2013.11.30 Sat
食べることに興味がなくて、必要な栄養分をすべて含む「錠剤」があればいいのにと空想する女の子だった(同じことを言った女優さんがいて[生意気]とバッシングされた時代)。それは私の「女らしさ」への幼い反発だったと今なら思える。
小さいときから偏食で「肉類すべてダメ」「乳製品もNO」という子どもに母は手を焼いていた。「どんなしつけをしたのかと思われる」と「良妻賢母」の母はよくこぼした。実際に毎日のお弁当に苦労していた。半世紀ぶりにあった中学時代の友達に「今でもシラスボシと卵焼きとノリしか食べないの?」といわれたくらいワンパターンのお弁当しか食べなかった。偏食というのは一方において「こだわり」が強いということでもある。トマト、チリメン山椒、エビフライが大好きでこれらについては今でも貪欲である。若い頃よくご馳走してくれたプロフェッサーに「なにが食べたい?」と聞かれるたびに、「エビフライ」と答えてはグルメの師をがっかりさせたものだった。
長じて料理する側になっても偏食は変わらない。肉の料理はするのだが、味を見ることもいっさいしないので、上達するはずもない。働く傍らのご飯づくりはひたすらわずらわしくて、「賢い女は料理が上手」というデキル女たちの言葉にもひるむことなく、「錠剤」信仰はますます強固なものになった。
そんな信仰がこのごろぐらつくことがある。女友だちと作って食べるときだ。つい最近、D-WANの実務班(ミニコミ図書館の作業に従事する4人)が、メンバーの一人の別荘の新築祝い(をかねた合宿)で集まった。現役をリタイアーしたアラカン以上の2人と現役ばりばりのアラフォー2人。言ってみれば母と娘である。私の肉嫌いを知っている彼女たちは買い物するときから用心深く肉類を避けてくれた。
女4人がキッチンに立てば、「大根はもっと厚く切ったほうがよくない?」「塩が足りなくない?」「いや、お酢をちょっと足すのがいいと思う」…喧々諤々だが「嫁と姑」ではないので険悪にならずになんとなく落ち着く。グチも憂さも鍋に放り込む。口と手を忙しく動かしながらたちまち出来上がるサラダ各種におでん、白和え、サーモンマリネ。
ぐつぐつ煮えるおでんに空きっ腹を刺激されながら、しばし「おあずけ」でD-WANの合宿がビシバシ始まった。
2時間後。
女手一人で子どもを育てあげ別荘までつくった女主人にシャンペン、ワインで乾杯。テーブルの上の色も鮮やかなご馳走はあっという間に消えうせた。新鮮な野菜のおいしかったことといったら!
香り、歯ざわり、見た目の美しさ。湯気にかすむ女友だちの笑顔――私の信仰はもろくも崩れるのだった。
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シリーズ「晩ごはん、なあに?」は、WANの運営ボランティアに集う人々によるリレーエッセイです。 食べることは生きること。 さまざまな人たちがWANの理念に賛同し、実際にサイト運営に関わっていることを、皆さんに知っていただければと思っています。
シリーズ「晩ごはん、なあに?」は、毎月月末にアップ予定です。 今までの「晩ごはん、なあに?」をまとめて読むには、こちらからどうぞ!
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