2013.08.03 Sat
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
■テーマ・その2:財産管理等委任契約書で「自分」や「パートナー」の日常生活を守る
第11回 公証役場で公正証書を作ろう!
●公正証書の作り方
前回は、「財産管理等委任契約書」のお話をしました。これは、加齢で寝たきりや体が不自由になった場合・病気や怪我などで長期入院・長期療養になった場合などに備えて、財産管理や日常的な事務処理を信頼できる特定の人(事実婚のパートナーや内縁のパートナー、同性のパートナー、友人・知人、士業者等)に代理して行ってもらうためのものです。
ただし、この「財産管理等委任契約書」は、単なる私文書ですので、公的な効力があるわけではありません。そこで、「財産管理等委任契約書」を有効に活用するには、公証役場に依頼して「財産管理等委任契約書」を公正証書にしてもらう必要があります。
今回は、「財産管理等委任契約書」を例にした「公正証書の作り方」をご紹介します。
●公証役場って何をしてくれる役所なの?
公証役場。聞いたことはあるけど、何をしてくれるところなんだろう?
そう思ったことはありませんか。実は私も行政書士になる前は、何をしてくれる役所なのか全く知りませんでした。
公証役場とは、公正証書の作成・私署証書や会社等の定款に対する認証・確定日付の付与等を行う官公庁です。
それでは「公正証書」とは何なのか。これは、法務大臣によって任命された公証人がその権限にもとづいて作成する「公文書」です。公文書ですので、記載された内容の信憑性が高く認められることになります。
「財産管理等委任契約書」を「公正証書」にするためには、公証役場に行って、公証人に「公正証書」の作成を依頼することになります。
●公正証書の作成には時間が掛かる
では、どうやって「財産管理等委任契約書」を「公正証書」にするのでしょうか。
多くの方は、このように勘違いされていることがあります。「公証役場に公正証書にしたい文書を持参すれば、公証人が中身をチェックしてぱぱっとハンコでも押して公正証書にしてくれるんじゃないの?」と。
上記しましたように、「公正証書」とはあくまでも「公証人が作成する」ものです。持参したものにハンコを押しただけでは「作成」とはいえませんよね。
また、「公正証書」を作成するには、その公正証書に記載された契約当事者全員が、その場に集って署名捺印をする必要があります。
ですので、仮に「財産管理等委任契約書」を公証役場に持参して、いますぐ公正証書にして欲しいといってももちろん断られます。
公証役場で公正証書を作成してもらうには、段階を踏んで、それなりの時間を掛ける必要があるのです。
●公正証書を作成するための流れ
1.公証役場に行き(事前予約)、どういった内容の公正証書を作成したいかを公証人と相談します。
2.公証人が公正証書の案を作成します。(FAX等で送付されてきます)
3.公正証書の案を詰めて行き、内容の確定後、実際に公正証書を作成する日程を調整します。
公正証書の作成に必要な書類を揃えておきます。
4.当日に公証役場に契約当事者が集まり、公証人が契約当事者たちが「本人」であることを確認した上で、契約当事者および公証人が公正証書の文面に署名・捺印し、公正証書が完成します。
公証役場への手数料は、このときに支払います。
公証人はひとりで何件もの案件を抱えており、公正証書の案を作成してもらったりその内容を詰めて行ったりするにも時間が掛かることが少なくありません。また、公証役場は、原則として平日の午前9時から午後5時までしか開いていませんので、なかなか時間を作るのが難しい方も多いと思います。ですので、公正証書を作成したいと思ったら、できるだけ早めに動き出すことが肝心です。
また、最初の相談時に、自分なりに作成した「財産管理等委任契約書」を持参し、それに基づいたものを作りたいという提案をすれば、時間の短縮になります。
なお、行政書士などの士業に公正証書の作成を依頼すれば、この「財産管理等委任契約書」の作成から、公正証書の案を詰めていく公証役場とのやりとり、実際に公証役場で公正証書を作成する日程調整まで、あなたと公証役場との間に入って全ての窓口となってくれます。毎日が忙しく、なかなか時間が取れない方が公正証書を作りたい場合は、お近くの士業にご相談なさることをおすすめいたします。
●どこの公証役場に行けばいいの?
公証役場は、全国各地に所在していますので、お近くの公証役場に行くこともできますし、「この人にお願いしたい」という公証人がいる場合は、その公証役場で公正証書を作成することもできます。ただし、公正証書を作成する際には、実際にその公証役場まで契約当事者全員が赴く必要がありますので、それも考慮して選ぶのがよいでしょう。
また、作成する公正証書の種類によっては、公証人に病院や自宅まで来てもらうこともできる場合や契約当事者の代理人を立てることができる場合もあります。
●強制執行も可能になる公正証書
今回は、「財産管理等委任契約書」を例にして公正証書の作り方を簡単にご説明しましたが、「財産管理等委任契約書」だけではなく、金銭の貸し借りや離婚協議書、遺言書などは、ぜひとも公正証書にしておきたいものとなります。
公正証書の遺言書は、「公正証書遺言」と呼ばれており、この遺言方法が最も確実だということは、「こんなに違う!公正証書遺言がある/なしでの遺族の負担」の回でご説明しました。
そして、金銭の貸し借りや離婚協議書といった、金銭の支払い(養育費の支払い)を内容に含んでいるものは、債務者が「支払いが滞った場合はただちに強制執行に服する」という旨の陳述(執行認諾文言)が記載されている公正証書を作成すれば、「債務名義」となり、訴訟・調停等の裁判手続を経由することなく強制執行の申し立てが可能になります。
例えば、養育費の支払いが滞った場合に備え、執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、養育費が支払わればくなったときには、裁判手続をすることなく裁判所に強制執行の申し立てを行い、相手の金融口座や給料から養育費を差し押さえることができるようになるのです。
実際に強制執行するしないは別として、執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことは、相手に心理的プレッシャーを与え、きちんと金銭を支払ってもらうための有効な手段となります。誰だって、裁判所から差し押さえの連絡が職場に入るなんて恥ずかしいことは避けたいものですしね。
次回は、「財産管理等委任契約書」には、実際にどのような内容を入れておけばいいかを見ていくことにします。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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カテゴリー:大切なモノを守るには
タグ:法律 / 公正証書 / 公証役場 / 財産管理等委任契約書