2013.05.02 Thu
脱原発 岩手から発信せよ! NO.6
放射能の除染作業の経費、原発建屋の修復工事、汚染水の貯蔵タンクの増設、避難民への補償金など膨大にはらみ続けるお金はどこから出るのでしょうか?電気料金の値上げや、物価の上昇もあからさまになってきましたね。
「あなた、脱原発なんて記事書いていたら、今後、電力会社はもちろんのこと、東芝、日立、三菱などがスポンサーになっているお仕事は、一切オファーがないわよ!」と友人に言われました。まかり間違っても私に、「徹子の部屋」や、「佐和子の朝」から出演依頼などきませんから、心配ご無用ですが、実は、電力会社、原子炉製造会社、核廃棄物輸送会社など原発関係企業は、民放や、新聞社などマスコミの大手スポンサー。
2011年3月の原発発事故後に、賠償や、復旧作業でかなりのリスクを背負い、そこへ広告宣伝費への予算が削減されてか、新聞での批判記事がかなりでるようになりました。岩手日報でさえ、以前は、原子力関係企業からのお金で「原子力発電とクリーンエネルギー」のPRイベントを開催し、1面全部使って記事が書かれていました。おそらく、そのようなPR記事は全国の新聞社でされていたでしょう。
一方、テレビはどうでしょうか?NHKは公平な立場で取材、報道されるのが当然と思いますが、日本の場合、お上と繋がった国営放送。現在、被災地県では、支局が作っている震災関係の番組はまだ有りますが、全国版で放送される、放射能汚染や、被災者を取り上げた番組は、徐々に深夜の時間帯に移っていっています。
ドイツでは、環境問題や、自然エネルギーの意識が高く、私が、2010年に訪れたときには、ロマンティック街道の自転車ロード沿いの多くの民家や、古い教会の屋根に取り付けられた太陽光パネルが目を引き、また、牧草地に近い場所では、太陽電力製造工場よろしく敷地内にびっしり太陽光パネルが並べられていました。街並みから遠くに視線を移せば、山間には白い風力発電がくるくると回り、それも風景の一部になっていました。
資金がなければ、たちゆかない電力会社ですが、銀行が、原子力や、軍事企業にお金を貸しているのですから、ドイツでは、国民がお金を預ける銀行がどこの企業と取引しているかを知り、もし、その企業が原子力推進しているのでしたら、その銀行は利用しないという選択ができます。庶民が預けるお金でさえそれが、環境破壊に繋がるおそれのある企業に融資しているならば、間接的にでもそれを助長することになるという考えから、どこの銀行を利用するかを見極めて、入金するのです。
一方、日本ではどうでしょうか?こういう発想で取引銀行を選ぶでしょうか?一般的には、近所の銀行や、ATMが利用しやすい大手銀行が選択基準ではないでしょうか?ましてや、利用銀行が、どの企業に大口融資しているかなんて一般に余り公表されませんし、国民も興味をあまりもたずにいます。
目の前になければ、他人ごとに感じて問題意識を持たない。こういうことは様々な場面であります。
先日、風評被害で苦しむ岩手県内の畜産農家の方にお会いしてお話を伺いました。岩手県の内陸部、紫波町で80頭の肉牛を飼い、種付けから肥育まで、一括生産している50代の女性Eさんです。米や野菜も生産しています。
戦後、開拓団として林を切り開いて耕地を作り、テレビも水道もない暮らしからはじめた開拓農家の2代目。中学生のときに、「私は農業をやる!」と宣言し就農に誇りを持った女性です。
2011年3月の原発事故で放出された放射性物質により、汚染された稲わらを食べた肉牛が内部被ばく。基準値を超えたセシウムが検出されて、出荷停止になりました。(参考資料参照)
Eさんの牧草から放射能が検出されたわけではありませんでしたが、県内の事例から、「風評被害」発生。岩手県産の肉牛が暴落しました。赤ちゃん仔牛から約5年間、手塩にかけて育てても、高値が付きません。
Eさんの飼料は、「稲ホールクロップサイレージ」※という自家製の稲発酵飼料を使用しています。秋に収穫した米のなった稲を使用します。3ヘクタールの耕地から、250本のロール(1ロールは、直径1メートル高さ85センチほど)を生産できます。だから、お米を食べた牛なので、「もちもち牛」と呼ばれています。
アメリカからの輸入飼料(トウモロコシや、大豆、牧草)も使用しますが、年々年値上がりしていて、そればかりで育てていては、採算が合わず、本来の意味での「県産牛」とは言えません。そのほか、宮城県からもワラを買っていましたが、それらと共に、放射能検査の結果が出ないうちは安心して使用できず不安は募る一方でした。
東電の補償金はいくらか出ると言うことですが、ゆっくり支払われるそうで、それも長期にわたっての補償は見込めないようです。
ところで、皆さんは、自由に野原で放牧されて育った牛のお肉と、牛舎の中であまり動かずに育った牛のお肉とでは、どちらが美味しいと思いますか?
人間なら、自由に太陽の光を浴びて野原を駆け回ったほうが絶対健康的と考えるでしょう。 ところが、それでは、筋肉ばかりの硬い肉、しかも野生の獣独特の臭みをもってしまい、上等肉には育ちません。人間にとって安心安全でおいしいお肉を提供するために、飼料の工夫をし、価格とのバランスをみて、牛の体調に注意しながら放牧したり、牛舎に入れたりと毎日育てるのです。畜産農家の子どもは、朝4時から起きて、牛舎のボロダシ(糞尿で汚れたワラの掻きだし)をして、学校に通っています。出荷するまで愛情をこめて一家で牛を育てます。
鳥や、豚は食肉になるまでのサイクルが早く、だから価格も牛に比べて手ごろなのですが、牛は経費だけで必然的に高値になってしまいます。1頭あたり、50万円の経費だから、100万円以上で売れないと赤字です。
このように「5年間愛情込めて世話をして、飼料にこだわって白いサシ(脂肪)の入った岩手の牛肉。毎日身体を壊すくらい食べろとは言いませんが、安いからと、輸入牛肉に飛び付く前に、ぜひ、味わってほしいのです。」とEさん。Eさんは、農家の仲間と地元で「農家レストラン」を開き、地産地消のメニューを発案し、直接、消費者への働きかけにも積極的です。
どうです、そんなお肉を食べてみたくありませんか?
ところが、自信を持って出荷しても、それが、3.11大震災と原発事故以降、
放射能風評被害⇒風化⇒景気低迷⇒輸入飼料の値上げ⇒価格暴落
の悪の連鎖は継続中。
岩手中央農協圏内の21件あった畜産農家は、後継者不足もあり、ここ数年でどんどん減っています。TPPが来るこないに関わらず、それ以前から、危機的な状況でした。それが、震災で追い打ちをかけ、表面化したのです。
Eさんはいいます「政府は、日本の農業を守ると言いますが、生かさず殺さずの守り方で、ぎりぎりのところで日本の農業は必死で生きているのです。」
私たちが銀行に預けているお金が、畜産農家の暮らしに繋がっている。
そんなふうに考えたことありますか?
(2013.4.25記)
飼料用米とおなじく減反田を利用して牛のエサを作る取り組み。 稲の実が完熟する前(牛への栄養価が最大の時)に穂と茎を細かく切断し、密閉する。 その状態で1ヶ月以上貯蔵し、乳酸発酵させたものが「稲ホールクロップサイレージ」。 日本の食料自給率は39%まで落ち込んでおり、家畜用のエサの飼料自給率にいたっては25%と、日本の畜産は外国に大きく依存しているのが現状。 水田を最大限に活用し、飼料自給率を向上させる取り組みとして、「飼料用米」「稲ホールクロップサイレージ」は期待されている。(宮城県JA加美よつば農業協同組合のHPを参考、 上記写真は農業共済新聞HPより)
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