シネマラウンジ

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坂上香監督の"トークバック"製作ノート(1)

2013.06.15 Sat

トークバックする女たち

                                                坂上 香(ドキュメンタリー映画監督)

沈黙は私を守ってはくれなかった。

                      オードリー・ロード(詩人)

 名称未設定-4サンフランシスコの女性刑務所で生まれたマージナルな(周縁を生きる)女たちの劇団を取材し始めてから8年が経過します。「メデア・プロジェクト:囚われた女たちの劇場(The Medea Project: Theater for Incarcerated Women) 」は、25年間もの間独自の活動を続ける女だけのアマチュア劇団です。ギリシャ悲劇の「王女メデア」(反逆する女)をモチーフに名付けられました。

 薬物依存症、前科、DV、虐待、育児放棄、貧困、HIV/AIDS……どん底を体験してきた女性たちが一つの舞台を作っていく過程を、ドキュメンタリー映画「トークバック 女たちのシアター(仮題)」として現在編集中です。トークバックとは、声をあげることや呼応しあうことを意味しています。

 本連載では、私が監督をつとめるこのドキュメンタリー映画の制作舞台裏から編集段階での発見、話題のクラウド・ファンディングや市民プロデューサー制という新しい取り組み、そして上映に至るまでをフィールドノーツ的に綴っていこうと思っています。

 まさに現在進行形なのでどう展開するか(転ぶかも)わかりませんが、読み手の皆さんとも呼応(トークバック)しながらやっていけたら嬉しいです。原則月2回(15日と30日)で、映画の上映がある程度波に乗るまで継続していくつもりですので、皆さんおつきあいのほどよろしくお願いします。

*****

 2013年3月17日、都内早稲田奉仕園の一室。「映画『トークバック』を応援する会」が開かれ、41名が集いました。制作資金の不足を解消するために、協力者の6名と共に考え出したファンドレージングのためのイベントだったのですが、終了後、参加者の一人から、「ブリリアント!」と叫びたくなる一つの提案をもらいました。

 「なんとかして費用をかき集めるからさ、ダルクを市民プロデューサーとして登録して、ダルクと一緒に試写をするっていうのはどうかな?」

 薬物依存症者の回復施設「ダルク」は現在日本各地に60カ所以上ありますが、提案者はその一つNPO法人「女性ダルク」代表の上岡陽江さんでした。

 彼女はイベントで応援の言葉を述べてくれた一人でもあります。2つの短い映像を上映した後、「やっぱりこれはアメリカだからだよ」の一言で始まった上岡さんのトーク。日本では薬物依存症を初めとする様々な問題を抱える女性たちが沈黙せざるをえないこと、映画に登場するアメリカ人の元受刑者(女性)のように公で声をあげられるような社会的環境がまったく整っていないこと、研究者や現場の人たちも罪を犯した女性たちについては積極的に向き合って来なかったのではないかといった疑問や苦言を率直に投げかけてきました。

 どの点もまさにその通り。だからこそ私はこの映画を作りたいと思ってきたわけですが、それは現場で身体をはってきた彼女たちからすると「甘い!」と言われてしまうのでしょう。実際、沈黙することでなんとか生きながらえている女たちはたくさんいる。被害体験を十分に受け止め、理解し、回復を手助けする環境がないなかでは、記憶を閉じ込めたり、なかったふりをするか、薬やアルコールや自傷などに頼らざるをえない。一方映画のなかでは、HIV陽性の女性が堂々と舞台に立ち、自分を捨てた男性に対して「逃げ出したわね、このクソ野郎!」とすごんだり、受刑者の女性が自分の胸に貼られた「ぶりっこ」という紙(=レッテル)を破り捨て「私はぶりっこじゃない!」と叫んでいる。やはりそれは海外のことであり遠いことか……。

 私は胸がきゅうっと締め付けられるような感覚に陥りながら、しかし同時に、率直に指摘してくれる彼女の潔さと友情に感謝しつつ耳を傾けていました。

 「でも、いつかは日本でもこんな舞台が日本でもやれたらいいよね。時間はかかると思うけど、やりたい。だからこそ、この作品に期待している。」

 顔色を曇らせていた(であろう)私を気遣ってくれたのでしょう。彼女はそんな意外にも前向きな言葉で締めくくってくれました。少しホッとしつつ、私はこの言葉に強く背中を押されたような気がしました。女たちが沈黙を強いられている状況だからこそ、その沈黙を破ってきた他者の姿を見る意味があるのだと。「あなたならその事を意識してしっかり取り組めるはず」と言われたような気さえしました。

 そんなやりとりの直後だったこともあって、上岡さんからの「当事者」との試写会案はこのうえなく魅力的でした。実を言うと「市民プロデューサー」というカテゴリーは、ネットを活用したクラウド・ファンディング上で高額寄付を募るために苦し紛れに編み出した戦略に過ぎなかったのですが、上岡さんの提案でおもしろい展開が見えてきて、なんだかワクワクしたことを覚えています。

 そして何より、上岡さんを初めとして参加者のコメントからも、他人事ではなく「私たちのこと」として受け止めようとしてくれていることが感じられて励まされたのです。舞台は海外だけれど、編集の過程ではこの社会の声を反映させる場を作ったらどうだろう。映画が完成する前の段階から、様々な沈黙を強いられている多様なマイノリティの声を反映させる場を。そして、見た人(特に主流からは無視もしくは黙殺されてきた人たち)が「私たちの映画」と思えるような映画づくりをしよう。そんなことを強く誓ったのでした。

                             (次回に続く)

*****

6/15 前作の「ライファーズ 終身刑を超えて」の上映会があります。本作品のプロモ映像(10分)も上映予定。参加費無料

http://kyotoren.cocolog-nifty.com/

なお、制作費の支援も受け付けております。どうぞよろしくお願いします。

2013年6月15日現在

motion gallery(ネットによる寄付)は一ヶ月を切りました。

寄付は500円から。高額寄付者には「市民プロデューサー」として制作に関わっていただけるチャンスも!

http://motion-gallery.net/projects/talkback2013

関連サイト:

motion gallery(ネット上の寄付サイト):

http://motion-gallery.net/projects/talkback2013

トークバック応援団HP:

http://outofframe.org/talkback.html

Facebook Outofframe:

https://www.facebook.com/outofframenpojp?ref=hl

カテゴリー:新作映画評・エッセイ / 坂上香監督の“トークバック”製作ノート

タグ:貧困・福祉 / セクシュアリティ / 身体・健康 / 坂上香 / DV・性暴力・ハラスメント / LGBT

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