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8月のシネエッセイ② 「再会の時」 川口恵子

2013.08.21 Wed

ひと夏を過ごした郷里新居浜を去る。7月初旬に母が帰らぬ人となって以来、四十九日の法要を終えるまで過ごしてきた町だ。

その間、多くの人の世話になり支えられた。長く無沙汰を重ねてきたにもかかわらずやさしくしてくれたことに感謝している。父方の叔母には特に世話になった。三男六女の末娘として終戦の年に生まれ、平和の和をとり和子と名づけられた叔母は、着物を着るとすらっとした和風美人だが、おっとりした他の叔母たちと比べ、口を開くと威勢がよい。大家族の中では年が近かったせいもあり、小さい頃からよく遊んでもらい頼りにしていたが、今年は特にこの叔母を頼もしく感じた。

小回りのきく母の自転車で市内の主要箇所を走り回ったおかげで町名にも詳しくなった。昔は本当に学校と家の往復だけだったなと思い返しながら、遠くに住友の工場のおぼろに見える海とやけに近くに見える四国連山(?)の山並みを眺めながら、朝夕、駅近くの橋を渡るのは、何か故郷の町に再び体がなじんでゆくような不思議な感覚だった。

大学入学の春まで過ごした港町(昔はより由緒の感じられる東町という町名だったが、漁師町と合併し、町名変更されてしまった)を夜走ったときはいっきに昔の記憶がよみがえり、苦しくて、昔住んでいた本家で休ませてもらった。すると80歳をこえる伯母が仏間で話し相手になってくれ、ひとつ年上の従兄弟が「お茶でも飲んでいかんかい」といたわってくれる。従兄弟も同じN高校出身の妻を亡くしてはや17回忌だ。「来年はわしも米寿じゃぞい」と豪語する老父と老母の三人で、江戸時代末期の文久に建てられた古くて広い家をなんとか守っている(2013年5月、この伯父も亡くなった。米寿のお祝いをしてあげたかったと、従兄弟が葬儀後の精進落としの場であいさつしていたのに、挨拶状には享年89とあり、複雑な気持ちになったものだ)。

お盆直前には高校の同窓会にも参加することができた。それぞれ仕事に家庭に多忙だった中年盛りの時とはまた違った味わい深い会で、心に明かりがともるようだった。養護教諭になった謙虚で字のきれいなY子さん、学級委員の落ち着きと品格に年齢がおいついた感のある遠縁のAちゃん、姉御肌も変わらぬ医者妻G、ベビーフェースのまま医院を継いだ小学校時代のクラスメートT君、懐かしい顔が並ぶ。

 

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80年代のアメリカ映画にローレンス・カスダン監督の「再会の時」という佳作があったが、覚えている人はいるだろうか。友の死をきっかけに旧友たちが再会し、通夜の時を過ごすといった地味な作品だが、妙に日本人うけするところがあり、当時、話題になった。

撮影監督はジョン・ベイリー。のちに日米合作映画MISHIMAの撮影も担当し、来日。その頃、ポール・シュレイダー監督の秘書として現場にいた私は、この静かで知的なアメリカ人があの「再会の時」を撮った人だと知り、おおいに納得させられた。そしてクルーやスタッフたちと、ラストについて語りあったのだ。

互いに別々の人生を歩んでいた仲間が時を経て再会。ひとたびは懐かしさに心を通わせつつも、やがて食い違う思いが交錯し、深い沈黙に閉ざされる時がくる。

そんなラストで、ふと、ひとりの少女が、座り込んだままの誰かの肩に、片手をそっと置く。

その手がもうひとりの手と触れ合うか触れ合わないかというところで、映画は静かに終わるのだ。

あの距離感がいいよね、なんて、まだほんの20代、30代だった私たちは、生意気にも人生を知った風に、明るく快活に話していたのだった。

2012年8月21日  愛媛新聞「四季録」掲載再会の時

転載番号  G20121201-01035

上記本文は、初出時の原稿に2015年5月、加筆修正したものです。








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タグ:くらし・生活 / 女と映画、川口恵子 / シネエッセイ