2014.05.20 Tue
娘が自ら「ひとり親」を選んで2年になる。子どもは3歳9カ月。元気に幼稚園に通っている。
赤石千衣子著『ひとり親家庭』(岩波新書 2014年4月18日発行)は、ひとり親にとって、とても参考になる本だ。著者もまた非婚のシングルマザーとしてずっと生きてきた。
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女性の貧困が今更のようにいわれ、とりわけシングルマザーの社会的・経済的困窮が引き起こす事件が、時折、紙面に載るにもかかわらず、これまで、ひとり親家庭の現状について具体的なデータや生の声を伝える本は少なかった。
「ひとり親であることは、半分以上の確率で貧困に陥る。食べていくための暮らしは何とか紡いでいるかもしれない。しかし子どもへの十分な教育費を捻出することは困難」という背景には、年収で100万円から200万円の階層に約35%の母子世帯が暮らしていること。平均年間就労収入が181万円、児童扶養手当、児童手当その他を入れても平均で223万円。一方、シングルファーザーの平均年収は380万円、平均年間就労収入360万円。それに対して「男性稼ぎ手型」社会の日本では、子どもがいる世帯全体の平均収入が658万円。その結果、シングルマザーの収入比率は全体の34%、シングルファーザーは58%となる(2011全国母子世帯等調査)。
就労率は高いのに低収入、それが日本のひとり親の現状だという。かつては細々ながらも正規職についていたシングルマザーも、今は非正規職やパート・アルバイト、派遣の仕事がほとんど。持ち家率29.8%。安い家賃の家を探すのもひと苦労だ。
離婚後、養育費は19.7%しか払われていない。養育費の取り決めをした人も37.7%。1世帯平均43482円。一人の子どもを養育するには食費、被服費、教育費等々で少なくとも57000円はかかるというのに。ましてやDVによる離婚は夫から逃れるだけでも必死。養育費を請求するすべもない。
男たちを逃がすな。
でも、この本に出てくるシングルマザーは、暮らしのしんどさや子育ての大変さを乗り越えて、みんな明るい。子連れ離婚を選んだことに全く悔いはない、と読みとった。
彼女たちに「社会に訴えたいことは?」と問えば、お金や経済的負担より、「時間がほしい」と答える(「母子家庭の仕事とくらし」アンケート)。それほどに追われる日々の忙しさ、自由になる自分の時間がないということか。
低所得層のシングルマザーにとって、国民健康保険料や国民年金保険料などの負担はズシリと重い。やがて子どもが成長すれば進学のための母子・寡婦福祉資金貸付金の修学資金や就学支度資金の制度はある。確かに貸付金を受けている間は母子ともに助かるが、卒業後は返済義務に追われる。近年、奨学金も含めて返済の滞納が増えているという。これでは奨学金とは名ばかり、借金というべきか。
赤石さんは当事者たちにあたたかい目線を注ぐ。自らの経験に基づくアドバイスも的確だ。インタビューに答えるシングルマザーも、その子どもたちも、どこかで相談窓口とつながり、さまざまな人々の支援を受け、ギリギリの生活だけど力強く生きている。それに、ありきたりの「幻の家族像」にとらわれていないのが、いい。
「自助」は、いわれなくても、みんな精一杯やっている。「ひとりではない」と思える仲間づくりやネットワークを「共助」でつくっていきたい。そしてこの国にはあまりにも少ない「公助」を、みんなで強く訴えていかなければ。
100人のひとり親がいれば100通りの生き方がある。自ら選んだ道を、よりよく生きていくのはもちろんのこと、やがて巣立つ子どもたちに、格差のない平等な未来を保障する責務が、大人には課されているのではないだろうか。
「ひとり親」になってまだ日が浅い娘にとって、子育ても自らの確かな自立も、これからが山あり谷ありの道になるだろう。
娘と孫は、いま身近に支えてくれるたくさんの友がいる。あたたかく見守ってくれる大人たちにも恵まれている。それがなによりも、うれしい。
新緑の連休。孫娘は近くの御所や鴨川の河原を走りまわり、ちょっと遠出のドライブに、天の橋立へ小さな旅。5月5日は、待ちに待った京フィルの「はじめてのクラシックコンサート」へ。イプセンのお話にグリーグが作曲した「ペール・ギュント」の「音楽とおとぎばなし」を聴いて楽しんだ。
びっくりするほど早い子どもの成長に、私も負けないように伴走しながら、そぉっと、そばで見守っていきたい。
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