2015.07.18 Sat
47 養育費…こんな場合は
・前夫との間で離婚の際に養育費についても合意しました。数回は支払われましたが、その後「失業した」と言って払ってくれません。
・離婚することと、私が子どもの親権者になることまでは、夫と合意しましたが、「生活保護を受給しているから、養育費は払わない」と言い張るので困っています。
・前夫との間で養育費の取決めもして離婚しましたが、その後「(前夫が)再婚したので、減額する」と言われました。応じなくてはいけないでしょうか。私が再婚した場合はどうでしょうか。
・夫は「算定表」の上限を超える収入を得ていますが、「算定表」の上限の金額しか払わないと言い張ります。算定表のもとになった算定方式計算するべきではないでしょうか。
◎ 失業した場合
リストラされて収入がなくなった場合には、収入がゼロとして新たに算定し直すことになります(ゼロならゼロになってしまいます)。
しかし、リストラされたわけではなく、働こうと思えば働けるのに仕事を辞めて無収入になった場合にまで、ゼロと扱うのは適当ではありません。
審判例で、申立人(夫)は先行する審判の強制執行を免れるために勤務先を退職したものであるから、申立人が現在収入を得ていないことを前提に養育費を免除することは相当でないとして、申立人の潜在的稼働能力(現に今は仕事をしてお金を稼いでいないけれども、働こうと思えば一定の収入を得ることができる力)を前提に申立人が勤務を続けていれば得られたはずの収入に基づき養育費を算定し、申立人の養育費免除の申立てを却下した事案が参考になります(福岡家審平成18年1月18日家月58巻8号80頁)。
仮にリストラなど養育費を支払わなければいけない人(義務者)の責任ではないことで失業しても、失業保険を受給している場合、その金額分の収入が給与としてあることと同様に扱って養育費の請求をすることができます。なお、算定表は、義務者(給与所得者)の収入から職業費等が予め控除された基礎収入が前提としていますが、失業している場合、原則として職業費がかからないで、職業費を控除することなく、基礎収入を算定します。具体的な数値は法律相談を受けて弁護士に確認したほうがいいでしょう。
◎ 生活保護を受給している場合
義務者が生活保護費を受給している場合、養育費の支払い義務は負いません。生活保護は、国が困窮した人に健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度です(憲法25条)。そこから養育費を負担することになるとすれば、最低限度の生活すら送れないよう追い詰めることになり、生活保護制度の趣旨に反します。
しかし払ってもらえないと、養育費を受け取る側(権利者)のほうも生活がおぼつかない…?権利者こそ児童手当や児童扶養手当を受給してもまだ生活が大変、というような場合、生活保護の申請を検討してください。
◎ 再婚した場合
義務者が再婚したというだけでは、いったん合意した養育費の条項を変更する事情(民法880条「事情に変更が生じたとき」)とはいえないでしょう。しかし、再婚相手方が病気や幼少の子どもの監護等を担っている等の事情があり、再婚相手の潜在的稼働能力を認めることが困難であるとか、義務者と再婚相手との間に子どもが生まれたといった場合には、変更すべき事情にあたるでしょう。
変更すべき事情が生じたといえる場合、再婚相手や子どもをどのように算定方式の中で考慮するかは、ケースバイケースです。便宜的に再婚相手の生活費の指数を14歳以下の子どものそれである55として計算したりします。
また、子どもについては、乳幼児の時期は再婚相手の潜在的稼働能力も認められないとして、生活費指数55のままで計算されることもあれば、再婚相手も応分の扶養義務を果たせるものとみなされて、2分の1の27.5として計算されることもあります。
再婚相手に連れ子がいる場合は、どうでしょうか。義務者と連れ子が同居しているというだけでは、義務者に連れ子の扶養義務があるとはいえず、変更すべき事情があるとはいえません。しかし、義務者と連れ子が養子縁組もした場合には、連れ子についても扶養義務があることになります。そこで、再婚相手との間に子どもが生まれた場合と同様、14歳以下の場合生活費指数55(あるいはその半分)、15歳以上の場合生活費指数90(あるいはその半分)を組み入れて計算することになります。
養育費を請求する権利者のほうが再婚した場合はどうでしょうか。義務者が再婚した場合の裏返しです。子どもと再婚相手が単に同居するだけで養子縁組していない場合は、再婚相手が子どもに扶養義務を負うとはいえませんが、養子縁組した場合には、義父ないし義母となった再婚相手がまず非親権者たるそれまでの義務者よりもまず扶養義務を負うことになり、事情変更があるとして減免の請求ができるでしょう。ただし、非親権者としても、全く払わないというよりも減額しても払い続けたほうが、子どもを配慮していることを示すことができて、よいのではないでしょうか。
離婚後、義務者に再婚、養子縁組や新たな子の出生等の事情が生じたケースで、事情変更があるとして、養育費の減額を認めた判断があります(福岡高決平成26年6月30日、家庭と法の裁判1号88頁)。
◎ 上限を超えている場合
義務者の収入が算定表の目盛の上限を超えている場合(給与所得者で2000万円を超える場合と自営業者で1409万円を超える場合)、算定表のもとになっている算定方式で計算していけば、算定表上の上限の金額(たとえば、子1人で14歳以下の場合、上限は18万円~20万円)よりも多い金額を計算することができ、権利者としてはその金額を請求したいものです。上記の福岡高決平成26年6月30日は、義務者が2000万円を超える収入のある場合であり、計算方式にのっとって計算しています。
ところが、義務者が上限を超えた収入を得ている場合でも、子どもの養育費は、表の上限の金額にとどめるのが相当と考える裁判官もいます(上の場合、算定方式で計算すると30万円等となる場合でも、18万~20万円の枠内で判断する)。
当事者間の協議で金額を合意することが難しい場合には調停を経て、審判にて、個々の裁判官の判断に委ねることになりますが、どのように主張するのが適当か、法律相談に赴かれて個別の事情を説明して助言を得ること、あるいは代理人をつけて綿密に主張してもらうことをお勧めします。
カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド
タグ:非婚・結婚・離婚 / フェミニズム / 女性学 / 生活保護 / 失業 / 弁護士 / 打越さく良 / 親権 / 養育費 / 再婚 / 暮らし・生活 / 監護権 / 学費
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