上野研究室

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都知事選は脱原発都民投票だ ちづこのブログNo.59

2014.01.23 Thu

都知事選について北海道新聞の取材を受けた。え、なんで北海道新聞?
脱原発のような国政マターが地方政治の争点になることをどう思うか、という趣旨だとか。
自民党は地方政治は生活に密着したテーマのバランスを考えて投票を、とか言ってるらしいが、「郵政民営化、是か非か」のシングルイッシューで選挙をやったくせに、他人のことを言えたぎりではないだろう。たんに争点を拡散させたいと思っているにすぎない。
地方だって国政マターが関係する選挙はいくらもある。名護市長選がそうだし、大阪の橋下だって、「大阪都構想」なんて国会で法律を変えないかぎりどうにもならないことを公約に掲げた。
首都圏の首長選挙は、脱原発について他の地方が注目するほど特別な意味を持つ。
第1に首都圏人口は周辺地域まで入れるとほぼ日本の人口の3分の1が集中。ここの政治的動向の影響は大きい。
第2に福島原発事故では最悪の場合避難地域になる可能性もあった(菅直人の『福島第1原発事故の時に首相として考えたこと』を読むと背筋が寒くなる。首都圏1千万の避難があれば日本は沈没して二度と再浮上はないだろうと考えたとか)。他の地域とは原発事故の恐怖に対する温度差がある。
第3に福島原発の大消費地としての当事者意識がある。事故直後の東電「無計画」停電の際には、都民はそれを思い知らされた。文句も言わずにそれを受忍した都民たちは、自分たちが節電さえすれば原発はいらない、と骨身に沁みて思ったはずだ。
第4に「原発都民投票」の提案に、法定署名数を超える32万人余の署名が集まった。都議会で否決されたが、脱原発を住民投票で問おうとした動きは現にあったのだ。
都知事選がシングルイッシューで戦われた先例は過去にもある。
都市博廃止のみを公約にかかげて当選した青島氏の例である。この公約を実現したほかには、これと言って青島知事は業績を残さなかったが、そのあいだ都政は機能していた。都庁の職員のレベルが高いことは知られており、とりわけ福祉行政の担当者のレベルは高い。
「知事は君臨すれども統治せず」でも都政はまわる。かえってへたに手をつけてもらわないほうがよいくらいだ。現に石原都政になってから東京都の福祉行政の水準は下がった。
「君臨すれども統治せず」の統治能力の低い知事がトップにいてもよい理由は、東京都だけが、全国の自治体のなかで税収増を経験している例外的な自治体だからだ。前進戦に名将は要らない。すぐれたリーダーシップは後退戦にこそ必要とされる。知事がいなくても来年度の予算案が粛々とできていくさまを都民は目の当たりにしているし、ここに「猪瀬カラー」など出してもらわないほうが福祉予算には有利だろう。
地方政治で国政マターを問うていけない理由は何もない。名護市民はそれを痛感したはずだし、原発立地の自治体についても同じことが言える。新潟県の泉田知事は健闘している。原発や基地のような「迷惑施設」をつくるときには地元自治体の同意がいるというルールはあたりまえのルールだが、政府はどうやらこのルールを変更したいらしい。争いの最中に自分に有利なようにゲームのルールを変えるのは卑劣だ。
またpptは農業者の暮らしを直撃するから自民党支持者であっても反対にまわるだろう。原発電力消費地の住民についても、同じことが言えるはずだ。
それに有権者はシングルイッシューだけを選んでいるわけではない。身の回りを直撃するできごとから国政マターまで連続性を持った政策の組み合わせを選んでいる。
今度の都知事選挙が脱原発選挙になる根拠はいくつもある。
福島原発事故以後、初の国政選挙は、脱原発が争点にならなかった。理由のひとつは原発の恐怖への各地の温度差にある。そのなかでは、実際に緊急避難をしたひとたちも含めて、都民の原発コンシャスネスは高い。
それに国政選挙で、山本太郎議員を当選させた人々の選挙活動やユニークな選挙パフォーマンスをくりひろげた三宅洋平氏などの選挙運動の経験がある。
また官邸前金曜デモを代表とするようなアクティビズムの参加者の経験も蓄積されてきている。こういう経験と人材の蓄積はあなどれない力を持っている。
自治体首長選挙は、代議制民主主義のような間接的民主主義とちがって、直接民主主義に近い性格を持っている。だからこそ、首長と地方議会の「ねじれ」も起きる。都知事選が「脱原発都民投票」の役割を果たすだろうと期待するのは、有権者が当事者意識を持つということだ。そして「おまかせ民主主義」から脱却するということだ。

カテゴリー:ブログ

タグ:くらし・生活 / 脱原発 / 上野千鶴子

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