2013.11.01 Fri
脱原発 岩手から発信せよ! NO.12
先日久しぶりに盛岡に来た友人に会ったので、復興した三陸の海産物でおもてなしをと考えました。ただ、翌日、一緒に沿岸に行く予定なので、海のものは明日にして、友人に「盛岡牛や岩手白金豚がいいね」といわれ、その日はお肉料理にしました。お料理好きのため、産地や食品添加物にはとても気を使っています。スーパーで、東北の食材をあれこれ見ては、どんなふうに料理するのか、岩手のどこで取れるのかなど私に、熱心に聞いていました。翌日の宿は、震災の津波のヘドロで埋まった旅館でしたが、この夏ボランティアの手によってきれいな建物に復興したところです。周りの魚場も、震災から2年半が過ぎ、そこでようやく育ったアワビ、ホタテの刺身やステーキが出されました。私たちは、それを美味しくいただきながら、震災当時の様子や、徐々に変わっていく街の様子などを話しました。
○風評被害かそれとも
さて、友人が、東京へ帰るので、お土産をなにか岩手のものでと思い、商店でわかめや、水産加工物を手にとって見ていましたら、申し訳なさそうに、「海のものは悪いけど遠慮したい」といわれました。あれ?確か海産物は大好きだったはずなのに。好みが変わったのかな?一瞬沈黙があって、友人の困惑した表情から、はっと、そのときになってようやく、私は思い出したのです。そういえば、野菜は、東京では、茨城、千葉などは安いけれど、西日本の安全性が高いものを多少値が張っても安全なものを買いたいと思っていることを依然に話していたことを。そして、海産物は、北海道産のものは買うけれど、房総半島や、三陸産は避けていることを。
何度も沿岸被災地に通って、非情な津波の猛威を蒙った中で、汚泥にまみれた漁具を引き上げ、家族総出でわかめ収穫し、浜で湯がいたり、ホタテの稚貝を丁寧にくくりつける作業をして、復興に向かって這い上がり食いしばりする人々の姿を見てきた私。でも被災しなかった内陸の盛岡に住んで暮らす私のどこかで、傍観者めいた感は、否めなかったのです。それが、今回、東京の人から見られると、東北岩手県に住んでいるというだけで、それは、被災者であり、「危険な」ものに囲まれて暮らす人だったのです。
「セシウム濃度を調べて安全なものを出荷しているのよ。新聞にも情報は載りますよ。風評被害で売れない苦労している人も多いのよ」といったものの、
「それは、風評じゃなくて、まさに放射能汚染被害でしょ?風評っていっては買い物支援しましょうってごまかそうという政府の巧妙な手口ってことも考えられるよ。マスコミだって信用できないって、今回の原発事故でわかったでしょ」と切り返されました。
事実、今まで、私もこのレポートでその実態を挙げてきました。また、今でも、福島原発の冷却水や汚染地下水が、何万トンも、それも随分前から、海に漏れ出ていて、かなりの放射性物質を含んでいるとニュースが連日のように報道されています。
幼い子供を抱え、これから家庭を支えていかなければならない友人に、私はそれ以上強気で、「だから安全だってば、食べて大丈夫よ」とは言えませんでした。悔しいけれど、すごすごと引き下がるしかすべがありませんでした。幼児や母体に与える影響も灰色の現状をよく知っていればなおさら。
おそらく友人は、知っていたのかもしれませんが、岩手県の汚染牧草や、汚染焼却灰があり、一部の天然物きのこや山菜の出荷停止がまだ続いていることは、もう私は言えませんでした。せっかくいろいろ岩手のもので、もてなそうとする私自身が情けなく悲しくなりました。「おもてなし」とは、相手が喜ぶことをすることです。ならば、この場合は、なにを・・・。自身の今までの反省も含めて本当の意味で、風評被害にあった生産者の気持ちをこのとき始めて知りました。
○もう送ってこないで
今まで、地元で取れた野菜や、お米を都心の子供たちに送っていた方が、震災以来「もう送ってこないでほしい」と、いわれてひどく傷ついたといっていたことを思い出しました。近所の方に、天然物の山菜をいただいたけど、怖くて悪いけど捨てたという人や、長年、低農薬のりんごを栽培し、固定客に送り続けていた果樹農家の方が、しばらくはもう・・・と断られた話も聞きました。一方、福島で、桃と梨を栽培している親戚から、「大丈夫だから食べて」送ってこられたものをやっぱり子供たちには、食べさせられなかったという人もいます。私自身、シイタケは露地物が、味も濃く気に入って買っていたのに、ハウスで菌床栽培されたものを選んでしまうようになりました。
放射能汚染が、人間関係も壊していく・・・。信頼も安心も奪い、懐疑心が非情に、長年培われた温かい人の心を蝕んでいく・・・。
震災の原発事故以前にも、青森県六ヶ所村で水揚げされた魚から、セシウム基準値を超えるものがあれば、出荷せずに、捨てる映像をドキュメント映画で見ました。捨てるって、どこへ?遠浅の海にです。放射性物質は、すぐには消滅しませんから、捨てられた魚はほかの生き物に食べられ、循環していくので、移動するだけです。めぐりめぐってまた、私たちのもとにやってきます。
今、停止している原発ですが、完全に停止しているということはなく、冷却はし続けなければなりません。そのため、汚染濃度が低い冷却水は、今この瞬間も日本周辺の海にどんどん放出されています。
「なんでまだ岩手に住んでいるの?早くこっちへておいでよ」と中部圏の友達は言います。東京だって、名古屋だって、大阪だって、九州だって、地震多発国に原発が50数基に囲まれていたらどこも危険じゃないの。海だって、全部つながっているのよ。
じゃあ私たちは、どうしたらいいの?
次々に天災に見舞われ、もう「震災は過去のもの」と感じている方は多いのではないでしょうか?「忘れない3.11」なんて新聞の見出しを見ると、逆に、もう忘れることが出来る人がいるのか?と驚きます。
東北内の沿岸被災地と内陸部、また、東北の人とそれ以外の人では、既に、放射能問題に対する認識に、大きなずれが出てきています。オリンピックで景気回復を狙う東京とでは、なおさら。では、私たちは、その中で、どういう共通点を見つけ、進んでいくべきなのでしょうか?
昔話のふるさと『遠野物語』で有名な岩手県遠野市は、岩手県沿岸被災地への陸路からの経由地として、震災以来中継地点として、重要な位置を担っています。ただここも、原発事故の影響で放射性セシウム暫定基準値を超越した公共牧場と農家所有牧草地は、計4260ヘクタール。汚染牧草を一般ごみと混ぜて償却して、1日1.5トン焼却処理を進め、2013年10月現在まで257トンを焼却し続けてきました。同じ被害を抱える他市に比べて対策は進んでいますが、遠野の牧草地は林間地や急傾斜地が混在していて、1510ヘクタールは除染が困難です。また畜産農家も放牧と採草の自粛で畜舎飼育の負担が増えて、牛を手放した繁殖農家は105戸。しかも高齢者や小規模農家が廃業。震災や放射能被害があったから土地だから、若者世代が離れていくのでなく、日本全部を覆っている少子高齢化の波が、輪をかけて東北を襲っている現状も見えてきます。
それでも、遠野市は、観光客と、被災地支援の業者やボランティアの宿泊先として震災以来年間60万人前後の宿泊実績があります。今も、震災特需は続いていますが、今後これがどう変わっていくのか。復興が進めば、その反面、人口減による過疎化問題が違う形で浮上するでしょう。その前にどのような手を打っていくべきか。これは、日本のどこの地域でも問題になっていくことです。
○健康で安全な暮らしにむけて
今まで、約1年間12回にわたって、震災後から岩手の放射能汚染にかかわる現状と問題点をお伝えしてきました。現実を捉え、他人任せにせずに、分かろうとする努力を私なりにしてきました。しかし、果たしてこのことが、風評被害から岩手を守ったかどうか疑問が残ります。うやむやにしてしまった方が、追求しないほうが、知らないほうが安心な暮らしが出来るのかもしれません。
放射能の危険を声高にいい、自分は知っているから避けられる、逃げきろうというのでは、いけないはずです。放出されてしまった放射性物質を回収することは今のところ不可能です。でも、科学はどんどん進歩していくはずです。その方向を今ある原発を廃炉にし、新設しないこと、漏れ出てしまわないようにどうにかくい止めること、低濃度の放射性物質で被爆した人々の健康管理を長期にわたってしていくこと、被爆した大地や海を元に戻すこと。被災者の生活を再建すること。
そして、原子爆弾も、核ミサイルも、劣化ウラン弾など核を持たないこと。それを地球上でいっせいに行うこと。そちらへ科学者も国家も国民もシフトしていくこと。
これらが誰もが、健康で、安全な暮らしをしていくために、即刻しなければいけないことです。これは不可能なことなのでしょうか?
原発の問題は、すぐに解決が見つかることではありません。放出された放射性物質が地球上から消滅するまでには、千代に八千代に苔の生すまでかかります。2011年3月の震災を経験した私たちが、常に問題意識を持ち、お互いに共通点を見つけ、協力しあい、未来に残していけることを足元から、勧めていくしかありません。まず、一歩ずつ確実に「脱原発」へ向かって進みましょう。
拙いレポートを長きにわたり、お読みいただきありがとうございました。ぜひ、岩手にいらしてください。そして、ご自分の目と足と頭と舌で考えてください。
お待ちしています。
2013.10.25
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シリーズ「脱原発 岩手から発信せよ」は、毎月月初めにアップ予定です。 シリーズをまとめて読まれる方はこちらからどうぞ。
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