでしょうか?
それとも、仮に自分に子がいる場合、遺産は子・孫・ひ孫…と引き継がれていくことになるということは、おひとりさまの場合でも、自分のきょうだいが亡くなっていても、きょうだいの子「甥・姪」が引き継ぐのでしょうか?
そうです、自分のきょうだいの子「甥・姪」はあなたの法定相続人になります。ですので、「甥・姪」がいる場合は、例えどんなに疎遠であったとしても、「甥・姪」にあなたの財産が行くことになります。
ただし、「甥・姪」がすでに死亡しており「甥・姪の子」が生きている、この場合は自分の子・孫・ひ孫…のように相続が引き継がれるわけではありません。相続は「甥・姪」までで止まります。ここが自分の子がいる場合とは大きく違う部分です。。
このように、実はおひとりさまの場合、「甥・姪」が法定相続人になるケースがとても多いようです。「甥・姪」のほうから見れば、これまで全く行き来もなく、何十年も疎遠だった「おじ・おば」の相続が突然に降ってわいて、困り果てて専門家に相談するという話をよく耳にします。「甥・姪」が複数になる場合、その複数名のいとこ同士で連絡を取り合って「おじ・おばの」遺産をどう分割するかを協議しなければならなくなるわけですから、これは大変なことになりますよね。
図1の例では、法定相続人は「きょうだい」と「甥・姪」合わせて5名。普段から連絡を取り合っている仲の良い親戚同士ならばともかく、疎遠になっていれば、5名で連絡を取り合って公平に財産を分け合うのは、至難の技になってしまいます。自分の遺産をめぐって「きょうだい」と「甥・姪」に争いが起きてしまうことにもなりかねません。自分が死んだあとに無用な「争続」を起こさないためにも、遺言書が必須になりますね。。
自分の「甥・姪」は法定相続人。おひとりさまのみなさま、これは必ず覚えておきましょう。
●法定相続人が誰もいない場合
きょうだいもおらず、甥・姪もいない。この場合にようやく「法定相続人が誰もいない」ということになります。ご自分が一人っ子の方の場合は、これに該当する可能性が高くなりますね。
では、法定相続人が誰もいないおひとりさまが、遺言書を作成せずに亡くなった場合、その遺産はどうなるのでしょうか。
特別縁故者(事実婚のパートナーや療養介護を行なっていた人など)がいた場合は、その方が家庭裁判所に対して申し立てを行い、それを裁判所が認めれば、特別縁故者に遺産がいくことになります。ただし、これには時間と費用が掛かります。もし、遺産を遺したい特別縁故者がいるのであれば、きちんと遺言書を作成しておくことがまずは何よりの感謝の意となります。
特別縁故者がいない場合は、最終的には国庫に帰属することになります。
●おひとりさまの遺言書
それでは、おひとりさまはどんな遺言書を準備しておけばいいでしょうか。
甥や姪にお世話になっているのであれば、それを考慮した遺言書を作成しておけばいいでしょう。もし、甥や姪とは疎遠で、自分の遺産を遺すことはあまり考えられないようであれば、他に遺産を遺す相手を決めなければなりません。甥・姪がいない方も同様に、誰に遺産を遺すかを検討しておく必要があります。
例えば、これまでにお世話になった方々に遺したい、どこかの団体に寄付したい、遺産をもとに財団を作って欲しい等々、いろんな考えがあることでしょう。
そんな考え・思いは、おひとりさまの場合は特に遺言書を作成しておかないとまず実現しません。
それでは、2つのケースで見てみましょう。
【ケーススタディ(1)-甥と姪がいる場合】
あなたには、疎遠で行き来が全くない甥と姪がいます。
あなたは、自分に万が一のことがあったときには、これまでお世話になってきたAさんに遺産(1,200万円)を遺したいと思っています。
どういった内容の遺言書を作成しておけばいいでしょうか。
(1)法定相続人と法定相続分はどうなるか
この場合の法定相続人は、甥と姪となります。Aさんはもちろん法定相続人ではありません。
甥 遺産の1/2=600万円
姪 遺産の1/2=600万円
(2)法定遺留分権利者は誰か
「法定遺留分権利者」とは、「第4回 パートナーに全財産は残せない? 遺留分ってなんだろう?」でご紹介したように、「何があっても遺産から受け取ることのできる取り分」を持っている人のことです。そして、この取り分を「法定遺留分」といいます。
「法定遺留分」の権利を持っているのは、「親」「配偶者」「子」です。「きょうだい」には法定遺留分はありません。ですので、きょうだいの子から相続が引き継がれた甥・姪にも法定遺留分はないことになります。
(3)実際の遺言書にはどう書けばいい?
遺言書に記載する必要があるのは、「Aさんに全財産を遺贈すること」、「遺言執行者に信頼できる第三者を指定しておくこと」。そして、付言事項で甥と姪にAさんに財産を遺贈することを理解してもらうように依頼すること」となります。
※「遺言執行者」については、また別の回でご説明いたします。
意外に感じるかもしれませんが、相続というのは、故人と疎遠であればあった人ほど、強く権利を要求してくることが多いといわれます。これまでにほとんど関係がなかったのですから、却ってシビアに要求ができるのかもしれません。
本来、あなたの全財産を相続するのは甥と姪になります。それなのに、財産を全額Aさんに遺すとなると、当事者の甥と姪だけではなく、その配偶者が口を挟んだりし、相続が揉める場合もあるでしょう。疎遠になっている甥と姪がいらっしゃる場合は、疎遠のままにはせず、Aさんにお世話になっている旨を日頃から伝え、甥と姪に理解しておいてもらう努力が重要になります。
場合によっては、全額をAさんに遺すのではなく、甥と姪にいくらかの遺産を遺して相続トラブルを防ぐ方法を検討するとよいかもしれません。
【ケーススタディ(2)-法定相続人が誰もいない場合】
あなたは、一人っ子で、法定相続人が誰もいません。
あなたは、自分に万が一のことがあったときには、これまでも何度か寄付を行なってきた認定NPO法人Wに遺産(1,200万円)を寄付したいと思っています。
どういった内容の遺言書を作成しておけばいいでしょうか。
(1)財産を寄付したい場合はどうすればいいか
まずは、自分の財産を寄付(遺贈といいます)したい旨、まずはその団体・法人に問い合わせてみることをおすすめいたします。遺贈に関する詳しいパンフレットなどを作成している団体・法人もあります。
不動産の遺贈は受け付けていない場合が多いので、自分が住んでいた土地・建物を死亡後に売却し、その金額を遺贈したい場合は、売却から遺贈までの手続きを遺言執行者に依頼しておく必要があります。
(2)実際の遺言書にはどう書けばいい?
遺言書に必ず記載する必要があるのは、「認定NPO法人Wに全財産を遺贈すること」、「遺言執行者に信頼できる第三者を指定しておくこと」となります。

●遺言書に関する注意事項
上記に2つの遺言書の例を挙げましたが、これまでの回でご説明したように、遺言書には大きく分けて3種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)があり、それぞれに要件が違っています。その要件を満たさないと、せっかく遺言書を作成しても無効となってしまいますので、充分に注意してください。
おひとりさまの場合、子や配偶者がいない分、自分の財産を自分の意思で遺すことができる余地がぐっと広がります。自分が亡くなった後も、自分の遺志を継いだお金が、お世話になった方の生活に役立ったり、活動に賛同している法人で活かされたりすると考えると、おひとりさまほど自由で楽しいことはないかもしれません。
この世に自分のDNAは残せなくても、自分の遺志は遺すことができます。この春は、楽しく陽気に「遺言書」作成してみませんか?
遺言書のケーススタディを検討するのは今回までとなります。次回は、これまで何度も文中に出てくるもののいまだご説明していない「遺言執行者」について、ご紹介いたします。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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