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『3人のアンヌ』評 灯台はどこ? 川口恵子

2013.06.14 Fri

In Another Country―’Where is a lighthouse?’   異国にて―ライトハウスはどこかしら?

main ホン・サンス監督の最新作『3人のアンヌ』の魅力を言葉で説明することはおそらく不可能だろう。ストーリー?そんなものはサイトを見ればわかるし、大してそこに意味はない。入れ子状になった三つの物語に仕掛けられた、差異と反復の巧妙な仕掛けを楽しんで、としかいえないし、それじゃあまるで営業妨害だ。三人のアンヌ? 青いシャツ、赤いワンピース、緑のワンピースって、物語が変わるたびにテーマカラーみたいに装いをかえたイザベル・ユペール?でも、どれも同じ人に見えたなあ。あまりの存在感だもの。ああここで少し、ためいきがでそうになる。60才超えてるのよねえ、この人。ゴダールやシャブロルの映画に出てたよね。ヌーヴェルヴァーグの生き残り?でも魅力的!軽やかで自由で傲慢!韓国人男性たちが夢中になるのも無理はない。あ~これも営業妨害になりかねない言辞だ。だいいち意味がわからない。ロメール映画の遺伝子が韓国でポストモダンに花開いた―なんていえばますますわけがわからない。でも映画通のフランス人やフランス派の批評家には好かれるだろうな。批評紙カイエ・ド・シネマがこの作品を2012年のベストテンの5位に選んで特集組んだのよくわかる気がする――映画言語と絶妙に戯れ、使い古されたモチーフ(避暑地の恋!)を遊び心たっぷりに反復し、現代の映画の大半が失ったシンプルな生の息遣いとでもいったものをスクリーン上に甦らせているんだもの――あ、これもちょっと大げさ?

といって、こんな風にいったらどうなのだ。原題はIn Another Country ネットで調べたらわかるけど、ヘミングウェイの短篇「異国にて」と同じタイトル。さらにウィキで見てみると、なんだかこの映画の構造と似てる。すべてが最後に夢とわかって、光を求めているなんて。ダンテの「神曲」との類似性も潜んでいるような。地獄で仏?ああ、そういえば坊さんでてたよねえ~。この映画も三つの物語を続けて見ているうちに、すっかり最初の仕掛けを忘れてしまいそうになるけれど、そうそう、最初は、映画学校の女子学生が母親と一緒に借金取りから逃げて海辺の町にやってきて、退屈しのぎに脚本を書きだすところから始まるんだったよね。アンヌという名のフランス人女性が、海辺の町(モハン)で、ライフガードの青年と出会う物語を―

ライフガードの青年役のユ・ジュンサンがいい感じ。ギターが趣味で、即興の唄をアンヌに捧げ、武骨で、純朴で、フランス人女性に弱く、アンヌと出会う度に、へたっぴいな英語で話しかける。”I do a life guard.” 「僕はライフ・ガードなんだ」

sub1「 ライフ・ガードですって?」アンヌもフランス語なまりの強い英語で答える。お互い下手な英語だから、長くは話せない。それでいてなんだか心が通じ合っているような、そうでないような。

“I will save your life.”

「君の命を救ってあげるよ」

そんなセリフも海パン姿の彼がいうと、キザというより、どこかおかしく笑いを醸し出す。韓国語なまりなのか、「アンヌゥ」という時のヌゥが少し強く聞こえて、それだけでおかしい。

 “Where is a lighthouse?” 「灯台はどこかしら」

 アンヌがいつも同じ質問をする。三つの物語を通してずっと同じ質問だ。

 “What is a lighhouse?” 「灯台って?」

すぐに意味がつかめないライフガードが聞き返す。するとアンヌが大きなジェスチャーで説明する。「ああ、ライトハウス!」二人で納得しあって、ライフガードがいう。

「あるの?ライトハウス?どこ?」

 あ~この面白さ、わからない人は見ない方がいいです(下の予告編でチラ見してみてから行ってね。上記のやりとりも聞けます)。 あ、また営業妨害?!ごめんなさい。辞書の話じゃないですって、何の話だ。ヴァージニア・ウルフの小説『灯台へ』を読みたくなったのは私だけか?でもいいんだなあ、このモチーフ。繰り返される内に、もちろん、過剰な意味なんてこめた描き方はしてないんだけれど切ない人生って言葉が浮かび上がる。ペーソスって言葉を久々に思い出した。そして誰かがこの作品の公式ホームページでコメントしているように、たしかに、「人生の深刻さから救ってくれる」し。

フランス人じゃあるまいし、まだバカンスの計画を立てるのは早いけど(私はこの映画みたあと、立てようとしたけどネ)、せめては映画館ぐらいには行って、このおかしみを味わってほしいな。スクリーンもまた「もう一つの国」=「異国」なのだから。

浜辺の波の音に耳をかたむけて、沖をまっすぐ真横に泳いでいるライフガードの力強いストロークを見て、ア~、ライフガードさんだわ、私の人生も救ってよ、なんてひとりごち、帰って思い出し笑いしながら、グラスを傾けたくなる――そんなハートフル・コメディです。ワンピースも着たくなるかも。イザベル・ユペールの軽やかさを見習って。自由に自然に素の自分に戻って(バカンスってそういう時間、のはずだったよね)生きる時間を見つけたくなる感じ。

上のやりとりを聞きたい方はこちらのHPへどうぞ予告が見られます こちら

『3人のアンヌ』(監督・脚本:ホン・サンス、出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサンほか、2012年、韓国、89分)

 6月15日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!

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カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:くらし・生活 / 川口恵子 / 韓国映画 / 女性表象