2013.07.30 Tue
私にとって夏の食べ物といえば、郷土料理の「冷や汁」です。冷や汁というと、ほぐした鯵の入った宮崎県のものが有名ですが、ここでご紹介するのは、私が生まれ育った、埼玉県は熊谷市周辺で広く食べられているものです。読み方は「ひやしる」。ときに「すったて」とも呼ばれます。
熊谷市といえば、2007年に40.9度という国内最高気温を記録したことで知られており、まちおこしのシンボルは超!暑苦しいゆるキャラ「あつべえ」です。市民からは、「他市に気温を抜かれた日は悔しい」など、ちょっと首をかしげたくなるような声を聞くこともありますが、ともかく、暑さ厳しい熊谷の夏を乗り切るのに冷や汁が果たしている役割は大きいのではないかと思っています。
冷や汁のおもな材料はキュウリ、味噌、金ゴマ(白ゴマでも)。お好みで大葉やミョウガ、ネギなどの薬味を加えます。私が子どものころ、冷や汁はもっぱら、父が家庭菜園で作りすぎたキュウリを大量に消費するためのメニューでした。ちょっと大きくなってしまったキュウリを一度に十数本ほど使ったでしょうか。母や祖母が縞目にむいたキュウリを薄い小口にトントン切る横で、私と妹が、すりこぎを奪い合いながら、フライパンで炒ったばかりのゴマをすります。そこに味噌を加えてキュウリと大葉、ミョウガを入れ、キュウリがしんなりして水分が出たら、全体を混ぜて氷を入れます。大きなすり鉢いっぱいの冷や汁をめいめいのお椀によそって、冷麦のつけ汁にしていただきます。キュウリの緑が目にもすずやかで食欲をかきたて、いくらでも食べられます。
実家を出てからも、冷や汁は夏の定番です。あの頃と違い、キュウリはタダでは手に入らず、ゴマの空炒りができるフライパンもすり鉢もないため、2人分で2本ばかりのキュウリをスライサーでスライスし、ゴマは市販のすりゴマを使ってぶっかけ風に作ります。あっけないほど簡単にできてしまうのが少し寂しくもありますが、夏バテ気味の体が生き返るおいしさは変わりません。つわりで苦しんだ昨年の夏は、冷や汁にずいぶん助けられました。
冷や汁は、冷麦・そうめん・うどん以外にも、ごはんや豆腐、蒸し鶏にかけてもおいしくいただけます。また、納豆を入れたり、豆板醤やゴマ油を加えて中華風、トムヤムペーストとパクチーを加えてタイ風など、アレンジも自在。暑い日にぜひ、試してみてください。
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