2015.03.25 Wed
『問題のあるレストラン』
放映:2015年1月~3月、フジテレビ系列
脚本:坂本裕二
主演:真木よう子
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/mondainoaru_restaurant/index.html
通勤途中の女性に、上司らしき男性が声をかける。「なんだ顔、疲れてんな~。残業?」「いや、ふつーに寝ましたけど」と女性が返すと、間髪入れず「寝てそれ?ハハ」と男性。職場のあるビルに入り、オシャレ系の女性とのやり取りの後、(男性)「やっぱカワイイな~、あの子」(女性)「そうですね、いい子だし」。すると「大丈夫だよ~、吉野とはジュヨーが違うんだから」と言いおいて男性は去る。
ジュヨーって何?と思っていると、ご丁寧に「需要 【じゅ・よう】求められること。この場合、『単なる仕事仲間』であり、『職場の華』ではないという揶揄」という解説画面が出て、次に冒頭の女性の画像にかぶさる大きな文字とナレーション――「変わりたい?変わらなきゃ」
これはドラマではなく、批判が殺到したLUMINEの「働く女性たちを応援するスペシャルムービー」である。削除寸前の動画をネットで見たのだが、21世紀に入ってもう15年経つのにこれか~と思うと、暗然とした。これをCMとして作った人たちは、本当に何も考えずに配信するところまで行ったのか?もしかして、全然違う展開だったのに最終盤で横やりが入って、無理やりこんな筋立てになってしまったんじゃないだろうか?と思いたいくらいだ。
で、このご時世に非常にタイムリーなドラマが、先週終わったばかりの『問題のあるレストラン』である。
「いい仕事がしたい」「人生は、どれだけ心が震えたかで、決まる」という持論を持つ32歳の田中たま子(真木よう子)は、勤めていた仕出し会社が大手飲食業会社に吸収合併されたため、合併先の「ライクダイニングサービス」で働くことになった。面接で「うちの社は、女性に輝いてもらいたいと思っています。女性ならではの視点でお願いしますよ」と言われたものの、そこはあらゆるセクハラ・パワハラが横行し、同僚男性に手柄を横取りされるような職場だった。それでもひたむきに新規店舗立ち上げのため奔走する毎日だったが、ある時、同じ会社に勤めていた高校時代の同級生、藤村五月(菊池亜希子)がどんな仕打ちを受けて辞職に至ったかを知り、彼女の無念を晴らす行動に出る。その結果、自分も会社を辞めざるを得なかったたま子は、自らが企画したレストランのすぐそばのビルで、吹きさらしの屋上に小さなビストロをオープンすることを決意した。
仲間として誘ったのは、東大卒でプライドは高いが実務能力に欠ける元同僚の新田結実(二階堂ふみ)、同じくたま子の元同級生で離婚調停中の専業主婦、三千院鏡子(臼田あさ美)、極端な人間嫌いのフリーターで料理の才能がある雨木千佳(松岡茉優)、フランスでパティシエ修行をしてきたゲイの几ハイジ(安田顕)、移動カフェをたま子と一緒にやっていた烏森奈々美(YOU)の面々。共通点は全員無職であること、何かしらの傷を抱えていること。
初めはぎくしゃくしていた女性たち(+ハイジ)の関係が少しずつ深まり、ライバル店から川奈藍里(高畑充希)も仲間に加わったところで、数々の困難に直面してきた「ビストロ・フー」もようやく軌道に乗る。他方、ライクダイニングサービスが運営し、たま子の元恋人、門司誠人(東出昌大)がシェフを務めるレストラン「シンフォニック」の方は、雨木太郎社長(杉本哲太)が五月に与えた屈辱的命令がセクハラ・パワハラとして大々的に報道されたことで、閉鎖に追い込まれた。だが、「ビストロ・フー」の方にも新たな問題が持ち上がる…。
ドラマの宣伝にあたっては、セクハラ・パワハラし放題の男性陣(=ライクダイニングサービス)と男性中心社会で生きづらさを経験してきた女性陣(=ビストロ・フー)の対決の構図が強調されており、登場人物のセリフにも「勝ち負け」にかかわる言葉が何度も出てくる。
たとえば、巻き髪で念入りな化粧をし、あからさまなセクハラ行為にもいやなそぶりを見せない藍里は、彼女を嫌う結実に向かって「負けを認めればいいじゃない。こっちは男に抑えつけられたらな~んにもできないんだから」と言う。別の場面で藍里はこんなふうにまくしたてる。「あたし、いっつも心に水着着てますよ。おしりとか触られても、全然なんにも言わないですよ。おしり触られても全然なんにも感じない教習所、卒業したんで。その服、男受け悪いよ~とか言われても、あ~すいませ~んて返せる教習所も卒業したんで。痩せろ~とかやらせろ~とか言われても笑ってごまかせる教習所も出ました。免許証、お財布にぱんぱん入ってます。痴漢されたら、スカート履いてる方が悪いんです。好きじゃない男の人に食事に誘われて断るのは、えらそ~な勘違い女なので、ダメです。セクハラされたら、先方は温もりが欲しかっただけなので、許しましょう。悪気はないので、こっちはスルーして受け入れるのが正解です…」しゃべり続ける藍里に、たま子は手を添え、きっぱり言う。「触らせちゃダメ」「あなたの身体は、髪も、胸も、おしりも、全部、あなただけのものなんだから。好きじゃない人には触らせちゃダメ。」
その藍里も、レストランの同僚から一方的に好意を寄せられ、ストーカーまがいの行為の果てに暴力を受けた時は、こう言い放つに至る。「いくらケーキが好きだからって、まずいケーキまで好きなわけ、ないじゃないですか。好きな男は好きだけど、嫌いな男は嫌いですよ。当然。」
会社を辞めて郷里に戻った五月も、婚約者の理解とサポートを得て、雨木を裁判で訴える決意をする。夫から否定的な言葉をかけられ続けたことで自尊感情をまったく持てずにいた鏡子は、一人息子を「夫のような男性にしない」ため、手元に取り戻す。恋愛経験を持たないことに劣等感を感じていた結実は、成り行きで関係を持った星野(菅田将暉)からあっさり見放されたことにも、東大卒の学歴に見合う職業に就けなかったことにも拘泥するのをやめ、「わたし、この(ビストロでの)仕事に誇り、持ってます」と言えるようになる。
たしかに表面的には、いろいろな形で女性たちをないがしろにし、見下してきた男性たちに復讐を挑むドラマである。実際、五月が「ここは反撃のできない戦場のようだ」と感じる原因を作った同僚男性一人ひとりに、たま子が氷水をぶっかけて行くシーンは小気味がいい。だがたま子が実践したのは、目に見える復讐だけではない。むしろ、傷を負った女性たちに「あなたはあなたのままでいい」と(言葉で直接言わなくても)語りかけ続けることだった。女性たちの傷は、周囲の男性たちが無責任に期待する「かくあるべし」という鋳型に無理やりはめ込まれたり、お前はそのままではダメだというメッセージを与えられ続けたりすることでできたものだからだ。そして、「私は大丈夫」という意識は、ビストロでの具体的な仕事を通じて醸成され、そういう意識に支えられた仕事は実を結んでいく。
だからこそ、冒頭に紹介したLUMINEのムービーは「ありえない」のだ。少しでも仕事がしやすくなるなら、髪を巻く手間くらいたいしたことない、って考える女性もいるだろうし、無神経な上司に直接反論するより、(春物買いに行って)キレイになって見返してやればいい、という発想もあるだろう。だけど、男性目線での「単なる仕事仲間」から「職場の華」カテゴリーに昇格したら、働きやすくなるんだろうか?いい仕事をすることにつながるんだろうか?女性が二分され、仕事の中身とは関係ないところで値踏みされるような状況こそが、「変わらなきゃ」じゃないの?
互いをけなすのではなく受け入れ、互いに競争するのではなく支え合う――そういう職場をたま子は作ろうとしたのだと思う。で、そういう職場は男性がいても作ることができるのか?が次の問題かもしれない。
「ドラマの中の働く女たち」は毎月25日に掲載の予定です。これまでの記事はこちらからどうぞ。
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