2012.07.14 Sat
変わった本が出ました。
河出書房新社のシリーズ「14歳の世渡り術」のなかの、『ほかの誰も薦めなかったとしても今のうちに読んでおくべきだと思う本を紹介します。』(タイトルが長いね~)という本です。
本田由紀、大澤真幸、森達也、辛酸なめ子さんなど30人が30冊を紹介した読書案内。そこに上野も書きました。編集者のお許しを得て、一部ご紹介を。全文転載するのはルール違反ですから、長い中略つきです。
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「聖書」
上野千鶴子(社会学者)
もしあなたが14歳なら。
「世渡り」なんぞ、考えないことです。
思春期のどまんなか。女の子なら初潮が始まり、いやおうなしにからだつきが変わり、男の子なら声変わりがし、むさくるしいと思っていた体毛が生えてくる人生の季節。目の前にいる母親や父親の生き方がまんま自分の将来のような気がして、ンな、バカな、と世の中まるごとリセットしたくなる年齢。高校進学が迫ってきて、友だちが偏差値で輪切りにされていき、自分のライフコースもそれで決まるような気分におしつぶされそうなころ。自分がだれかもわからないのに、友情だの恋愛だのというマジックワードにふりまわされてへとへとになる時期。
出て行く「世の中」がどんなものか、わからない。ましてその「世の中」を「渡る」ってどんなことか、ますますわからない。
「世の中」ってどんなものか、書いてある本を読んで予習することはできます。
でも言っておくけど、そんなもの、何の役にも立ちませんから、読まなくてもいいです。あなたが世の中にでていくころには、本に書いてあることと現実が違っているだけでなく、他人が生きた世の中は、しょせん、他人の人生。「世の中」について知るには、実際にそれに直面してからでも遅くありません。
まだ世の中に出ていないキミに必要なのは、「世渡り」術なんかじゃ、ありません。時流に乗り遅れまいとするのはおとなにまかせておきなさい。キミたちは時流に乗ってさえいないのですから、そんな世の中との追いかけっこをするにおよびません。もっと根本的な、にんげんとは何か、どういう生きものなのか、ことばを発明してから何千年ものあいだ、いったい何を考えてきたのか、という謎です。
そのためには絶好のテキストがあります。
「聖書」です。
信仰心を持たなくてもかまいません。神様に救ってもらおう、なんて思わなくてもかまいません。宗教書だと思わずに読めばよいのです。
( 長い中略)
あなたが14歳なら。
時間とともに劣化しない書物をお読みなさい。あなた以前に何万人も、何百、何千万のひとたちが読んできた書物をお読みなさい。
それがすぐれた書物だから、ではありません。
人間とは何か、人間はどんなことばを必要として生きてきたのか、がはらわたに沁みるようにわかるからです。
それは「世渡り」とは、まったく別のものです。
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