2014.10.10 Fri
友達や仕事仲間と、軽く飲んで小腹も満たすのに手っ取り早い店は、なんといっても居酒屋だ。安くて、メンバーの嗜好もさほど考えなくてすむ。地方に行けば、地元の幸も味わえて、しっかりと食事までできる。まさしく庶民の味方、日本が誇る食文化のひとつだ。日本食の魅力も手軽に実感できるから、外国人観光客に人気なのもうなずける。
ただ、若い頃はあまり気にならなかったが、私のように舌も体格も?ある程度肥えた中年となった今、もう少し素材の良い物で、健康志向とはいかないまでも、控えめな味付けのつまみが恋しくなる。なんせ、安ければ安い居酒屋ほど、残留農薬が心配な中国産?の野菜を食べることになるし、使っている油がひどいところも多い。もちろん、良心的なお店は当然あるけれど、チェーン店などはそうやって低価格で提供し、競争に打ち勝っているのだろう。懐具合が乏しいのだから、贅沢などいえる客ではないが、そこそこの金額を支払っても、量は少なくてもいいから、できれば栄養バランスがよくて美味しいものが食べたい。
そうした思いから、私は居酒屋ではなく、自宅に友人たちを招いて、買い置きしたワインやビールと、簡単なスペイン料理を出すようにしている。当然、散らかし放題の自宅を片付ける余裕があるときに限るのだけれど・・・。
ほんとうは「パエリア」でも作ればいいのだが、新鮮な魚介類がないと良いダシがでない。しかも買い物と下準備に、結構な時間がとられてしまう。そんなときにぴったりなのが「ピンチョス」だ。もともとはスペインの北部、バスク州言語である、バスク語で「串」を意味する pintxoから名付けられたそうだが、スペイン料理と呼ぶには大げさに聞こえるほど、簡単に作れる。
スモークサーモンや、ツナや鰯の缶詰、あるいはちょっと奮発して!! 生ハムを広げ、緑黄色野菜を添えれば、調理をする必要もない。スライスしたフランスパンに、彩りよくトッピングしてしまえば、すぐできてしまう。もっとパンチを効かせたければ、鶏のから揚げや、ウインナーやソーセージをドカ~ンとのせる。味付けは塩&コショウを基本に、マヨネーズで味付けをすると若者にうけるし、さらにチーズをのせても相性がいい。
特にこの季節、おすすめなのは「秋刀魚」。三枚におろした生のものを4~5センチに切り、塩・コショウし小麦粉を少々まぶす。フライパンにオリーブオイルを多めにひいて、こんがりと焼き上げる。これに薄くスライスした玉ねぎとトマトをトッピングする。好みによってはケチャップを薄く塗ってもいいが、そのままでも充分に美味しい。ほんの数滴、醤油をたらすと、さらに香りも楽しめる。もっと濃厚な味にしたいときには、アボガドを使うのがおすすめ。
寿司の食文化に親しんでいる日本人にとっては、食材の組み合わせの妙を楽しむセンスと味覚は、この「ピンチョス」でも大いに発揮できるのだ。私が考える盛り付けは、信号色でもある3色の具材が基本になっている。
① 赤・・・ピーマン、トマト、ハムなど
② 青・・・サラダ菜、アボガド、きゅうりなど
③ 黄色・・・鶏肉、コロッケ、揚げ物、オムレツ、チーズなど
色を意識すれば、見た目にも彩り豊かで、味のバランスが取りやすい。スペインのちょっとしたBARに負けないシャレた1品となる。パンはライ麦入りのドイツパンでも美味。ワインは辛口の赤ワインで。アルコールが苦手なひとには、甘みを加えていない炭酸水か、葡萄ジュースを。テーブルをお洒落にしたければ、斬新な柄の紙ナプキンをお皿の下に敷くと、雰囲気が出る(最近は100円ショップでもレベルの高いものが売っている)。
本場では、よく串や爪楊枝を刺して、つまみや軽食用として、BARのカウンターに並べられている。そもそもスペインのBARは、日本でいう「居酒屋」そのもの。お店によって、トッピングに工夫をこらしている店も多いが、会計時に、客が残した串や爪楊枝の数を数えることで、いくつ「ピンチョス」を食べたかがわかり、会計が実にスムーズなのだ。しかもこの串や爪楊枝は、盛りすぎた具材がパンから転げ落ちないように、ストッパー的な役目もしている。
「ピンチョス」は何をのせるかで、作り手の料理の腕と美意識が試される、ともいえるが、要は時間をかけすぎないことがポイントだ。来客を招く際、料理の準備に手間をかけ過ぎると、どうしてもそれだけで疲れてしまう。エネルギーは友達とのおしゃべりに残しておこう。友人たちとの距離はグ~ンと縮まり、ワインの手助けも合って、話が弾むはず。
料理に迷ったら、「ピンチョス」で。手早く、しかもおしゃれに来客をもてなしたいときにはもってこいだ。ぜひ、お試しあれ。
カテゴリー:スペインエッセイ