2014.12.01 Mon
ひっさしぶり〜のブログ更新です。
新刊の書評を書いたのでご紹介を。
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今井coco『親友はエイズで死んだ 沙耶とわたしの2000日』青土社、2014年(熊本日々新聞11/23読書欄)
エイズについて書かれた本は多いが、意外と体験記は少ない。エイズ患者の闘病記は見かけないし、その周辺の人たちが書いたものもあまりない。薬害エイズについては堂々と被害者として告発できるかもしれないが、性行為から感染した人たちにはまだスティグマがあるのだろうか。それにエイズはゲイの病、と思われているからか、女性が異性愛行為から感染したケースについて書かれた本は、もっと少ない。多くは専門家や支援者たちからの予防や啓発のための書物である。
この日本にもエイズで亡くなった女性はいる。風俗関係のしごとをしている女性たちは、リスクと背中合わせのはずだ。その人たちは、たぶん、沈黙を守っている。
著者の今井cocoさんには、旧著『アダチャ稼業』(明月堂書店、2007年)がある。「アダチャ」って、「アダルト・チャット」のこと。インターネットの普及にともなって、新種の風俗ビジネスが登場した。パソコンにそなえつけたカメラで、ひとり暮らしの女性の室内を写す。チャットで会話しながら、男性客の要求に応えて、衣服を脱いだり、あられもないポーズをとったりする。そのつど、対価が発生し、料金があがっていく。そんなビジネス、よくも考えついたものだと思うが、カネを出す男がいるかぎり、なくならない。女性にしてみれば、ネット上のことだから、相手に触られたりいやなことをされるリスクはない。そんな「アダチャ稼業」の女性たちのうちに、本番の風俗業でエイズにかかって仕事ができなくなったひとが、混じり込んでいる、とあった。きっとそうだろうなあ、その女性たちはどうしているんだろうか、と興味を持った。
今井さんの第二作がこれ。彼女には「書きたい、書かなければ」というつよい思いがあった。キャバクラ嬢の時代にライバルだった女性と親友になり、その死をみとった記録だ。エイズは潜伏期間が長く、感染経路はわからないことが多い。HIV陽性だったことがわかったときの親友の衝撃、混乱、悲嘆を受け止めた。当時交際していた男性にうちあけて、HIV検査を受けるように依頼し、その結果が陰性とわかったとき、男は立ち去った。だが、彼女は去らなかった。家族にも言えず、苦しむ親友を最後まで支えた。
実は著者に本書を書くように勧めたのは、わたしだ。頼まれて帯の文章を書いた。
「AIDSで亡くなった友とのたいせつな約束。
「わたしのことを、いつかきっと書いてね」
約束を果たした著者に、彼女が残したのは「生きる 理由」….
女と女の信頼と友情のドキュメント。」
本書はエイズで死んだ親友の記録であるだけでなく、その友を支えぬくことで「生きる理由」を手に入れた著者の再生の記録でもある。そしてその再生を可能にしたのは、女同士の友情だった。帯にはこうも書いた。
「男との恋愛ばかりが女を変えるわけではない。
女との友情も女を変える。」
世の中は『アナ雪(アナと雪の女王)』の時代。凍りついた姉を溶かしたのは妹の愛情だった。ジブリ作品の『思い出のマーニー』も、ふたりの少女の友情の物語。そういえば、連続TV小説の『花子とアン』も、女同士の「腹心の友」の物語だった。友情は男の独占物ではない。「女に友情は成り立つか?」と問われた野蛮な時代があったとは、信じられない。
(注)WANブックストア「著者・編集者からの紹介」頁に同じ本が。
http://wan.or.jp/book/?p=8243
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タグ:上野千鶴子 / リプロダクティブ・ヘルス/ライツ