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永久欠番『42』に秘められた実話  松口かおり

2014.09.14 Sun

42 ~世界を変えた男~ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産)

販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ( )

定価:¥ 4,093 ( 中古価格 ¥ 1,340 より )

Amazon価格:¥ 6,400

時間:128 分

2 枚組 ( DVD )

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映画タイトルの『42』…それは野球選手の背番号。現在アメリカの全野球チームで永久欠番となっている『42』を背負っていたのは黒人初のメジャー・リーガー、ジャッキー・ロビンソン。この映画は1945~1947年にスポットをあてて、彼のデビュー当時の苦悩、そしてチームをワールド・シリーズに導いた活躍を、実話に基づいて描いています。

1945年アメリカで、ブルックリン・ドジャース(現ロサンゼルス・ドジャースの前身)のオーナーであるブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)は、長い間考えていた「ある計画」を実行にうつそうとしていました。当時はジム・クロウ法(黒人の公共施設利用を禁止・制限)が南部の州法でありながら、不文律の慣習法として人々の間で残っておりメジャー・リーグでも16球団の選手400名全員が白人でした。黒人で野球がうまい選手はメジャー・リーグではなく、地方を巡業する黒人のみの「ニグロ・リーグ」を活躍の場としていたのです。そうした時代背景の中で、リッキーは優秀な黒人選手ジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)をブルックリン・ドジャースに入れることにしたのです。

適正な報酬契約を提示したオーナーのリッキーがジャッキーに求めた「条件」がありました。それは【怒りをコントロールすること】。メディアをはじめいろんな方面からのバッシング、人種差別的な激しいヤジ、またチームメイトからのハラスメントが起こりうることも、容易に予想できました。しかしそれらに対し「奴らのレベルで戦ってはいけない」「“やり返さない勇気”を持つ選手になれ」「君が戦いに勝つ方法は2つしかない。立派な紳士であり偉大な選手だと示すことだ」

この過酷な戦い、野球を越えた理想のための戦いをジャッキーがどのように乗り越えていったのでしょうか。彼の卓越した身体能力や強靱な精神力によるところが大でしょう。しかし、「ぼくとつ」だけれど真摯で説得力のあるリッキーのタイムリーな励ましの言葉、自分たちが何と戦っているのかを理解し困難を一緒に立ち向かった妻レイチェル・ロビンソン(ニコール・ベハーリー)の愛情、自身も職業上で同じ様な差別を受けている野球記者ウェンデル・スミス(アンドレ・ホランド)の的確なアドバイス、最初は差別的だったけれどジャッキーのすばらしいプレイと態度を通して変わっていくチームメイト…支えとなった人々の存在も大きかったはずです。

ところで、リッキーを演じたハリソン・フォード、とてもよい味を出しています。個人的にはリッキーという人物に大変興味を持ちました。人生をかけた信念を実現させるために「時」を待ち、「金と権力」は彼のように使うのがかっこいい。深い言葉にもしびれます。フィラデフィア・フィリーズの監督から低俗でひどいヤジを受けた試合後、憤慨する秘書ハロルドと事務所で話すリッキーの場面で、なんだかグッときたのが次のセリフ。“Sympathy” It’s a Greek word. It means “to suffer.” “I sympathize with you” means “I suffer with you.”(“同情”の語源はギリシャ語の“苦しみ”だ。“苦しみを共に分かつ”という意味だ。)“Philadelphia” is a Greek. Means “brotherly love.”(“フィラデルフィア”もギリシャ語だ。“兄弟愛”という意味だよ。)皮肉も光っています。

この映画が描いている1945年から69年の時が流れた2014年現在、4月にはNBAバスケットボールチーム、ロサンゼルス・クリッパーズのオーナーであるドナルド・スターリング氏が人種差別発言により退任に追い込まれました。隔世の感があります。しかし一方、8月にはアメリカ・ミズーリ州セントルイス郊外ファーガソンで丸腰の18歳黒人少年が白人警官に射殺される事件が起こり、地域住民による抗議デモや暴動にまで発展しました。時の流れの中で社会風潮の何が変わって、人間の本質の何が変わっていないのか、そして私達はどう変わっていくべきなのか…そんなことを考えながらこの映画を鑑賞するとおもしろいかもしれません。人種差別に限らず、女性に対する差別、そしてあらゆる差別に対して持つべき視点だと私は考えています。

[トリビア] 4月15日は「ジャッキー・ロビンソン・デー」です。メジャー・リーグでは選手全員が背番号42のついたユニフォームを着用して試合をするそうです。








カテゴリー:DVD紹介

タグ:くらし・生活 / 映画 / スポーツ / 人種差別 / DVD / 松口かおり / アメリカ映画